第6話・わたしの敵ゲルマニア
その頃、律子が大暴れしたポーランド国境に近いドイツの小都市ベルゲンシュタットでは東部方面軍集団のエルンスト・シュミット陸軍中将が全滅した第11機甲師団第3機械化旅団の現地視察に訪れていた。
司令官のルドルフ・ケール准将は死亡し、副官のヘルムート・シュルツ少佐が被害状況を報告していた。
シュルツ少佐
「我が軍の損害はタイガー型戦車30両、ハーフトラック10両、88mm対戦車砲5門、輸送用トラック20台、死亡1101名、負傷116名です。」
シュミット将軍
「いったい、どういう事なのだ? 部隊を全滅させた巨大女とはいったい何者なのだ?」
少佐
「斥候小隊から突然郊外に身長160m以上の巨大な女が現れ、市内に侵入したとの報告があったのですが私も最初は信じられませんでした。」
「しかし、ケール准将は取り急ぎ部隊を招集し出動命令を下しました。」
「先発隊より巨大女が市内中心部に到達したとの報告が入り我々も現場へ急行しこの目で確認しました。」
中将
「それは人間なのか?どんな様子だったか詳しく報告してくれ。」
少佐
「女はの東洋系の推定年齢30歳位、ロングヘアーでダークブルーのジーンズにブーツを着用していました。そして先ほど情報部から入った報告では女が話していた言語は日本語であり、どうも日本人の女のようです。」
「名前をフジモリ・リツコと名乗り、その後自らをジーパンレディーと名乗っております。」
中将
「そのリツコという巨人はいきなり暴れだしたのかね?」
少佐
「いいえ、女が中心街にやってきた時は街を破壊する事はなく記録映像を分析した翻訳官によれば極めて友好的な発言をしていたようです。」
中将
「では、なぜこのような事になったのだ?こちらから発砲したのかね。」
少佐
「女は突然ジーンズのポケットからロングタイプの手袋を取り出して着用し身構えた事から准将が発砲を命令しました。」
「巨大女は積極的な破壊活動は行わなかったものの、その巨大さゆえに歩くだけで道路は2m近く陥没し使用不能な状態になってましたので、司令官も先手を打つべきだと判断したようです。」
中将
「それで攻撃したが我が軍の武器では歯が立たなかった訳だな。」
少佐
「おっしゃる通りです。戦車隊の一斉射撃にも関わらず、ダメージを与えるどころか女の着用していたブーツやジーンズにほんの少し汚れをつけた程度でした。」
中将
「そして反撃を始めた女によって部隊が壊滅した訳か。何という事だ!」
少佐
「女のパワーは凄まじく、ひと踏みでタイガー型戦車もペシャンコに踏み潰され、ご覧のような状況になった次第です。ケール准将も女の蹴り飛ばした戦車の下敷きになって死亡しました。」
報告を続ける少佐の目の前では大きく陥没した律子の靴跡の中に踏み潰されてへばりついた各車両の残骸を撤去する作業が続いていた。また、無残に押しつぶされた兵士達の遺体も次々に搬送されていた。
中将
「しかし、その女が突然消えたというのも解せない。いったいどうしてなのだ?」
少佐
「我々も実際に目撃しながら信じられなかったのですが、突然地上30mほどの空間が緑色に光だして、その中に消えていきました。理由は全く以って不明です。」
律子が襲ったこのベルゲンシュタットは人口1万人程の町だ。
この町に駐屯していたのはドイツ国防軍の機械化旅団であり、時は1983年の事だった。
つまり律子は30年前のヨーロッパにタイムスリップしていたのだ。
しかも律子の住む世界ではナチスドイツ第三帝国は1945年に滅亡しドイツは降伏した訳だが、この世界ではナチス第三帝国が別の歴史を歩んでいたのだ。
1945年敗色濃厚なドイツは核兵器の開発に成功しブラウン博士開発のV2ロケットに核爆弾を搭載してモスクワやロンドンを攻撃し大打撃を与えた。
そしてアルデンヌの森から始まった強力なドイツ機甲師団の反撃作戦により形勢は一挙に逆転しソ連は降伏、イギリスも講和を申し入れアメリカ軍もヨーロッパから撤退した。
その後永世中立国を除く30各国以上の欧州各国はドイツに併合されるか同盟関係を結び第二次世界大戦は終結する事になる。
そしてソ連を含むヨーロッパ全土を傘下に収めたドイツはその全域をゲルマニア帝国と称するようになっていたのだ。
この1983年当事の世界情勢は国家間の戦争は無くなり、アメリカを中心とした資本主義的西側陣営と国家社会主義による思想統制を強化したナチスドイツ第三帝国を中心とした東側陣営、そしてアジア・中東・アフリカ諸国による第三世界と呼ばれる3つの勢力に分かれていた。
強力な軍事力を持つ東側陣営ゲルマニア帝国とアメリカ合衆国中心の西側陣営とは軍事力による均衡が保たれ国家間の戦争は無くなっていた。しかし、ゲルマニア帝国ではドイツを中心にユダヤ人、ロマ人、ジプシーや共産主義者、反体制派の人々が厳しい弾圧を受け各地でレジスタンス活動などの抵抗運動が活発化していた。
正義の巨大ヒロイン・ジーパンレディーとなった律子はまだこの背景を知る由もなかったが、ナチスドイツを全滅させるという使命は自由主義的な人々の理想と一致していた。
そしてこの時代の日本は太平洋戦争でアメリカに無条件降伏し西側陣営に属していた。そういう意味でも日本人の律子はゲルマニアにとっては敵側陣営の1人だったのである。
巨大ヒロイン・ジーパンレディー律子によるナチスドイツ軍を根絶やしにする闘いは今始まったばかりである。