第258話・ザワつく反乱軍内部
≪ゲルマニア帝国ベルリンの反乱軍総司令部≫
「巨大オンナがいきなりベルリンの中心街に2人現れたそうです。」(通信手)
「えっ、いったいどういう事?」(リナ・フィッシャー)
「作戦決行日はまだ先のはずだけど・・。」
一瞬、言葉を失った影の指導者リナだった。
ここはベルリンにあるドイツ国防軍最高司令部の一室であり、現政権の転覆を企てている反乱軍のアジトでもある。
ミュンヘン工科大学を主席で卒業した秀才のリナ・フィッシャーは一般庶民の出身ながらその知性と才能と美貌とで人脈を広げ、今や現政権を脅かす影の勢力の最高指導者にまで上りつめた39歳の女性である。
独身で結婚歴は無く、根っからの理系女子ではあったが巨大化メカニズムの研究に没頭し始めた事から現政権を嫌う生粋の軍人達の集団と関わりを持つ事になった。
その知的で落ち着いた語り口調と美しくスラリとした容姿は出会うドイツ軍人達をすっかり虜にしていた。
そんな彼女ではあったが、クーデターは多くの人命が失われ失敗する可能性も大きい事から血気にはやっている青年将校団を思い留まらせる事に腐心していた。
そんな時にリリアと個人的に繋がっていた由美という17歳の少女が活動していた反政府グループを傘下に置く事となり巨大オンナ律子とのパイプができたのだ。
この国の反政府勢力は驚くほど広く深く根付いていたが、シュタイナー政権を倒す程の実力を持った人材は中々いなかった。
そんな折に巨大オンナと繋がりのあるこの由美という少女の存在を知ったリナは心底彼女を愛おしく思い始めていた。
まだ17歳の女子高生でありながら、リリアとの友人関係を築き上げて二重スパイとなって殺戮を繰り返す彼女を現政権打倒の切り札と考えてはいたが、その反面警戒もしていた。
そんな彼女をスパイに仕立ててあちらの世界に送り込み、律子にメッセージを伝える事に成功した。
しかし全く別の世界の巨大オンナ律子が果たして自分達の思惑通りに動いてくれるのか疑念も感じていた。
そんな中突然現れた律子ともう1人の巨大オンナ。
「リナ、こうなったら作戦を前倒しするべきでは?」(クライスト将軍)
「大将、わたしもそう考えていたところです。」(リナ)
「でも、まずは突然現れた彼女達に真意を確認しなければならないのでは?」
「でも、どうやって?」(大将)
「今、正にあいつらはこのベルリンで暴れ回っているんですよ。」
「本当に信用できるんですか?」
「あんな野蛮なオンナどもを。」
「あらっ、オンナで悪かったわね。」(リナ)
「わたしだってそのオンナなんですけど。」
「失礼しました。」(大将)
「でも、報告では彼女達は貴女のような聡明な人物ではありません。」
「兵士達に向かってツバを吐いたり、小便を引っ掛けたり・・。」
「しかも、1人は女子高生のような年頃の少女ですよ。」
「わたし達の強力な協力者も17歳の少女よね?」(リナ)
「すぐに、由美を呼んでちょうだい!」
「まずは、状況を把握したいわ。」
突然街中に現れて破壊を始めた律子と少女の2人。
律子達の計画に無い行動に戸惑うばかりの指導部だった。
親衛隊本部とは離れた場所にあるこの国防軍最高司令部内は今や政権打倒派が大多数を占め、それ以外は中立派というか勝った方に付いていくという日和見主義の連中だった。
だが彼らとて親衛隊やゲシュタポに密告したりはしなかった。
程なくして由美が到着した。
「こんにちは!」(由美)
「初めまして!」
「わたしは・・。」
「由美さんでしょ?」(リナ)
「あなたの事はよく知ってるわ。」
「あなたにはもっと早く会いたかったのよ。」
「とても光栄です。」(由美)
「ところで、律子さん達の事ですよね。」
「それに姿を消したリリアの事もありますし・・。」
「そうよね、リリアが一体どこに行ってしまったのか。」(リナ)
「今回の巨大オンナ襲来と関係しているのかも。」
「あなたにはそれを確かめてきてほしいの。」
「わたしはまだ人々の前に出る訳にはいかないから。」
「あなたに面識のある律子さんと話をしてほしいのよ。」
「分かりました。」(由美)
「何とかして現場でコンタクトが取れないかやってみます。」
「ところで、もう1人の少女だけど。」(リナ)
「誰だか知ってる?」
「あの長身の女の子。」
「いえ、わたしは全く知りません。」(由美)
「あちらの世界でも会わなかった子です。」
「今、現場ってどうなってるんですか?」
「親衛隊本部ビルとその周辺がメチャメチャに破壊されて、」(リナ)
「辺り一帯は立ち入り禁止になってるわ。」
「たまたま通りかかった軍用列車が巨大少女の餌食にされて全滅したそうよ。」
「えっ、どんな風にやられたんですか?」(由美)
「ツバを引っ掛けたり、小便を撒き散らしたり・・。」(リナ)
「とにかく下品極まりない行動パターンみたいなの。」
「親衛隊本部が削除されたのは、」
「わたし達にとっては都合がよかったけど、」
「餌食になった列車に乗っていたのは国防軍の新兵訓練を受けた子達だったのよ。」
「可哀想に、彼ら巨大少女のツバやションベンまみれになって、」
「あのオンナの汚いゴム長靴で踏み殺されたんですって。」
微かに舌打ちしたリナだった。
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