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巨大ヒロイン・ジーパンレディー律子  作者: スカーレット
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第278話(最終話)・薄れゆく記憶の中で、わたしは・・ ≪完結≫

 すっかり里美先生と仲良しになったわたし。

でも巨大神の伝説が存在しないこの世界に於いて、わたしが何を話そうが先生はそれを研究対象にはしない。だから、この人間関係は全く問題ないのだ。


「今日は、ごちそうさまでした。」(わたし)

「でも本当にいいんですか?」

「初対面のわたしなんかに・・。」


「あら、ナニいってんのよ!」(里美)

「すっごく楽しかったし、」

「また会いましょう。」

「とりあえずSNS交換しましょ。」


わたしは先生たちと連絡先を交換して別れた。


さて、これからどうする。

わたしはふと考えた。


“この鏡を何とかしなくちゃ。”


この姉妹鏡を所持している限り、何かが起こる可能性は否定できない。

せっかくここまでして、元の状態に戻ったのに。

わたしはこの力の源を封印することにした。

まず手始めに履いているブーツのカカトで思いっきり踏んづけてみた。

要は破壊しようとしたのだ。

今までなら大事な手鏡を壊そうだなんて・・、

考えたことも無かった。

でも、こうなったらやるしかない。

この世界でこの鏡の魔力の秘密を知っているのはわたしと由美だけだから。

靴で踏んでも全く損傷すらしなかった。

翌日、わたしは職場の倉庫内でハンマーを使って壊そうとした。

でもビクともしないこの鏡。

やはり地球上の物質ではないのか・・。

散々悩んだ挙句、わたしは壊すのを諦めた。

そして、魔力を使えないようにしようと考えたのだ。

つまり裏面の文字を読めなくすればよいのだ。

もちろん削ったりカットしたりはできないので、呪文の部分だけを何かで覆い隠そうと思った。

わたしは退勤後に作業部屋に行って試してみる事に。

誰もいない職場の作業部屋。

棚に工具が並んでいる。

その中からハンダごてとハンダを拝借。

2つの鏡の裏面にハンダを押し当ててハンダごてで丹念に溶かし込んでいく。

銀色の液体が文字列の周囲を埋めていく。

幸いこの5mm四方の大きさの文字は薄っすらと彫り込んであったので、容易にハンダで覆い隠すことができた。

乾くとカチカチになった状態に。

そして今度は鉄ヤスリを持ってきて慎重に研磨していく。

ツルツルになった表面にパテを塗っていく。

パテが乾くと更にヤスリで研磨していく。

鏡の裏面はツルツルになった。

手触りは悪くない。

そして最後に本体と同じような色のガンメタルのスプレーを買ってきて色付けした。

2つの手鏡は裏面が一見すると何もないツルっとした表面になった。


“よし、これで誰が見ても何も起こせない。”


そう思ったわたし。

でもこれを誰かが手にするとやはり僅かでも可能性が残る。

そこでこの手鏡を別々の場所に隠す事にした。

わたしは近所の裏山に始まってあらゆる場所を検討対象にした。

結局、地上だとたとえ山奥に埋めても人間の手が入ればやがて誰かが手にする可能性がある。

そこで深海に沈める事にした。

深海に沈めるにはクルーズ船に乗るしかない。

でもわたしにはそんなお金はなかった。

そんな時にクルーズ船の短期バイトを見つけた。

1週間程の行程のツアーで大型客船に乗り込んでの接客の仕事だった。

レストランでのサービスの仕事。

乗客は日本人ばかりだから言葉の壁は無かった。

早速応募したら一発で採用が決まった。

スタイルと顔には少し自信があったから。

でもよかった。これで目的は果たせそうだった。

豪華客船の出航の日、わたしはポケットに2つの手鏡を忍ばせて乗船した。

そして出航4日目の深夜、甲板に出たわたしはまず妹鏡を手に取って最後尾へと向かう。

誰もいない甲板で真っ暗な空と海を眺めながらエリッシュの妹鏡をそっと投げ落とした。

あっと言う間に消え失せたエリッシュ。

そしてその翌日の深夜、今度はアリッシュの姉鏡を手にまた同じ最後尾の甲板へと急ぐわたし。


「これで最後なんだわ。」(わたし)

「もうあんな不思議な体験はできないのね。」


何だか少し寂しい気分になる。

この鏡のせいでわたしは数えきれない程大勢の人達を殺してきた。

そう思うと居たたまれないけれど、全てはリセットされたのだ。

あんな恐ろしい罪が帳消しになったんだからこれでよいのだ。

でも投げ捨てる事に少しためらうわたし。


「えいっ!」(わたし)


それでも目をつぶって思いっきり彼方に向かって投げた。

音も無く海の藻屑となって消えたアリッシュ。

もう思い残すことはなかった。

少しうつむき加減になって部屋に戻るわたし。

今は非番の時間だから職場のレストランに私服姿で向かった。

この時間でも夜食をブッフェ形式で提供している。

バイト仲間の杏子が笑顔で出迎えてくれた。


「どうしたのりっちゃん!」(杏子)

「こんな時間に?」


「うん、ちょっと眠れなくってさ。」(わたし)


大仕事を終えたわたしはぐったりと力が抜けて、お腹が空いてきた。

スタッフは非番の時間は自由にブッフェの食事が食べられる。

いわば役得だ。

わたしは夜食を頬張りながらふと由美の事を思った。

でも・・。


「由美?」(わたし)

「え~っと、誰だったっけ?」


不思議な事にわたしの記憶、それも巨大化ヴァージョンの記憶がどんどん薄れていくのを感じた。

きっと由美も同じ状況なんだと思った瞬間に彼女の事も記憶から消え失せていった。


「ごちそうさま!」(わたし)

「もう寝るね。」

「じゃあ、また明日ね。」


「おやすみなさ~い!」(杏子)


わたしは彼女に挨拶して部屋に戻ってぐっすりと寝た。

そして翌朝になると。


「あらっ、わたし、」(わたし)

「何でこんなバイトしてるんだっけ?」


この船に乗り込んだ理由も思い出せないまま、元の生活に戻っていった。

いつもの職場にいつもの仲間に、

いつものわたしの部屋。

以前と変わらない、わたしの生活はつづく・・。


《完結》


読者の皆様へ

長い間ご愛読頂きまして本当にありがとうございました。

最初は単なる自己満足で書き始めた素人の作品でしたが、これ程長く連載できるとは思っていませんでした。

2013年に始めて、途中2018年の1月に筆が止まりました。

最愛の人が重い病気になり2020年に亡くなり、以降しばらくの間何もできなくなりました。

そんな中でも、わたしの作品に立ち寄って頂ける方がおられた事に心から感謝いたします。

お陰様で休眠中にPVが50万を超えておりましたので筆を再開する勇気を頂きました。

このサイトで「この作品は完結しない可能性が・・。」という表示まで出ておりましたが、何とか本日をもって完結できましたことは全て読者の皆様のお陰だと思っております。

本当に長い間ご愛読頂きましてありがとうございました!


スカーレット


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