第264話・総統官邸なんて徹底的にぶっ壊しちゃえ!
わたしの膝蹴りをもろに浴びた衛兵はそのままうずくまってしまった。
この男を殺しても意味が無いと思ったわたしはそのまま総統執務室のドアを開けて中に入った。
中には上級将校達が20名程立っていた。
わたしはマシンガンを構えたまま彼らの前で仁王立ちの状態になった。
「この中に、シュタイナーはいるのかしら?」(わたし)
「エルンスト・シュタイナーよ!」
どうせわたしの日本語は通じないけれど、名前を連呼すれば反応するだろうと思った。
ところが彼らは全く反応せず両手を挙げたまま黙っている。
ほぼ全員が軍服姿でフィールドグレーの制服は恐らく武装親衛隊の将軍クラスで黒服は親衛隊の将校と思われた。背広姿の男が数名いたが恐らくゲシュタポの幹部かもしれない。
ここにいるのは総統に仕える忠実な下部どもなのである。
“こいつ等、どうしようかなあ?”
見たところ、総統はこの中にはいない。
総統の制服は確かベージュ色だったし、あの端正な顔立ちの男性はいなかった。
わたしの獲物が居なくて空振りになった事でわたしは全身から力が抜けていった。
この際、無意味な殺しをするわけにもいかない。
でも、一瞬わたしの頭によぎる。
仮に、総統を見つけ出して始末しても、この中から後継者が出てきたら・・。
“ババババババババババッ!”
わたしはいきなり彼らに向かって機関銃を乱射した。
銃身を左右にゆっくりと振りながら皆殺しにした。
硝煙の匂いが立ち込めて、無残に射ち殺された遺体がわたしの足元に累々と転がっている。
わたしの気持ちがスカッとすることは無かった。
「仕方なかった。」(わたし)
「やるしかなかったわ。」
「この国の為ですもの。」
独り言で気を紛らすわたし。
また大勢殺してしまった。
でも後悔も無ければ同情心を湧いてこなかった。
彼らも覚悟を決めていたのかもしれない。
“さて、これからどうする?”
ここに居ないとなれば、恐らく奴は総統官邸の地下壕に逃げ込んだはずだ。
もうそこ以外に思いつかなかった。
地下壕の入口はこの建物を出て中庭を通って反対側にある。
予め由美に貰ったデータに細かい見取り図が示してあったっけ。
あの資料を何回も見直しておいて良かった。
執務室を出ると先程蹴り倒した衛兵がまだしゃがみ込んでいた。
わたしの一撃が余程強烈だったみたいだ。
彼を殺す必要はないから、わたしはそのまま建物の外に出る事にした。
中庭には誰もいなかった。
わたし達の襲撃に備えて正面に配置された100名の部隊が全てだったのだ。
“わたし達を甘く見ないでよね。”
心の中でつぶやきながら地下壕入口を目指す。
その時、わたしの頭の中にいきなり律代の声が響いてきた。
まるでテレパシーのように聞こえてきたのだ。
「あ~、ウザい!」(律代)
「もっとでっかくなって暴れてやるわ!」
先程律代を援護の為に身長10m位の大きさにした。
その大きさが中途半端だったのか、不満をぶちまけている様子だった。
なのでわたしも試しに頭の中で彼女に話しかけてみる。
「いいわ、もっと巨大化してこんな建物、」(わたし)
「思いっきりぶっ壊しちゃって!」
「えっ、なんで律子さんの声が聞こえるんだろう?」(律代)
「あなたとは心身共に繋がっているんだと思うの。」
「この官邸には奴は居なかったから、」
「今、わたし反対側の地下壕に向かってるの。」
「分かりました。」(律代)
「じゃあ、この辺の建物、」
「全部、ぶっ壊しちゃっていいんですよね?」
「それじゃあ、いっちゃいま~す!」
「せ~の、」
「え~~い!!」
“ジュッヴォ~ン!!”
地下壕の入口から巨大化した律代がそのままジャンプする姿がはっきりと見えた。
両足を綺麗に揃えて総統官邸の建物を踏み付けるように着地した。
もの凄い轟音と粉塵が巻き起こり、辺り一面が灰色に染まった。
わたしはいち早く地下壕入口の鉄扉の内側に入ったから助かった。
「ちょっと、なんて事するのよ!」(わたし)
「わたし、まだ地上にいるんですけど。」
「ごめんなさい!」(律代)
「ちょっとやり過ぎちゃったかも。」
「無事なんですか?」
「わたしは大丈夫だから。」(わたし)
「後は任せたわよ。」
「了解で~す!」(律代)
地上では巨大な長靴で踏み鳴らす地響きと瓦礫が砕け散る音が響いている。
わたしは銃を構えたまま地下壕の中を進んでいく。
“ババババッ!”
曲がり角の先に武装兵が2名いたので撃ち殺した。
“この調子で目に入った奴等は全部片付けるしかないわね。”
そう心に決めたわたしは出会う敵を次々に仕留めていった。
この地下壕の構造もちゃんとわたしの頭に記憶されている。
ここの見取り図は何度も見直した。
地下壕の総統シェルターは地下エレベーターで300m程降りたところにある。
その直通エレベーターの所まで行くのが大変だった。
警備兵を片付けつつ迷路のような地下基地を進んでいく。
まるで冒険体験でもしているような気分だった。
わたしは自分の記憶には自信があった。
でも少し不安感もあったから。
次に出会う敵を捉まえてエレベーターの場所を吐かせようと思った。
ちょうどおあつらえ向きの奴がわたしの前に現れた。
白衣を着た調理担当と思しき初老の男がわたしの目に入って来たのだった。
「おい、そこのお前!」(わたし)
「お前だよ!」
わたしの怒鳴り声に驚いて固まる男だった。
次回の更新は3月23日(0:00)になります。