第82話・ワタシら特攻りんり~ずを舐めんじゃねェ~ヨッ!
「ここって、リアルじゃないんですよねェ?」と高速を踏み潰す足を止めて洋子が尋ねる。
「あんなチッコい小人なんてありえないし・・。」と仁美。
「わたし達、本当に暴れちゃっていいんですか?」と里緒も尋ねる。
「これって、リアルだよ。」
「わたしら脱法ハーブなんて吸わなかったでしょ。」と幸恵。
「ワタシらはァ、別の世界にトリップしてるの。」
「なのでェ、ここでの事は全て許されるってワケ。」
「だから、いいこと!遠慮しないでもっと暴れるからね。」と続ける幸恵。
さすがにレディースりんり~ずリーダーの言葉に納得する3人組。
そうこうしている内に左前方の広大な平原に展開する大量の集団が見えてきた。
「アレッてなんですかねェ?」と目を凝らす里緒。
「あれはわたし達の敵、ナチの機甲師団よ。」と応えるわたし。
「キコウ・・ってなんすかァ?」とまたまた能天気に聞き返す里緒だった。
「要するに戦車とか大砲とか兵隊とかってこと!」と幸恵がフォローする。
だんだん見えてきたドイツ軍部隊は想像していたよりも大編成だった。
見たところ戦車が400両以上に自走砲を含む装甲車やハーフトラックは1000両以上。
据え付けられている大砲は約300門。
後方に待機中の兵員輸送トラックは2000台以上だった。
そしてこの機甲師団を支援している歩兵部隊は4万人を超えていた。
これらの大部隊がわたし達の目の前の平原20m四方の中に展開していた。
先程からアウトバーンを徹底的に破壊してきたわたし達。
すでに彼らにも巨大女出現の一報は入っているだろうし、実際にわたし達が近づいてくる事にも気づいているはずだ。
という事はわたし達への攻撃準備をすでに完了している可能性が高かった。
洋子や仁美によってメチャメチャに踏み潰されたアウトバーンから少し離れてこの大部隊の正面にやって来たわたし達。
幸恵を先頭に特攻レディースの3人がその後ろに並び、わたしと麻美は両サイドに立った。
よく見てみると、全ての戦車を5~6名づつの装甲擲弾兵が支援し、すでに砲撃態勢を整えているようだった。
「あんなもんで、ワタシらりんり~ずを倒そうって事ですかね?」とニヤつきながらつぶやく洋子。
「ワタシら舐められてるんですかねェ?」と仁美。
「なんか、ガチでやる気出てきちゃいましたヨ。」と里緒。
さすがは特攻レディースりんり~ずだ。
大部隊の火力など最初から全く問題にしていない。
怖がる素振りを見せるどころか、ミニチュアサイズの戦車隊に余裕すら見せていた。
そういえばこの間のトリップの時にドイツ軍を壊滅させた幸恵でさえ、彼らの砲撃前に秒殺してしまったからまだ未体験だった。
腕組みをしてドイツ軍部隊を睨みつける幸恵はもはやレディースリーダーとしての風格に満ち溢れていた。
そして彼女に従う3人のレディース達も腰に手を当てて仁王立ちになっている。
すると幸恵がいきなり叫んだ。
「イケテル女子りんり~ずリーダー、ワタシ幸恵を夜露死苦~!」
続いて洋子、仁美、里緒の順で自己紹介の叫び声を上げる。
「イケテル女子りんり~ず2番手、ワタシ洋子がボコッてやんから覚悟しなァ!」
「イケテル女子りんり~ず3番手、ワタシ仁美を舐めんじゃねェヨッ!」
「イケテル女子りんり~ず4番手、ワタシ里緒の特攻ブーツで地獄に送ってやんよっ!」
そういい終わった瞬間だった、ドイツ機甲師団の一斉射撃が始まった。
400両の戦車と300門の88mm砲に装甲車など数千の小型砲による集中砲火は思っていたより凄まじかった。
オレンジ色の無数の閃光が走り、わたし達目掛けて飛んできた。
手前の戦車隊による射撃はわたし達のブーツの筒の部分に当たり、後方の砲兵隊による砲撃はわたし達のジーパンやジャケットを襲った。
いつもの通り殆ど衝撃も痛みすらも感じなかったが、初体験のレディースりんり~ずのメンバーはさすがに一瞬たじろいで両手で顔を覆った。
ドイツ軍部隊による集中砲火は数分間続いたが、一旦砲撃が止んだ。
わたし達へのダメージを確認したかったのだろう、しかし彼らにとっては残念なことにわたし達はピンピンしていた。
それどころかお気に入りの特攻ブーツやジーパン、それに大切なチームのロゴ入りパープルジャケットに白っぽいすすけた様な砲撃痕を付けられて、特攻レディース達の怒りは頂点に達していた。
これは面白いことになるとわたしも麻美もしばらくは高みの見物を決め込んで、両サイドから見守る事にした。
砲撃による硝煙が消え始めると、レディース達の怒り心頭に満ちた形相が見えてきた。
それを見た前線の戦車部隊の指揮官達は慌てて後退を命じた。
ゆっくりと後退を始める戦車をみてまず洋子が走り出す。
「ザケんじゃねえヨッ!」
❝ズンズンズンズンズン!❞
洋子の巨大な特攻ブーツが大地を揺るがせながらドイツ軍戦車隊に迫る。
あっと言う間に先頭に布陣していた十数両の戦車を跨ぎ越してヤンキー座りになった彼女。
足元の戦車隊に目いっぱい顔を近づけて叫んだ。
「ワタシらりんり~ずを舐めてんのかっ、コラッ!」
「気分わり~んだヨッ!」
小人達の耳の鼓膜が破れるくらい凄まじい怒声で唾しぶきを飛ばしながら怒鳴り散らす彼女。
戦車の背中に乗っていた装甲擲弾兵達は恐怖から走って逃げ出そうとしていた。
そんな彼らを巨大な黒い影が覆った。
激高した洋子が右足を振り上げて、特攻ブーツによる怒りの一撃を加えようとしていたのだ。