表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨大ヒロイン・ジーパンレディー律子  作者: スカーレット
3/278

第3話・わたしを攻撃するなんて

町の中心街に向かってゆっくりと道路を歩きだしたわたし。

先ほどまで30cm位だった道幅が片側2車線になって少し広くなった。

この位置から中心まではほぼ10m位、だが早速問題発生。

1mほど先で車の渋滞が起こっている。

小人達はわたしを見て慌てて逃げ出し、皆建物の中に避難しているみたい。

物陰から様子を伺っている小人もたくさんいる。

だが車はそう簡単には逃げられないらしい。

特にわたしの方に向かってくる側の車線が渋滞している。

それはそうだ、巨大なわたしがいるのだから前へは進めない。

幸い逆車線は空いている。

わたしとは反対方向だから一目散で逃げてしまったのか。

仕方が無いから空いている車線を歩くしかない。でも幅が20cm位はあるから何とか行けそうだ。

道路の真ん中にはグリーンベルト、両サイドには街路樹に街路灯、更に電信柱もあってそこには電線が張ってあるから引っ掛けないように注意しなければならない。

わたしはまるでモデルウォークのように左右の脚を交互に慎重に踏み出して歩いた。

それでも相変わらず道路にはわたしのブーツの靴跡がくっきりと刻まれていく。

そして、やっと町の中心にたどり着いた。

道路はぐちゃぐちゃにしてしまったけど他の物は踏み潰さないで何とか来られた。

わたしは少しかがんで町の様子を観察してみた。

町並みはまるでヨーロッパの地方都市のようだ。そして車はかなり古い感じ、たぶん1980年頃のようなデザインだ。

ちょうどわたしの左手側が古いドイツのような綺麗な町並みでたぶん旧市街。

今わたしが立っている所は比較的モダンなビルが林立しているから新市街なのだろう。そして小人達の様子を観察すると明らかに西欧人だった。

金髪の白人が多く、ここはまるで北ヨーロッパのような雰囲気だ。

町の名前も国の名前も分からないし日本語だってたぶん通じないだろう。だけどわたしは思い切って話しかけてみる事にした。

「こんにちは! わたしは藤森律子って言います。」

「こんなに大きなわたしだけど、皆さんと仲良くなりたいんです!」

そして中腰になってどんな反応が返ってくるか少し待ってみる事にした。

ところが全くの無反応、誰も出てこない。

せっかく友好的に挨拶してあげたのに、とちょっと拍子抜けのわたし。

でもいきなり街中に巨大な女が出現すれば誰も反応出来ないのは当たり前。

だがしばらくすると彼らの応えが返って来た。

わたしが歩いてきた道の反対側から何やら凄い数の一団がやって来るのが見えた。

何だろう?と思ってよく見てみるとそれは軍隊だった。

数十両の戦車隊を先頭に装甲車やトラック部隊、大砲をけん引している車両もある。

戦車の背中には数名づつ兵士が乗っていて皆緑色の軍服を着ている。

そして戦車の側面には十字の紋章が描かれていた。これはきっとこの国のマークなのだ。

戦車隊はざっと30両、装甲車が10台、トラック部隊は20台位。兵士の数も1000名以上はいそうだ。

ひょっとしてわたしの事を怪獣扱いして攻撃するつもりなのかしら?どうしよう・・。と急に怖くなってきたわたし。

思わず後ずさりしてしまったが、走って逃げる訳にも行かない。

小人の軍隊とはいえ戦車砲の威力はもしかしたら拳銃並みかもしれない。

巨大とは言えわたしは生身の人間だ。

怪我ではすまないかも、なんて考えたら恐怖心がどんどん増大していった。

そうこうしている内に部隊はわたしの2m程手前で停止、早速全砲塔をわたしに向けて発射準備にかかっている。

わたしはとっさに両手で顔を覆ったが弾が手に当たったらどうしようと思った。

そういえばジーパンのポケットにバイト先で清掃作業用に使っているゴム手袋があった。

とにかく直撃は避けたいので早速その手袋をはめようと取り出す。

長さが34cmとちょっと長めの白いゴム手袋。

縁がくびれていて手のひらには小さなハートマークがいくつもあり両サイドには3本のラインが入っているちょっとオシャレな感じの婦人用ゴム手袋だ。

だがオシャレなデザインとは裏腹にかなり使い込んでいるから手の平や甲の部分は黒い汚れがこびり付きかなり汚れている。

とにかくそんな手袋でも少しは防御になるかもしれないと思った。

白いロングブーツに白いロング手袋とまるで戦隊ヒロインのような格好だ。でも服装はコスプレではなく数年間洗濯してない色落ちしたジーンズに紺色のチェック柄のシャツと普段着姿のわたし。

とにかくゴム手袋をはめたわたしは両手で顔を覆って立ち尽くした。

次の瞬間、戦車隊からオレンジ色の閃光が走った。

❝ズドーン!ズドーン!❞

来た!と思った瞬間身構えたが痛みなどまるで感じない。

えっ?と思い恐る恐る両手を下ろして自分の体を見てみたが怪我などしていない。

そういえば足に少し衝撃を感じたような気もしたが痛くは無い。

よく見てみるとジーパンの太もものあたりとブーツの筒のあたりがあちこち黒くすすけている。

彼らの放った弾の当たった跡だった。

❝な~んだ、わたしには全然効かないんだこの世界の武器。❞

こうなると先ほどまでの恐怖心などいっぺんに吹っ飛んでしまった。そして、だんだん怒りが込み上げて来た。

せっかく友好的に振舞ってきたのに、出来るだけものを壊さないように慎重に歩いてきたのに。

今まで自分の取ってきた行動が一瞬で全否定されたような気分になってきた。

客観的にみれば道路を踏み抜きながらいきなり街中に巨大な女が入ってきた訳だから自衛の為に攻撃したのは自然な事かもしれない。しかしわたしはすでに理性を失い始めていた。

「よくもわたしのジーパンとブーツを汚してくれたわね!」

「今度はわたしの番よ、いいこと、覚悟しなさい!」

そう吐き捨てたわたしは戦車隊に向かって歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ