第269話・国家元帥の陰謀とは
≪武装親衛隊SS第1師団本部・国家元帥府≫
「閣下、総統官邸との連絡が途絶えて1時間になります。」(副官へスラー少佐)
「巨大女が現れてからどうなっているんだ?」(ミッターマイヤー国家元帥)
「我が方の親衛隊本部は完全に破壊され、駐屯部隊は全滅したようです。」(少佐)
「その後、若い方の巨大女が暴れ回っているようで、現在商業地区を破壊しているようです。」
「30代の巨大女は姿を消したそうです。」
「総統官邸の地下シェルターの守備隊とも連絡が付いておりません。」
「もしや消えた女に襲われた可能性もあります。」
「今回の極秘作戦は完全に狂い始めたようだ。」(元帥)
「政府に反逆を企てるエルンストの妹をそそのかして内通し、巨大女を手懐けて用済みのエルンストを始末させてからアメリカ本土を襲わせようと画策していたのに・・。」
「まったく上手くいかんもんだ。」
「あの日本人の巨大女どもめ、役に立たない奴らだ。」
吐き捨てるようにつぶやく元帥。
実はリナ・フィッシャーが夫のアルベルト・フィッシャー陸軍中将を抱き込んでクーデターを企てているという情報を早くから察知していたゲシュタポ本部が国家元帥に報告。
元帥府は反逆者を一網打尽にするだけでなく、最近になって反抗心を持ち始めた総統エルンストを彼らに抹殺させて対立するアメリカにダメージを与える作戦を巧妙に立てていた。
元帥自身が夫の中将を通してリナの組織と内通し、あたかも味方であるような立ち回りをしていた。
そして自らが国家の実権を握っているにも関わらず、リナには兄のエルンストが帝国を牛耳っていると本気で思わせるように仕向けていたのだった。
リナは疎遠になっていた兄エルンストを本気で憎むようになり反逆心を募らせていた。
そんな彼女の心理を利用して、巨大女をコントロールできないかという事に腐心していた元帥府だったが、予想外の展開に戸惑いを隠せなかった。
「今、ティーンの巨大女はどの辺りで暴れているんだ?」(元帥)
「総統官邸から北方に1km程のフリードリヒ駅周辺で暴れているとの情報です。」(少佐)
「かなりの被害が出ており、防衛大隊も手が付けられない状態だそうです。」
「身長が170m以上の大きさですから、すでに数十両の戦車が踏み潰されたようです。」
「踏み殺された我が軍の兵士は2000名以上に上っています。」
「民間人にも被害者が続出しているようです。」
「何?民間の施設には立ち入らないように指示してあった筈だが・・。」(元帥)
「主犯格の律子という女が消息不明で、暴れているのはリツヨと名乗る女子高生のようです。」(少佐)
「その律子がエルンストを暗殺しにシェルターに侵入したんだろう。」(元帥)
「よし、我々も今から官邸に向かって状況を把握するぞ。」
「リナに連絡して呼び出すように。」
「了解しました。閣下!」(少佐)
少佐はそのまますぐにリナ・フィッシャーに電話しエルンストの暗殺に成功したようだと伝えた。
そして事態を掌握するために官邸に向かうように指示した。
恐らく反逆を企てている国防軍の参謀達も来るはずだ。
元帥は彼らを全員捕らえてしまおうと考えていた。
連絡を受けたリナは通じている国防軍の将軍クラスや高官達と情報を共有し現場に同行するように指示した。
≪その頃総統官邸では・・≫
“随分惨い殺され方をしたんだわ・・。”(夫人)
わたしの頭の中を夫人のつぶやく様な声が聞こえてきた。
しかも日本語でである。
“あらっ?なんで?”
律代とテレパシーのような会話が成立している事は既に立証済みだったが、目の前の外国人の心の声までも読み取れるようになったのか?
しかも自動翻訳されて・・。
“わたしが授かった力は凄いんだ、巨大化するだけじゃないんだ。”
どうもあらゆる事に秀でた才能をもたらすこのマスターとしての力だった。
どうやら知ろう、聞こうと思えばその人物の思考が読み取れるようだった。
試しにこの男の子の思考を読んでみた。
“怖いな、この優しいお姉さんが全部やったのかな?”
わたしは思わず言葉を失ってしまった。
こんな幼気な子に恐怖心を植え付けてしまったんだと、かなり後悔し始めていた。
でも、ここは心を鬼にして突き進まなければと思った。
わたしはレオン君の手をギュッと握ったままその場を通り過ぎた。
もちろんもう片方の手は夫人が握ったままである。
全員がエレベーターの中に入ると死臭から解放されてやっと落ち着いた。
「これからどうするの?」(レオン)
「このお姉さんに付いていくしかないわ。」(夫人)
ドイツ語での会話もわたしの頭の中では日本語に翻訳されて聞こえてくる。
何とも便利なスキルだった。
「君、私達の言っている事が解るのか?」(総統)
わたしは一瞬すくんでしまった。
この人、本当に鋭く頭が良い。
わたしの表情でそれを読み取ったのだ。
わたしは人差し指を口の前で立てて黙るように合図した。
わたしは見透かされないようにそうするしかなかった。
悟られてはいけない。
わたしは必死になって無表情になろうとしていた。
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