第56話・わたし達が・・・
無抵抗なドイツ兵達を皆殺しにして楽しむSなわたし。
そんなわたしの暴れっぷりに壊滅状態のドイツ軍部隊。
麻美や里奈子も敗残兵を追い掛け回している状態だった。
❝町も破壊したしドイツ軍も全滅させたし、そろそろ時間だわ。❞
そう思った瞬間、わたし達の上空から爆音が聞こえてきた。
見上げると大型のヘリコプターが12機こちらに向かって飛んでくる。
叩き落してやりたい衝動に駆られたが、さすがに27mの身長では彼らに届くはずも無い。
❝どうせ空から攻撃してきてもわたし達には効かないんだから。❞
❝戦車でも投げつけてやろうかしら。❞
そう思って足元の踏み潰された戦車の残骸を拾い上げた瞬間だ、顔に何か冷たいものを感じた。
よく見るとヘリコプターの両サイドに装着されたタンクから霧状のものが噴霧されている。
とっさに“マズイ!”と思って2人に声をかけるわたし。
「みんな、手を口と鼻に当てて!」と叫ぶ。
「何これ?」
「わかったわ!」と応える麻美。
里奈子の方を見ると4機のヘリが長身の彼女目掛けてさかんに液体を吹き掛けている。
「ちょっと何なのよコレ!」と叫びながら両手で顔を覆う彼女。
❝銃や大砲や爆弾は効かないけど、化学兵器ってどうなっちゃうんだろ?❞
急にそんな恐怖感を覚えた。
するとだんだん意識が混濁し始めたわたし。
まるで度数の高いお酒を飲んだ時のように急にクラクラし始めた。
ふと見ると麻美も足元がふらつき始めている。
無味無臭の液体を浴び続けるわたし達。
意識がもうろうとしている中でグリーンの閃光が走った。
❝とりあえず逃げなきゃ・・。❞
そう思って2人に向かって叫ぶわたし。
「急いで~!戻るわよ!」
顔を両手で覆いながら扉に向かって走り出すわたし。
麻美も何とかフラフラしながらも扉に向かって走りだした。
急いで扉の中に入ったわたし、麻美を引き入れて里奈子の方を見る。
扉からほんの5~6mのところに倒れ込んでしまっている。
「里奈ちゃ~ん、早く~!」
そう叫ぶが立ち上がれそうに無い状態だ。
「わたし助けてくる!」と言って扉から出ようとした瞬間、麻美が悲鳴に近い声を上げた。
「ダメよ、扉が消えちゃう~!」
里奈子を残したまま無情にも扉がぼやけ始め、次の扉に進む以外に選択肢は無くなった。
考える間もない一瞬の出来事だった。
「里奈ちゃ~ん、必ず助けに来るからね~!」そう叫ぶわたし。
その声が彼女に届いたのか分からないが、次の扉を開けて元の世界に戻ったわたし達。
不思議な事にこちらの世界に戻ってきたら意識ははっきりとした状態に戻った。
すっかり放心状態になって一旦わたしの部屋に戻るわたし達。
お互いにぼ~っとしながら言葉が出ない。
「マズイよねェ。」とやっと重い口を開く麻美。
「絶対にわたしが里奈ちゃんを助けるわ。」と言ってはみたものの、どうしたらいいのかさっぱりアイデアが浮かばないわたしだった。
「とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着こう!」と切り出す麻美だった。
2人で熱いコーヒーをすすりながら彼女の事を思う。
そして落ち着いてきたら冷静に考える事が出来るようになってきた。
「次のトリップで、わたし達が暴れたのと同じ日に行ける様に場所と日時をイメージすればいいんじゃない?」と麻美。
「でも、同じ日に行ったらもう1人のわたしがいるって事だよね?」
「そんな事できるのかなあ?」と半信半疑なわたし。
「でも10日待って次のトリップで失敗したらヤバイんじゃない?」と心配そうな麻美。
「このトリップのメカニズムもまだよくわかってないしねェ。」と力なく応えるわたし。
「とにかく、次のトリップで出来るだけあの現場に戻れるようにイメージしなきゃ。」と麻美。
「そうねえ、でもわたし達がいる現場に行こうとしたら何か良からぬ事が起こりそうな気がするの。」とわたし。
「そういえば、前にわたしが小人を持って帰ろうとしたら弾けて消えちゃったしね。」と麻美。
「だったら、わたし達がこっちに戻ってきたすぐ後の日時に行ける様にイメージすればいいのよ。」とわたし。
「とにかくこのメカニズムに逆らわないように上手くイメージするわ。」
「あとはこのトリップメカニズムに委ねるしかないわね。」と続けるわたしだった。
「でも、あの後やつら、里奈ちゃんをどうするんだろう?」と麻美。
「っていうか、あの液体をあれだけ浴びてもわたし達、今は平気でしょ。」
「きっと殺されたりなんて事ないと思うな。」
「突然現れて大暴れした巨大女なんて、彼らにとっては興味津々なんじゃないかナ?」と続けるわたし。
「じゃあ、また里奈ちゃんに会えればアイツらを蹴散らして戻れるよね。」と麻美。
「大丈夫よ!わたし達で絶対に里奈ちゃんを助けられるって!」
そういって別れたわたし達だった。
とは言っても次のトリップデーまで長い時間を過ごさなければならない。
職場には家庭の事情で実家に帰ったって事にするしかない。
上司のセンター長はわたしと仲良しだし上手く丸め込まなきゃ。
そんな変な心配までしなければならなかった。
❝あ~、10日後が待ち遠しい。❞
わたし達ジーパンレディースにとっての初めてピンチだった。