第39話・わたし達の靴跡で埋め尽くされた町
❝ズシ~ン!ズシ~ン!ズシ~ン!❞
役所の建物が建ち並ぶ1m四方くらいの一角に向かって歩き出した麻美。
その他のエリアは跡形もないくらいに焦土と化していた。
考えてみれば工場地帯の次にわたし達が破壊しなければならないのがナチの建物が集まっているこの一角だった。
ここは本来わたしが破壊するはずだったが、ドイツ軍部隊を壊滅させるのに夢中になっていたから壊しそびれていた。
だから、ここは麻美に任せる事にした。
ちょっと古めかしいベージュ色のビル群が綺麗に建ち並び、破壊し尽されたヘルネブルグの中で無事だったこの一角だけがまるで別世界のようだった。
しかし、そこに現れたのが破壊の女王麻美である。
「はァ~い!わたしは麻美!暴れ足りないオンナよ!」
「今からこんなもの、ぶっ壊してやるんだからァ、覚悟しなさいよ!」
そう吐き捨てるように叫ぶと、彼女は問答無用で手前のビルを2つまとめて右足で踏み潰した。
❝ズヴォ~ン!❞
「ちょっと、お邪魔しマ~ス!」
❝ズヴァ~ン!❞
そして今度は左足でその隣に建っているビルをも踏み潰す。
しかも膝を高々と上げて渾身の力を込めて踏みつけた。
もの凄い土煙が立ち上り4つのビルが一瞬にして消滅した。
「ど~お?わたしのブーツパワー、凄いでしょ!」
強大な力を見せつけて満足そうな麻美。
「邪魔くさい!ドケッつーの!」
「え~~い!」
❝ズルズルズルズルズッヴァ~ン!❞
絶叫と共に手前に林立しているビル群を右足で思いっきりなぎ払った彼女。
麻美のベージュグレーのロングブーツが弧を描くように凄まじい轟音と共に建物群を爆砕しながら吹き飛ばした。
「ヤッタネッ!マジでスッキリ~・・みたいな!」
「もう一発、これでも喰らえっ!」
「そりゃ~!」
❝ズズズズズッバ~ン!❞
今度は左足で残ったビル群を一気に吹き飛ばす。
もう彼女のブーツは粉塵とえぐられた地面とでドロドロに汚れていた。
わずか2~3分で官庁街の建物は殆どが消えてなくなった。
わたし達の❝都市壊滅作戦❞のフィナーレに相応しい麻美の暴れっぷりだ。
あとは麻美の足元に5棟ほどのビルが残っているだけだった。
「わたしのブーツがとってもイイ感じなんだけどォ。」
「わたしのゴム手袋もォ、壊したくてウズウズしてるんだってェ!」
そういうと彼女はしゃがみ込んで残ったビルをガッチリと右手で掴んだ。
「わたしの前から消えなさい!」
「それっ!」
❝グッシャ~ン!❞
どす黒く汚れた麻美の白いゴム手袋が10階建てのビルを握りつぶした。
「良い子のみんな~!わたしに逆らうとこうなるんだゾォ~!」
「えい!」
❝グッシュ~ン!❞
更に左手で隣のビルを握りつぶす彼女。
「わたしに逆らうなんて~、悪い子だゾッ!」
❝ヴァッズ~ン!❞
右手をゲンコツにしてビルを叩き潰す彼女。
「最後の仕上げはこうなりま~す!」
❝ヴァッヴォ~ン!❞
最後に残った2棟のビルは天井に両手の平を乗せて一気に押し潰した。
「あ~、スッキリした!アッハッハッ!」
立ち上がって手や服に付着した粉塵や汚れを“パンパン”と払い落とす麻美。
「ぜ~んぶ片付いたわよ!」
「これからどうする?」と晴々した表情の彼女。
「そろそろわたし達、戻る時間よ!」と応えるわたし。
「なんか、わたし達ってホントに凄い事したんですよねェ?」と里奈子も満足そうな顔だった。
すると突然町の中心地の上空に扉がうっすらと現れ始めた。
「さァみんな、帰るわよ!」と叫ぶわたし。
わたし達は足早に扉に向かった。
そしてわたしは扉の方に歩きながらこの町をあらためて見回してみた。
わずか1時間の間にこの町は跡形も無く消え去った。
まるで爆撃でも受けたように焦土と化していた。
ただ爆撃による破壊との大きな違いは、わたし達の巨大な靴跡のクレーターが無数に刻み付けられていることだろう。
❝ここまで徹底的に破壊したら、もうこの町を復興するなんて無理だろうな。❞と感じたわたし。
小人の世界にやって来た頃はドイツ兵を踏み殺すのにも戸惑いを感じていたのに・・。
でも今回は一般市民を大勢殺したのに何も感じなかった。
❝わたし、変わっちゃったのかなァ?❞とちょっと複雑な心境になってしまったわたし。
踏み殺す相手がハッキリ見えるとやはり戸惑いを感じても、これほど巨大になってしまうと不思議と何も感じないのは自然な事かもしれない。
きっとわたしのひと踏みで何百人も踏み殺していたんだろう。
一応、大破壊を始める前に避難を呼びかけてはみたが、それは単にわたしの自己満足に過ぎない。
実際には避難する時間なんて無かったから、きっとわたし達3人で何万人もの人達を殺してしまったんだと実感した。
「こんなにメチャメチャに壊しちゃってごめんなさ~い!」
「でもこれは、わたし達ジーパンレディースの正義の闘いなんで~す!」
「だから分かって下さいねェ!」と最後に呼びかけたわたし。
「復興した頃に、またひと暴れしてあげるわねェ!」と麻美。
「わたしも、ブーツの跡をたくさん残したから良かったで~す!」と里奈子。
ヘルネブルグの町を壊滅させたわたし達は扉に中に入って消え去った。
後には無残に破壊し尽された惨状が広がるばかりだった。




