第29話・わたし達のタイムスリップって・・。
散々街の破壊を楽しんだわたし達、いつものようにグリーンの閃光と共に現れた扉に向かって歩き出す。
その瞬間、麻美が予想外の行動に出た。
彼女はまだ破壊されていないビルの方に駆け寄ってしゃがみ込み、ビルの屋上に設置された対空砲陣地に隠れていたドイツ兵数名を見つけて摘み上げたのだ。
この素早い行動にはわたしも驚いたが、どうやら先程から彼らに眼をつけていたらしい。
「コイツら連れてっちゃおうヨ!」と麻美は3名のドイツ兵を薄汚れたゴム手袋の上にのせてこちらにやって来た。
「とにかく、戻るわよ!」と言ってわたしは麻美と里奈子をせかすようにして扉を開けた。
そして遅れてきた麻美が中に入ったのでわたしは扉をしめた。
麻美は左手のドイツ兵達を見つめている。
次の瞬間だった。麻美が思わず叫んだ。
「ちょっと、何よこれっ!」
次の扉を開けようとしたわたしはビックリして麻美の手の平を見た。
すると彼女の左手の上にいたドイツ兵達は一瞬で破裂して弾け散っていた。
呆然とする麻美の手を引っ張ってわたし達は元の世界に戻って来た。
こちらの世界に戻ってきてもまだ左手を見つめ続ける麻美。
すると麻美は、
「アレッ?全部消えちゃった!」とつぶやいた。
「えっ、どうしたの?」と麻美に駆け寄るわたし。
「1つ目の扉に入った途端、あいつらの体が破裂しちゃった・・。」
「よく分からないけど、こっちに戻ってきたら全部消えちゃったのよ。」
と不思議そうな顔でボソボソと説明する麻美だった。
「ちょっと麻美、手の平を見せてよ!」とわたし。
「ホントだ、弾けた死体もなんにもないじゃない!」とわたしも不思議な気持ちになった。
そもそもあっちの世界の人間をこちらに無理矢理連れてこようなんて発想、わたしには無かったからちょっと驚きだった。
でも麻美の気持ちも解る様な気がする。
「こっちに連れて来てェ、わたしのペットにしようと思ったのにィ~。」と悔しがる麻美。
それにしても、わたしだってこの“不思議なトリップ”がどういう仕組みなのか良く理解していないから推測するしかなさそうだ。
「とにかく、わたしの部屋に戻りましょ。」と2人を連れて自宅に戻るわたしだった。
「でも、不思議よねェ、なんで消えちゃったんだろう。」と切り出すわたし。
「ひょっとして、こういう事かもしれませんよ・・。」と今まで黙っていた里奈子が話し始めた。
彼女の説によるとこういう事らしい。
わたし達が向こうの世界に行くと巨大になってこっちに戻ってくると標準サイズになるって事は、あっちの世界の小人がこちらの世界に来ようとすると体のサイズが100倍になろうとするから破裂してしまうのかもしれない。
そして、破裂した死体は向こうの世界のどこかに散らばっているのかもしれない。
それから里奈子は興味深い事を言い出した。
それはあちらの世界とこちらの世界では年代の差があるという事だった。
そういえば、小人の世界は随分古い昔風の町並みだったり、ドイツ軍の兵器も何十年も前の旧式のものだったりする。
今が2013年だから、ナチスが台頭していたのは70年以上も前の事だ。
だけど、車のデザインやビルの形はそこまで古くはない。
わたしが最初に受けた印象では1980年くらい、つまりわたしが生まれた頃の雰囲気に似ていたから時差は30年位あるのかもしれない。
わたし達の世界ではナチスドイツは1945年に滅んだけど、向こうの世界ではナチスが戦争に勝ってヨーロッパを支配しているのかもしれない。
わたし達は3人であれこれと想像を膨らませて楽しんでいた。
「何十年も前にタイムスリップするから、わたし達のサイズが大きくなっちゃうんじゃないかしら。」と麻美が言い出した。
「そうすると、未来にタイムスリップするとわたし達が小人になるって事?」と尋ねるわたし。
「その前に、わたし達の体が破裂しちゃうんじゃないかしら。」と麻美が冗談まじりに言う。
「ちょっと、怖い事言わないで下さいよォ。」と顔をしかめる里奈子。
「でも、逆にもっと昔にタイムスリップしたら、わたし達って、もっと巨大になるって事かもヨ。」と麻美が身を乗り出す。
「それって、今までとは違った暴れ方を楽しめるって事よねえ。」とうなずくわたしだった。
「律子さん!好きな時代にタイムスリップする事って出来るんですか?」と興味津々の里奈子が聞いてきた。
「実はァ、いつも行きたい所をわたしが具体的にイメージするとそこに行けるの。」
「だから、ひょっとしたら50年前とかってイメージしたら行けるかもしれないわ。」と応えるわたし。
「間違っても未来に行こうなんてイメージしないでよネッ!」と麻美が念を押すように言う。
「分かったわよ!そんな事しないってばっ。」とわたし。
「じゃあ、今度は1945年にタイムスリップできるようにイメージしてみるわね。」とわたしもかなり乗り気になっていた。
ただでさえ向こうの世界では巨大なわたし達、この里奈子の大体の計算が合っていれば70年前ならわたし達の身長は今の倍以上になる。
「身長が400mなんて、考えただけでワクワクしてきちゃうわァ!」と麻美の顔がほころび始める。
「そうよねェ、今のサイズでも十分暴れて楽しいけど、たまにはそんなに巨大化してみるのも面白いかも・・。」と次回のトリップの巨大化作戦に胸を躍らせるわたし達だった。
「でも、本当にわたしがイメージするだけで時代を調節することなんて出来るのかしら?」と思ったが、とにかく次回は年代と場所をより具体的にイメージしてみる事にした。
そして、散々暴れてスッキリしたわたし達は3人で飲みに行く事にした。