第271話・どうする、わたし?
“ババババババッ!”
乾いた銃声が響き渡った。
わたし達と鉢合わせした国家元帥が焦った末の出来事だった。
彼はわたしに向かって乱射してきたのだ。
わたしは足元にいたレオン少年をかばおうと抱き上げていた。
そしてとっさにわたしの胸に彼の頭をうずめて両手で肩から頭部にかけてをカバーしていた。
でも元帥の放った銃弾はレオンの背中を貫通していたのだった。
一瞬わたしには“この体なら大丈夫!”という変な自信があった。
でもそれは大変な思い違いをしていたのだった。
確かにわたしは大丈夫だったが、生身の体のレオンは無事では済まなかった。
等身大のわたしはこの幼気な男の子を救う事が出来なかったのだ。
わたしの両腕ではこの子の体全てをカバーしきれていなかった。
巨大化していれば・・。
その後悔がじわじわとわたしの心をむしばんでいく。
「ごめんなさい・・。」(わたし)
わたしは消え入りそうな声で彼にささやくと彼の小さな体を静かに地面に置いた。
「レオン!」(エルンスト)
「レオン!!」(エヴァ夫人)
張り裂けそうな叫び声と共にレオンを抱き抱える夫と夫人。
もはや彼は息絶えている。
そんな居たたまれない場の空気感を全く気にしない男。
「許せない!」(わたし)
「オンナのくせに生意気な!」(元帥)
「なぜ死なない?」
「この化け物めがァ!」
元帥は再びマシンガンを構えてわたしの顔目掛けて引き金を引いた。
“ババババババババッ!”
わたしは右手の平で銃弾をはたき落として奴に向かって歩いていく。
「ぶっ殺してやるわ!」(わたし)
声に出し、そして奴の脳内に向かって叫ぶわたし。
当然奴の頭にはドイツ語に変換されたわたしの言葉が響いているはずだ。
すると奴の脳内の言葉がわたしに返ってきた。
「なんだ、コイツ!」(元帥)
「オンナのくせに舐めやがって。」
「男の力を見せてやる!」
腕に自信があるからか、それともその高身長とプライドだけでオンナのわたしをねじ伏せられるとでも思っていたのか。
銃を投げ捨てると奴もわたしに向かって歩いて来る。
「思い知らせてやるわ!」(わたし)
等身大のままのわたし。
身長は164cmだから頭一つ分くらい奴の方が大きかった。
でもお互いに向き合い両手で取っ組み合いになった瞬間に勝負はついていた。
わたしは奴の右手をいきなりねじ上げてやったのだ。
わたしの薄汚れたゴム手袋を嵌めた手が、奴の手首をしっかりと掴んでいる。
「ウぅ~~!」(元帥)
苦痛に顔を歪める男。
わたしはそのまま奴を地面にねじ伏せて仰向けの状態で馬乗りになった。
奴の右腕は完全にねじれて骨が砕けている。
もうすでにわたしに抵抗すらできない状態だった。
そんな彼の顔に思いっきり喉を鳴らして痰を吐いてやった。
「カッ、カッ、カァ~~、」(わたし)
「ペッ!、ペッ!、べッ!」
わたしの痰つば3連発である。
黄色く濁った泡状の痰が彼の額と目と鼻のあたりにそれぞれ命中した。
「こうしてやるわよ!」(わたし)
わたしはゴム手袋でヌメった痰ツバを顔中に塗り広げてやった。
そして・・。
「ふぅ~。」(わたし)
生温かいわたしの女子息を奴の顔にまんべんなく吐き掛けてやる。
一瞬でツバが乾いて強烈な唾臭に包み込まれた。
「いい気味だわ。」(わたし)
「でも、こんなのはまだ序の口よ。」
「わたしを舐めんじゃねぇヨ!」
「え~、ゴラッ!」
今度はわたしの右手の真ん中の3本の指を奴の口にいきなり突っ込み手前側に引いた。
「ウウウぅ~~!!」(奴)
奴の下あごが簡単に砕けて垂れ下がった。
「アッハッハッ!」(わたし)
「見れたもんじゃないわね!」
「ホラッ、もっと可愛がってやんよ!」
更に間発を入れずに両手の親指を奴の両目にそれぞれ喰い込ませるわたし。
どす黒く汚れたわたしのゴム手袋の指先が、エメラルドグリーンの美しい奴の繊細な目を押し潰しながら喰い込んでいく。
「アアアァ~~!!!」(奴)
これだけ顔が損傷しても声だけはちゃんと出ている。
これ以上ないくらいに響き渡る奴の悲鳴。
周囲の親衛隊兵士と将校達は皆恐怖で顔を引きつらせている。
奴の両目に親指を突き刺したまま頭を少し浮かせては地面に叩き付けるわたし。
脳震とうを起こしたのか、叫び声すら止んでいた。
「ペッ、ペッ、ペッ!」(わたし)
わたしは奴の綺麗なサラサラのブロンドヘア―に口に溜めたツバを吐き掛けた。
そして潰れた目から引き抜いた親指の赤黒い血をツバまみれのヘアーになすり付けてやった。
もはや元帥の顔はグチャグチャになっていて鮮血に染まり赤紫色に変色し始めている。
わたしは立ち上がると生きているのか死んでいるのかさえ分からないこの男の胸部を踏み付けた。
「コノォ~!」(わたし)
「コノヤロ~!」
“ブシュッ、ブシュッ、”
“グジュッ!”
ゴム長靴のヒールの部分で渾身の力を膝に込めて打ち付けるわたし。
みるみる内に奴の上半身は陥没していき、制服は泥々に汚れていく。
もうとっくに死んでいるこの男。
わたしは最後にもう1発痰ツバの塊を奴の顔に吐いてやった。
「ベッ!」(わたし)
ゴム長靴の靴底でグリグリと奴の顔を踏みならしながらほくそ笑むわたし。
その場の空気を凍らせるくらいに激高したわたし。
もう誰も手が付けられない精神状態になっていた。
次回の更新は5月11日(0:00)になります。