第274話・予想外の結果に・・。
「それはそうと、ここって何処かしら?」(わたし)
「それに、いつの時代なんだろう?」
「わたし達がいたのと全く同じ場所で同じ時代ですよ。」(由美)
「わかりませんか?」
「完全にリセットされたんですよ。」
「だから、巨大な律子さんの現れない世界がそのまま継続しているんだと思います。」
「そもそも消滅した世界の記憶を持ったわたし達が存在している事自体が異例なのかも。」
「そうよねえ、確かにあなたの言う通りだわ。」(わたし)
「だったら、わたしってどうなっちゃうんだろう?」
「わたしの世界のわたしは?」
「そこなんですよ。」(由美)
「たぶんですけど、わたしがこの手鏡をゲットしちゃったから、」
「あっちの世界の律子さんは、そのまま旅行を続けて、」
「こっちの世界に来ることもなく、巨大化する事も無く、」
「平和に暮らしているのかと。」
「ってか、わたしが2人いるってこと?」(わたし)
「それって、おかしくない?」
「だから律子さんはもうこっちの世界の人なんですよ。」(由美)
「こっちの世界の日本に律子さんが存在しているのかは不明ですけど。」
「えっ、マジで?」(わたし)
その後の言葉が詰まって出てこない。
何かとんでもなく恐ろしい事をしでかしてしまったような感覚に襲われた。
全てがリセットされた瞬間は正直嬉しかった。
今までわたしが踏み殺してきた大勢の人達。
踏み殺しただけじゃなくて、容赦なく撃ち殺してきた人達もたくさんいたっけ。
レオン君を助けただけじゃなくて、自分の犯した数えきれない罪が一瞬でチャラになったのだから。
でも、そういう事か。
もうわたしは自分のいた世界には戻れないんだ、と悟った。
そういえば“お戻りの扉”もこっちの世界に繋がっていたし・・。
「なら、わたしはこれからどうすればいいのかしら?」
「あっちの世界に何もかも置いてきちゃったし・・。」
「置いてきてないですよ。」(由美)
「あっちの世界ではもう1人の律子さんが存在していて、」
「ちゃんとパートやりながら生きてるんだと思います。」
それも不思議な感覚なのだ。
もう1人のわたし?
えっ、なにそれ?って感じ・・。
由美は冷静に説明してくれるのだけれど。
わたしの頭の中は真っ白になっていて、全く理解できないでいた。
そんなわたしの事を察してか、少し黙っていてくれている彼女。
「もう、わたしの世界には戻れないの?」(わたし)
「それは・・。」(由美)
「できますけど、」
「それは、こっちの世界の人間としてあっちに行くって事ですよ。」
「それじゃあ、わたしが元の世界に巨大な体で現れるって事になるのかしら?」(わたし)
「リリアみたいに。」
「まあ、そういう事ですね。」(由美)
「でも律子さんは、もうその鏡の魔力を封印したいんですよね?」
「だったら、そんな事しないほうがいいかもしれません。」
「それにあっちの世界でもう1人の律子さんと対面しちゃったら・・。」
「タイムパラドクスが起こってしまうかも。」
「えっ、なによそれ?」(わたし)
「もう1人の自分と会ってしまう事によって改変が起こってしまうとか。」
「あまりいい事にはならないんじゃないかと。」
「そういうものなのかしら。」(わたし)
「巨大化なんてしたくないけど、」
「元の世界を覗いてみたい気はするな。」
「それは可能だと思います。」(由美)
「まずは、こっちの世界でどうするか、」
「・・の方が先決なのでは?」
「あらっ、わたしったら、そうよ。」(わたし)
「わたし、どうしたらいいのかしら。」
「言葉だってしゃべれないし・・。」
「あっ、そうかマスターの力で、」
「でもダメだわ、封印しなくちゃ。」
「この力を使ってはダメよね。」
「そうですね、大勢の犠牲者が出ますしね。」(由美)
その事はお互いに巨大化経験があるから、痛いほど分かっている。
「ところで、巨大なわたしが現れなかったこの世界って、」(わたし)
「どうなってるのかしら。」
「エルンストさんの人柄も分かったし、」
「あの国家元帥だっけ、」
「あの男もいるのよね?」
「その辺の事情はまだ分かりません。」(由美)
「それにこっちの世界にもう1人の自分がいたりして・・。」
「それは無いはずだわ。」(わたし)
「あなたは元々こっちの人なんだから。」
「まずはわたしの家に戻ってみませんか?」(由美)
「そうしたらこの世界がどうなっているのかがすぐに分かると思います。」
とにかくいきなり元の平和な世界にやって来たわたし達。
巨大女の存在しない世界。
わたし達ももちろん普通のサイズだし。
なんだかわたしの中では少し落ち着いてきたのと、変なわくわく感が沸き上がってきている感覚があった。
これって何なんだろう?
「どうせ元の世界ではありふれたパート生活だったし、」(わたし)
「財産も地位も彼氏もいないわたしだから、」
「別に未練はないのよ。」
「それよりこっちの世界で新しい人生が始まるっていう方が魅力的かも。」
「でもどんな世界かが問題よね。」
確かにそうだ。
ナチスドイツが世界の半分をゲルマニア帝国として支配しているこの世界。
まるで暗黒時代のような感覚になってしまいそうだが。
あの人柄の総統だし・・。
あのラスボスの元帥を始末しちゃえば・・。
わたしはいきなりそんな物騒な事を考え出していた。
次回の更新は6月1日(0:00)になります。