第81話・ワタシら特攻レディースの本性を見なさい!
唾まみれになった車を白いロング手袋をはめた左手の平に載せて中を見つめる里緒。
里緒に車ごと呑み込まれそうになった彼らは想像を絶する程の恐怖を味わったはずだから、車の中で凍り付いているに違いない。
「早く出て来いっつ~の!」とイライラし始めた彼女。
右手人差し指を車のルーフにグイグイと押しつけ始めた。
強烈な彼女の力によって次第にへこみ始める車の天井。
たまらずドアが開いて中から4人の男達が飛び出してきた。
ところが白い皮製の手袋の上でヌルッとした唾に足を取られてすっ転ぶ彼ら。
体中に里緒の吐いた唾が絡みついてもがき苦しんでいる。
「アッハッハッ!なにコイツら?マジでチョーうける!」
彼女の手の平の上で、のた打ち回る男達の滑稽な姿に笑いが止まらない里緒。
それを見てわたし達もニヤニヤと笑っている。
ムスッとした表情だった洋子も口元に笑みを浮かべていた。
「そいつらナチだから殺しちゃいなよォ!」と幸恵。
「えっ?ナチって何なんですか?」とまたしても聞き返す里緒。
「要するに悪党って事、ワタシらの敵なんだからァ!」と念を押す幸恵。
「へェ~、そうなんですかァ?うっふっふ、じゃあ遠慮なくゥ~。」
「えいっ!」と小さな掛け声と共に仰向けになっていた手前の男の顔に指先を押し付ける彼女。
バタついていた男の上半身が里緒の指先に押されて、薄汚れた白い手袋の手の平面にどんどんめり込んでいく。
そして沈み込んでいく体の両サイドからは里緒の唾液が泡状になってブクブクと噴き出してきた。
ゆっくりと指先を上げると男はすでに息絶えていた。
「いい気味!次はオマエだぞォ~!」そういうと隣のスーツ姿の男に指を押し当てる彼女。
今度は指先で右に左に転がしながら弄び始めた。
押さえつける指先にもだんだんと力が入ってきたのか次第に男の首や手足がもげ始めた。
「ア~ラ、可哀想にごめんなさいネ~!」と言って指先を上げると舌なめずりしながら次の獲物に向かって指を突き立てる彼女。
彼女が狙いをつけた緑色の軍服姿の男は、2人の同僚が目の前でなぶり殺しに遭ったのを見てすっかり動転してしまい座り込んで動けない状態だった。
そんな彼に狙いを定めて、まるでデコピンでもやるように人差し指で“ピーン!”と男を弾き飛ばした彼女。
指先がヒットした瞬間に男の体はバラバラになって飛び散った。
「ビンゴ~!・・みたいな。アッハッハッ!」と笑いながら男を弾き飛ばした右手でジーパンの腰の辺りを激しく叩いて喜ぶ里緒。
残った男は恐怖のあまり車の中に逃げ込んでしまった。
「そんな所に逃げても無駄だっつ~の!」
「ワタシを馬鹿にしてんのかヨォ!」とドスを利かせた声で怒鳴りつける彼女。
「死ねっ!」
❝グシュッ!❞
左手をギュッと握り締めると車はクシャリと潰れた。
彼女の手の平には指型をクッキリと残した薄っぺらい車の残骸が乗っかっていた。
「あ~、おもしろかったァ!」そういうと里緒は車の残骸をその場に投げ捨てた。
「そろそろイイよねェ?」と今まで黙っていた洋子がつぶやいた。
組んでいた両腕を開いて両手を腰に当てた瞬間だった。
「ウリャッ!」
❝ズッゴ~ン!❞
いきなり右足で高速道路を踏み潰した彼女。
他愛も無い遊びにしびれを切らしたのか、ライトブラウンの特攻ブーツが高架道路を粉々に踏み砕いた。
辺り一面にモクモクと土煙が立ち上り洋子の特攻ブーツを汚した。
それを合図に今度は仁美が両足でアウトバーンの上に飛び乗った。
「え~いっ!」
❝ジュッヴォ~ン!❞
黄色い声がひっくり返るような叫び声と共に、仁美のダークブラウンの特攻ブーツが高速道路をメチャメチャに踏み壊した。
更に里緒は白い特攻ブーツのつま先から甲にかけての部分を高架の下にもぐり込ませると一気に蹴り上げた。
「そりゃ~っ!」
❝ヴァッコ~ン!❞
蹴り上げられた高架道路は走っていた車もろともバラバラになって空中高く吹き飛んでいった。
こうなったらあとは徹底的に壊しまくるのが特攻レディースの本性だ。
先程まではあんなに優しかった仁美も、問答無用に道路上を走っている車などお構いなしに踏み潰し始めた。
しかも飛び跳ねるようにして踏みつけるから高架道路は跡形も無く粉々に踏み砕かれた。
正にりんり~ずの特攻ブーツによる凄まじい破壊が今始まったばかりだった。
最初のひと踏みで高架道路を粉砕した洋子は、そのまま都市の方角に向かって両足で道路を踏み潰しながら歩き出した。
「邪魔くせ~んだよ!オラッ!!」
❝ジュヴォッ!ジュヴォッ!ジュヴォッ!❞
一歩一歩確実に洋子の特攻ブーツがアウトバーンを踏み砕いていく。
その後ろを洋子の踏み残した部分や橋脚をなぎ払うようにトドメの一撃を加えていく仁美。
都市とは逆方向に向かう道路を蹴り上げながら壊しまくる里緒も、その内にこちらのほうに駆け寄ってきた。
「マジでここって楽しいっすよねェ!」と興奮気味の里緒。
洋子は無言で足元の道路を見つめながらひたすら行進し続けている。
わたし達に向かって走ってくる車はそのまま洋子の振り上げた特攻ブーツに突っ込んでいくか、道路上で踏み砕かれるしかなかった。
そして、わたし達が壊し歩いているアウトバーンの数十メートル左前方には何やら黒く細かい大量の集団が見えた。
❝あれこそ演習中のドイツ軍の大部隊に違いない。❞
そう確信したわたしは、この次に繰り広げられるであろう地獄絵図を想像しながらウキウキしていた。