第80話・ワタシら心優しい特攻レディースよ!
緑のじゅうたんの中に降り立ったわたし達。
でもいつものように歩くたびに“ズブッ!”と数センチほど沈み込む。
だからわたし達6人が立っているエリアはあっと言う間にブーツ痕でいっぱいになった。
「なんか変な感触ですよねここって。」と里緒がつぶやいた。
洋子は険しい表情で黙ったまま腕を組んでいる。
仁美はきょろきょろと辺りを見廻している。
里緒は足元がよほど気になるのか何度も地面を踏みつけては自分の足跡を見つめている。
「あの線何だろう?」と仁美がグレーのラインを指差した。
わたし達から10数メートルのところにあるピーンと伸びたラインは50m以上向こうの都市に向かって伸びていた。
恐らく鉄道か道路だろうと直感したわたし。
しかしレディースの面々はそんな事には全く気づいていない。
まだ自分達のサイズが160~170mの巨大女だという事にすら気づいていなかった。
でもどう考えても普通の野原でない事は察しがつくはずだ。
そんな中、謎のラインに向かって歩き出したわたし達。
美しい緑のじゅうたんにわたし達6人の無数の靴跡がどす黒い帯となって刻み付けられていく。
グレーのラインが近づくにつれてはっきりと見えてきた。
それは高速道路だった。
ドイツを縦横無尽に駆け巡る速度無制限のアウトバーンだ。
片側3車線の高架道路はわたし達のサイズで幅35cmくらい、踏み潰すにはちょうど良いサイズだった。
巨大なわたし達に気づいた道路上の車は難を避けようと凄いスピードで駆け抜けていく。
高速だから一旦停まってUターンすることなどできないからアクセルを踏み込んで逃げるしかない。
するとレディースの3人組みがアウトバーンに駆け寄ってジロジロと観察し始めた。
「ウワッ!チッコくねェ?」と驚く里緒。
「このミニカー、ちゃんと動いてんじゃん!」と顔を近づける洋子。
「メッチャ、かっわいィ~!」とはしゃぎだす仁美。
洋子は腕組みしながらアウトバーンを跨いで仁王立ちになった。
里緒は走り過ぎて行く車に顔を近づけて楽しそうに見つめている。
すると仁美が道路上にゆっくりと手を近づけた。
そして行く手を塞ごうとする彼女の巨大な白いロング手袋をはめた手を見て慌てて減速する車。
そんな車の中から乗用車を1台摘み上げて左手の平にチョコンと載せた彼女。
左手を顔に目いっぱい近づけながらこう叫んだ。
「わたし仁美って言うの、出ておいでよォ~!」
車の中には4人の家族連れが乗っているようだったが、あまりにも巨大な仁美の事を怖がって出てこない。
すると彼女は人差し指の指先で車のルーフに軽~く❝トントン❞とノックした。
すると後部ドアが開いて中から小さな男の子と女の子が出てきた。
「こんにちは!よろしくネ!」
「怖がらせてゴメンネ!」と優しく語りかける仁美。
すぐに若い両親が降りてきて子供達を抱きしめた。
「わたし、何にもしないから安心して下さい!」と優しく微笑みかける彼女。
車を載せた左手が仁美の口元だったから、彼女がささやき掛ける度に彼らは仁美の唾臭混じりの甘ったるい口臭に包まれた。
でもそんなに酷い臭いではなかったから、子供達は仁美に向かって手を振ってくれた。
「チョー可愛い~!」とニコニコ顔の彼女。
今度は車に戻るように指先で優しく合図した。
それを見て車に乗り込む彼ら。
それを確認すると仁美はゆっくりとしゃがみ込んで、車を町とは反対方向に向かう車線に丁寧に置いてあげた。
「バイバ~イ、またね~!」と小さく手を振る彼女。
車はゆっくりと走り出しその内に遥か彼方へと消えていった。
アウトバーンをいきなり破壊するのかと思っていたわたしは、ちょっと意外な展開にむしろホッとしていた。
仁美の手の平の家族を見た時は複雑な心境になったわたし。
ひょっとして彼女が無慈悲に握り殺してしまうんじゃないかと思ったからだ。
でも武闘派レディースの彼女達も普段は優しい女の子なのだ。
だからむやみに子供達をひねり殺したりはしない。
それが分かっただけでも良かった。
仁美の優しい振る舞いを見て、里緒も道路に手を近づけて1台の黒い乗用車を捕まえた。
仁美と同じように左手の平に載せる彼女。
「これってェ、ベンツかなァ?」とつぶやく。
手の上の車は高級そうな黒塗りのリムジンタイプだった。
そして中には4人の男性が乗っているようだった。
ダークスーツの男3人に緑色の制服姿の男が1人。
「そいつらナチじゃないかなァ?」とわたし。
「ナチって何ですか?」と聞き返す里緒。
「出てこ~い!」と少し乱暴にルーフを指先で叩く彼女。
中の連中は窓を閉めて一向に出てこようとしなかった。
すると次の瞬間、右手で車を摘み上げた彼女、パクリと口の中に入れてしまった。
「ちょっと何やってんのよ里緒!」と叫ぶ幸恵。
その言葉にニッコリと微笑み返しながら口を開けて車を取り出す彼女。
「呑み込んだりしませんよォ!」と言いながら再び左手の上に載せた。
里緒の口から出てきた車はネットリと糸を引いた状態で、ガラスは一面白く濁った気泡混じりの里緒の唾にまみれていた。
「何か変な味!ペッ!」と言って車のルーフに向かって唾を吐き掛ける彼女。
黒塗りの車は里緒の唾液で包み込まれていた。
これでは中のやつらは出てこられないだろう。




