第7話・わたしの闘いが始まる
わたしはナチス軍と闘う自分を想像しながらすっかり眠り込んでしまった。
目が覚めるとすでに夕方になっていた。
今日はバイトもお休みだったのでのんびりしすぎちゃった。
でも何だかとっても疲れ気味のわたし、向こうの世界にトリップするのはかなり体に応えるらしい。
でもわたしは正義の巨大ヒロインなのだ。そんな事は言っていられない。
早くまたあの世界に行ってみたい、そんな気持ちで再びワクワクし始めた。
その前に準備をしなければ・・。
まずは昨夜即決価格で落としたアイボリー色の皮製ロング手袋、もうネットバンクで入金を済ませたから今日か明日中には送ってくるはず。
❝あ~、早くはめてみた~い!あのロング手袋❞ なんて思いながらとりあえず部屋を片付けるわたし。
そして一段落したのでコーヒーでも飲んで一息入れる。
手袋が送られてきたら早速行動開始だ、でも少し頭の中を整理しておかなければならない。
わたしの目的は単に街を破壊する事ではない。
そこに巣食うナチの奴らを徹底的に全滅させる事だ。
ナチスの兵士を踏み殺しても一般の住民を殺すわけにはいかない。
その事はよく覚えておかなければ。
巨大な体で暴れる高揚感と一種の快感でわたしは我を忘れてしまいがちだったから、もう少し冷静にならなければならない。
でも今度は大丈夫だと思う。
もうすでにひと暴れしたから自分の感情をコントロールできる自信はある。
そう自分に言い聞かせてわたしは夕食を食べに出かけた。
翌日オークションで落札した手袋が送られて来た。
早速取り出してはめてみる。
わたしの手にピッタリのサイズだ。
内側に付いているファスナーも中々カッコよくおしゃれ。
今日のトップスは濃い赤系のチェック柄のシャツだ。
遠目には白っぽい感じのこのアイボリー色のロング手袋、濃い色のシャツに映えまくっている。
長さも40cm位でわたしのヒジの少し手前位まであるので長すぎず短すぎずちょうど良い。
そして、ついでにお気に入りのスキニー系ネイビーブルーのジーンズにダークブラウンのロングブーツを履いて鏡の前に立ってみる。
なかなかカッコよく決まっているわたし!
❝よ~し、今夜早速トリップしてみよう!❞ そう心に決めて夜を待つ。
そしてまたあの公園に行ってみる。
思った通り誰もいないので素早く例の手鏡を取り出して右手の上でかざし呪文を唱える。
しかし・・、何の反応も起こらない?
「え~! なんで~? どうして何も起こらないの?」
わたしはちょっとパニック気味になったが、何回か試してみる事に。
結局この日はトリップする事もできずに諦める事にした。
❝何でだろ?❞という思いだけが残ったが、あくる日もその次の日も夜の公園に行って試してみた。
そしてもうそろそろ諦めてしまおうと思い始めていた前回のトリップから10日目の夜の事である。
今夜は特に念を込めて呪文を唱えた。
すると目の前が薄いグリーンの光に包まれ、わたしの待ちに待った瞬間が訪れた。
ひょっとするとこの入り口が現れるのは10日周期なのかもしれない。
そう思いながらわたしは扉を開けて中に入っていく。
そして❝小さくてもいいからどこかの町に行けます様に・・❞ とイメージしながら扉のノブに手を掛けた。
扉を開けてあたりを見渡すとそこにはわたしの希望通り小ぶりな町が広がっていた。
わたしのサイズで10m四方くらいに住宅がたくさん建っていて中心部には小さなビルがいくつか見える。
ちょうど町外れだったので一旦降りてみる事に。
❝ズシーン!ズシーン!❞ わたしの足音が響き渡る。
中心部につながるメインストリートは片側一車線で幅が20cmくらいだ。
前回は足元を気にしながら歩いたが、もうそんな気持ちは全くない。
町の中心部に向かって道路を踏み抜きながらお構い無しに進むわたし。
何台か駐車している車があったみたいだが気づかないうちに踏み潰してしまったみたい。
出来立てのわたしの靴跡の中に潰れた車が何台か見えた。
そして町の中心に着いて足元を見渡してみる。
わたしが立っているロータリーの真ん中には綺麗な噴水があり、その正面に5階建てのビルが建っている。
天井からは赤地に白い丸抜きの中にカギ十字のマークが書いてある旗が吊り下げられていた。
❝これだ!まさしくナチスドイツの旗だ。わたしの思ったとおりだった。❞
これで心置きなく大暴れできるというものだ。
「これが、ナチの本拠だな!よ~し、まずはコイツからぶっ壊してやろうかしら。」とつぶやくわたし。
更にビルの周りには6棟ほど役所のような5~6階建てのビルが建っている。
とりあえずこの辺の建物を破壊して騒ぎを起こせば必ずナチスの部隊がやって来るはずだ。
そう確信したわたしは右足をナチスビルの天井に載せて軽く押さえつけるようなポーズを取った。
今日のわたしのコスチュームは足元からダークブラウンのロングブーツ。
ヒールは6cm丈で5cm幅位のシッカリしたタイプだ。
このブーツはかなり使い込んでいるから、つま先のあたりにはかなり擦り傷がついていて使用感たっぷりだ。
そしてジーパンはいつも履いているお気に入りの紺系スキニージーンズ。
お尻から太ももにかけてピッタリとフィットしていて履き心地も良い。
そしてヒザとお尻のあたりはかなり色落ちしていてイイ感じにビンテージっぽく仕上がっている。
パンツの内側には股下からオレンジ色の糸で縫い込まれたラインが入っていてこのラインとブーツのファスナーのラインがピッタリとジョイントしていて何とも美しい。
そしてトップスはこの間からずっと着ているダークレッド地に薄い黄色系の細いラインが縦横に入ったチェック柄のシャツ。
手には本皮製アイボリー色のロング手袋ともう完璧な格好のわたし。
「わたしはジーパンレディー律子です!」
「今からこの街を破壊します!住民の皆さんはすぐに避難して下さい!」
「ナチの奴らはわたしが1人残らず退治します!だから安心して下さい!」
そう呼びかけたわたしはナチスビルの天井を押さえつけていた右足のヒザにほんの少し力を込めた・・。