第266話・ついに対面だわ!
「よっこらしょっと!」(わたし)
強靭なパワーのわたしだけど、一応女性だから男性の体を持ち上げるとそんな言葉が口をついて出てきてしまう。
なんかわたしオバサンみたい、と思いながらも死んだコックの右手を掴んでパネルに押し当てた。
すると今まで全く反応しなかったパネルが淡いグリーンに光り、エレベーターのドアがゆっくりと開いた。
「やったね!」(わたし)
思わずガッツポーズをしてしまう。
そうか、なるほどそういう事だったんだわ。
死んだコックは多分総統のお気に入りのシェフか何かで、彼は直接総統の地下室に出入りしていたのかもしれない。
だからさっき慌てて逃げるどころか衛兵にわたしの存在を知らせに行ったんだわ。
“思い知らせてやったわ、いい気味!”
心の中でほくそ笑みながらわたしはコックの遺体を投げ捨ててそのままエレベーターに乗り込んだ。
ところが投げ捨てた奴の腕がエレベーターのドアに引っ掛かりそうになったので、わたしは思いっきり蹴り付けてやった。
「邪魔よ!」(わたし)
「えい!」
腹立ちまぎれに蹴ったから、彼の腕は千切れて吹っ飛んでいった。
「あら、ごめ~ん、ちょっとやり過ぎちゃったかも。」(わたし)
申し訳ないなんて気持ちは微塵もなかったけれど、少し前のわたしに比べてかなり暴力的になっているのを感じた。
コントロールパネルの行先階は1つしかなく総統を示す“F”の文字が表示されていた。
わたしは迷わずそのボタンを押した。
ドアがゆっくりと閉まりいきなりふんわりと底が抜けたような感覚に陥る。
かなりの高速で下降しているこの箱。
普通のビルなら途中階を示す表示が縦に並んでいるからそのスピードが推測できるけれど、このエレベーターにはそんなものは無く、ただただ一直線にFの階を目指して降りていく。
恐らく数百メートルは下ったみたいだった。
Fの階に到着するとドアがゆっくりと開いた。
わたしの目に数人の人影が映った。
それと同時に凄まじい射撃音が響いてきた。
“ババババババババババババッ!”
「えっ、わたし、撃たれてる?」(わたし)
「え~、マジで!」
どうやら下降してくるエレベーターの中にわたしのような敵がいる事に気付いた衛兵どもが待ち構えていたのだ。
とっさの事で避ける間もなく彼らの放った機関銃の弾がわたしの体に吸い込まれてきた。
さすがのわたしも一瞬たじろいだ。
死なないって解っていてもやはり気持ちの良い物ではない。
でも、とても不思議な感覚だった。
「あれっ?」(わたし)
「全然痛くないかも。」
「ってか、感じないっていうか・・。」
無数の銃弾がわたしの体中に当たってはいるものの、僅かに黒く煤けるくらいで血も出ないし傷にもなっていないこの不思議。
「な~んだ、やっぱわたしって、」(わたし)
「不死身?」
「なら、今度はわたしの番だよね。」
わたしを激高させるのには十分すぎる派手な出迎えだった。
コイツらってわたしの恐ろしさ分かってんのかなあ?
そんな風に思いながら奴らに向かって歩き出すわたし。
よく見れば真ん中に土のうを積み上げて重機関銃が据え付けてあり、その両脇にマシンガンを構えた衛兵が2人づつわたしに向かって撃っていた。
機関銃担当の射手と補助手は2名で総勢6名の守備兵がそこにいた。
「わかってんのかよォ!」(わたし)
“バキ~ン!”
わたしは思いっきり真ん中の重機関銃の銃身を土のうごと蹴り上げてやった。
あまりの怒りに少し体のサイズが膨らんで3m位になってしまっていた。
そんな大オンナに蹴り飛ばされた機関銃は天井目掛けて吹っ飛び、撃っていた射手は助手諸共総統室のドアまで飛ばされて激突した。
「アッハッハッ!やったね!」(わたし)
「ざま~見ろっつ~の!」
いきなりモリモリと3m大まで大きくなった巨大オンナの暴力が銃撃を一瞬で沈黙させた。
両サイドの衛兵は射撃を止め恐怖で顔が引きつっている。
わたしは笑いながらまずは左側の2人を右手で殴り飛ばした。
「コノヤロ~!」(わたし)
“バシッ!”
そして今度は左腕で右側の2人を薙ぎ払った。
「ウリャ~!」(わたし)
“ヴァスッ!”
両サイドの壁に弾き飛ばされる4名の可哀想な兵士達。
床に倒れた兵士の1人を容赦なくワクマス(ゴム長)で踏み付ける。
「死ねよ、コイツ!」(わたし)
「手間取らせやがってよォ!」
「舐めてんのかよ!」
「カァ~、ッペ!」
胸の辺りを踏み付けるとあばら骨を踏み砕く心地いい感触があった。
既に息絶えた男の顔に痰ツバを吐き掛けてやった。
残りの奴等も追加で蹴りや踏みを加えなくても既に死んでいた。
それほどわたしの蹴りと叩きはヤバかった。
守備兵6名を難なく始末したわたしは総統室の前まで行き、ドアを蹴ってやった。
“ジュヴォ!”
ドアの真ん中にわたしのゴム長靴が喰い込み靴跡型に強烈にへこんだ。
どうやら鋼鉄製のドアだった。
そしてもちろん中から強力な鍵が掛かっていた。
「チッ、ザケヤがって。」(わたし)
「見てなさい。」
「今すぐに、蹴破ってやるんだから。」
「せいぜい、中で怯えていればいいのよ。」
「今、わたしが会いに行くからね!」
いよいよ奴と対面という時にこの扉が邪魔でイラつくわたしだった。
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