第245話・もうこうなったら!
「コノヤロ~!」(律代)
“ガシャッ!”
奪い取ったライフル銃の銃身を両手で掴んだ彼女は渾身の力で振り上げて地面に叩き付けた。
鈍い音がしてくの字にへしゃげるライフル銃。
そんな光景を目の当たりにして恐怖で凍り付く2人のドイツ兵。
わたしはすかさず彼女が蹴り飛ばしたマシンガンを拾い上げて彼らに向かって構えていた。
あの頃、等身大トリップで随分大勢の人達を撃ち殺したっけ。
だから銃の使い方は心得ていた。
「へぇ~、すっごい!」(律代)
「律子さんって、銃を扱えるんですね?」
「うわっ、ヤバ~い!」
「カッコよすぎ~!」
黄色い声ではしゃぐ律代。
わたし達の捕虜は黙って両手を挙げている。
「こいつらどうします?」(律代)
「さっきのわたしのパフォーマンスで、」
「かなりビビッてるっていうかァ。」
「わたし達に恐れをなしてるっ?」
その時だった、マシンガンを携行していた下士官と思しき兵士がいきなり逃走を図った。
わたし達を尻目に一目散で正面ゲートに向かって走り出したのだ。
「マテ~!」(律代)
「ホラッ、逃げんじゃねえよ!」
「待ちなさいってばァ!」
若い律代は反射的にすぐに彼を追いかけ始める。
勝負はすぐについた。
ゲートまで約100m程。
わずか30m位で男に追い付くと乱暴に彼の肩に手を掛ける彼女。
「オラッ、どうなるか分かってんのかよ!」(律代)
「おらおらっ!」
「手間かけさせやがって!」
身長195cmのデッカイ女子高生が疾風のごとく走れば相手が男性兵士でも敵うはずがない。
鷲掴みにした男の肩をグイっと手前に引き倒した。
仰向けに倒れた男の胸元を踏み付けるとグリっとしたたかにじり付けた。
律代のゴム長靴が彼の胸に喰い込み、尚もにじり回し続ける。
「わたしに逆らった罰よ!」(律代)
「ったくもう、アッタマきちゃうんだからァ!」
「ってかさァ、わたしから逃げられるとでも、」
「思ってんのかよ!」
「え~、オイ!」
思いっきり踏みにじり続ける彼女。
相当イライラさせられたらしく、いつもの優しい彼女はもういない。
男は息ができないらしく彼女のゴム長のソールを両手で掴みながら必死にもがき苦しんでいる。
泥にまみれた彼女のワークマスターによって男の胸も両手もどす黒くなっていた。
「そろそろ許してあげなさいよ。」(わたし)
いい加減わたしが止めなければ、この兵士を踏み殺しかねない。
「は~い、ごめんなさ~い!」(律代)
そう言うと足を上げて男を開放する彼女。
しかしすでに手遅れだったのか男は立ち上がれなかった。
「あらっ、わたしったら、」(律代)
「ちょっと、やり過ぎちゃったかも。」
カッと見開いた目は夜空を注視しているが、意識が遠のいているのか両手はだらりとした状態だった。
その時だった、もう1人の捕虜が走り始めた。
わたしはとっさに銃口を彼に向けると引き金を引いた。
“ババババババッ!”
短い連射だけで十分だった。
あっと言う間に背中を撃ち抜かれて倒れ込む男。
すぐに自己嫌悪に陥るわたし。
でも、わたしのそんな気持ちとは裏腹に笑いながら黄色い歓声を上げる律代。
「イェ~イ!」(律代)
「律子さん、やるじゃん!」
「じゃあ、わたしも。」
「エイッ!」
“グシュッ!”
もうろうとしていた足元の男の胸にトドメの一撃を加える彼女。
15cm以上陥没した彼の胸に突き刺さったワクマスのカカト。
余程手応えがあったのか陶酔している様子の彼女。
「なんかァ、わたしっ」(律代)
「体中がジンジンしてきちゃいました!」
「今、わたし達、」
「この人達の命を奪ったんですよね?」
「ホント、ヤバすぎ!」
無残に踏み殺された男と撃ち殺された男が2人。
もう引き返せないと実感した。
先程の銃声を聞いた親衛隊本部の衛兵がこちらに向かって来るのが見えた。
まず短機関銃を構えながら4名の武装親衛隊の兵士が走って来る。
すると律代がわたしの所にやって来た。
「それの撃ち方、」(律代)
「教えてくださいよ。」
「安全装置は解除済みだから、」(わたし)
「こうして構えて、引き金を引くだけよ。」
わたしナニやってんだろう、と思った。
言われるがままに彼女にマシンガンを渡してしまった。
殺気だった女子高生に人殺しのおもちゃを与えてしまったのだ。
早速、銃を構えると走って来る4名に向かって銃口を向ける彼女。
「よ~し、大掃除の、」(律代)
「はじまり~!」
「エ~~イ!!」
“バババババババババッ!”
銃口を左右に振って乱射し始めた彼女。
左端の兵士から順に薙ぎ倒されていく。
元々大柄な彼女、トリップパワー全開で銃の反動も感じないくらい落ち着いて撃ち殺していく。
4人を殺すのにかかった時間はわずか数秒だった。
「やったね~!」(律代)
「全部やっつけたわァ!」
「ホラッ、もっとかかってこい!」
「わたしが相手だ。」
ほんのわずかな時間に、すでに5人殺害しているJKの律代。
まだ白昼夢という感覚なのかリアルな世界なのにごっちゃになっていた。
もうすでに手が付けられない彼女。
小走りにたった今殺害した4人の所に駆け寄ると、4丁のサブマシンガンを肩に掛けて立ち上がる。
乱射の音を聞きつけた武装兵が更に十数名、門から出てきていた。
両肩からマシンガンMP40を2丁づつぶら下げた律代は、長い人差し指を引き金に掛けてせせら笑っている。
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