第243話・まずは腕試しかしら?
わたし達が先生の研究室に着くと笑顔で出迎えてくれた。
「あらっ、あなたが律代ちゃん?」(里美)
「どうぞよろしく、わたしは桐越里美です。」
「ホントだわ、とっても可愛らしい子ね。」
「こんにちは、わたしは石川律代と申します。」(律代)
「律子さんから先生の事は聞いてます。」
2人はすぐに打ち解けあい話が弾む。
そして早速トリップの話になった。
「ところで、あなた行きたいんでしょ?」(里美)
「またあっちの世界に。」
「そうなんですよ。」(律代)
「わたし、また不思議体験したくって、」
「でも何だか律子さんが、渋ってるっていうか・・。」
「あらっ、そうなの?」(里美)
「思いっきり暴れてくればいいんじゃない?」
「先生、冗談は止めて下さいってば!」(わたし)
「この間、わたし達が上海で経験したこと、」
「お忘れですか?」
「ごめん、ごめん!」(里美)
「少し悪ノリだったわね。」
「だって、こんなに可愛らしいお嬢さんなんだもん。」
「わたしも、見てみたいかも、」
「律代ちゃんの活躍ぶりを。」
大きくうなずく律代。
先生は最初からこの子を巻き込むつもりだったみたいだ。
「律子さん、ごめんなさいね。」(里美)
「実は大分前からヘレンと意見が割れていたんだけど、」
「古文書に『マスターは新たな力を得る』という一節があって、」
「それが何の事を言っているのか分からなかったのよ。」
「ヘレンは特別な力、例えばこちらの世界でも巨大化できる、とか。」
「でもわたしは補佐役のような人物が現れる予感がしていたの。」
「そしたら律代ちゃんの話でしょ?」
「わたしは確信したのよ。」
「これは必然的な出会いだったってね。」
「それに彼女が鏡を手に入れた経緯も何やら不思議よね。」
「その露天商、どこにもいないんでしょ?」
「そうなんです。」(わたし)
「あれからわたし達も現場に行ってみたんですけど、」
「見つかりませんでした。」
「それって、未来から来た使者だったりして。」(里美)
「あるかもよ、彼らはわたし達の事を全てお見通しで、」
「わたし達がどうするのかを見守っているのかも。」
あまりに突拍子もない話だが、そんな風に考えないと説明がつかない。
でも姉妹鏡が揃っている事は紛れもない事実なのだから。
随分と前のめり気味の先生と律代。
でも、このままトリップして向こうの世界で意味もなく暴れ回る気にはなれなかった。
「律代ちゃんは、トリップしてどんな事をしてみたいの?」(里美)
「高層ビルを回し蹴りでぶっ壊すとか、」
「戦車隊を踏み荒らしてやるとか、」
「大勢の小人の兵士達を踏み殺して歩くとか、」
「うわァ、どれも面白そうですよね。」(律代)
「なんかァ、わたしのおもちゃの世界?」
「・・いたいな。」
「先生、あまりけしかけないで下さいよ!」(わたし)
「この子、すぐその気になっちゃうんですから。」
「ホント、ごめんなさい!」(里美)
「わたしったら、つい自分の学説が当たったもんだから、」
「調子に乗っちゃったわ。」
「え~?じゃあ、やっぱり先生もダメなんですか?」(律代)
「わたしがトリップするのって。」
「ごめんごめん!」(里美)
「そうじゃないんだけど、」
「やっぱり人の命を奪うって事になるから、」
「律子さんはあなたがそれを背負っていけるかを心配してるのよ。」
先生はわたしよりも大人だからよく判っている。
でもこの子をトリップさせて経験を積ませたがっている事は容易に察しがついた。
「先生、じゃあどうします?」(わたし)
「彼女もうすっかりやる気満々っていうか、」
「あらっ?そういえば・・。」
「あなた、男を薙ぎ倒してみたいって、」
「確か言ってたわよね?」
いい事を思いついた。
何も巨大化するだけがトリップではない。
近い過去に戻ればほぼほぼ等身大で体験ができるのだ。
そうすればやたらと大勢の人を殺さなくても済む訳だ。
いずれにしても彼女をわたしの補佐役として利用したい先生。
そして一刻も早く彼女に経験を積ませたいのだ。
そうしたら、あの捕虜収容所の時代に行って少しだけ暴れてくればこの子も気が済むかも。
相手に怪我を負わせるかもしれないが、さすがに人殺しまでは・・、と思った。
「じゃあ、先生いっそのこと4ヶ月前にトリップすれば?」(わたし)
「わたしのサイズは身長180cmです。」
「律代ちゃんは192cmです。」
「そうねえ、その身長で鋼の体ですものね?」(里美)
「あなた達、絶対に死なないどころか怪我すらも負わないし。」
「えっ、マジですか?」(律代)
「相手が銃で撃ってきても、ですか?」
「そうよ、体に当たる前に弾かれるような感じかしら。」(わたし)
「じゃあ、相手の銃を奪い取って殴り倒すとか、」(律代)
「蹴り倒すとか、」
「ヤッバ~い!」
「なんか、マジで面白いかも。」
時代背景は例の収容所のように一般人がいない所がよい。
待てよ、収容者は一般人か。
それじゃあ、軍の駐屯地とか。
屈強な兵士しかいない所をイメージして行ってみるか。
そう妄想し始めたわたしだった。
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