第242話・優柔不断なわたし?
律代が帰った後、わたしはしばらくの間物思いにふけっていた。
“まずは先生に連絡しなくちゃ。”
先生、どんな反応するのだろうか?
2つの鏡は手に入ったし、すでに任務は完了しているし。
それに余計なお荷物になるのかもしれない16歳の女子高生。
変にウソをつく必要もないし、ここは正直にありのままを話せばよいのだろうと心に決めた。
そして、やおらスマホを手に取ると先生に電話した。
「あ、先生わたしです。」(わたし)
「あのォ・・。」
「あらっ、りっちゃんどうしたの?」(里美)
「あなたからの電話、待ってたのよ。」
「それで、どうだった?」
もの凄くテンションの高い、冷静沈着な人とは思えないくらいに期待のこもった話し方の彼女。
わたしは律代との出会いからさっきの彼女とのやり取りまでこと細かく正確に話した。
テンションは変わらずわたしの話に相槌を打つ彼女。
わたしが話し終わると、しばらくの間無言の時間が流れた。
恐らく十数秒くらいだっただろうか、でもわたしには数時間に思えるくらいに感じた。
すると、
「いいんじゃない!」(里美)
「その子。」
「すぐにわたしに会わせて欲しいかも。」
「えっ、ホントにいいんですか?」(わたし)
「まだ子供なんですよ。」
「それに・・。」
「でももう経験したんでしょ?」(里美)
「トリップを。」
「それに、ひと暴れしちゃったんだよねェ?」
「その子。」
「そうなんですけど・・。」(わたし)
「だったら話は早い方がいいわ。」(里美)
「その子と2人で任務遂行・・?」
「・・かしら。」
「とにかく、エリッシュの鏡を直に見たいし、」
「その律代ちゃんにも会いたいな。」
思ったよりもサクサクと話が進んでいく。
むしろ先生はこの事を強く望んでいたかのようだった。
“えっ、この事を、予想してた?”
そんなはずはないと思いながらも先生と会う日時を決めた。
そして先生との電話を切った後で律代に電話するわたし。
「あっ、律代ちゃん?」(わたし)
「わたし。」
「実はちょっと話があるんだ・・。」
そういって、里美准教授との出会いから一緒にトリップしたことやドイツや中国に行った事なんかを長々と話すわたし。
彼女の反応はとても素直でむしろ楽しんでいるかのようだった。
そして、
「もちろんわたしも会いたいです。」(律代)
「里美先生の話ももっと聞きたいし・・。」
「わたしの事も話したいし・。」
「いつにします?」
そんな感じですぐに話がまとまるわたし達。
おかしな事かもしれない。
彼女と一緒にいたときには、2人で世界を作ろう、だなんて妄想していたのに。
いざ先生と話すと冷静な自分に戻って、女子高生を巻き込んでいいものかと考え込んでしまう。
本当に優柔不断なわたしなのだ。
どっちがいいのだろう?
でも先生も律代もわたしの妄想の世界を強く望んでいるようだとすぐに分かった。
“迷っているのはわたしだけか。”
そう思うとなんだか悩んでいる事自体が馬鹿々々しく思えてきた。
今までにわたしがトリップに誘った人、何人いたっけ?
それに比べれば、女子高生の一人や二人。
どうってことないじゃん。
わたし達、無敵なんだし。
思い直して先生に律代との面談の日時を連絡した。
2日後、わたしは駅で律代と待ち合わせをして先生の大学に向かった。
「先生って、どんな人なんですか?」(律代)
「里美先生も向こうで暴れ回ったんですよね?」
「そうよ、コワい先生なんだからァ!」(わたし)
「って、ウソウソ。」
「とても優しい人で、凄い美人なの。」
「アラフォーで綺麗で知的で、常に冷静で・・。」
「そんな先生がトリップした時って、」(律代)
「どうなっちゃったんですか?」
「凄かったわよ。」(わたし)
「先生、人が変わっちゃったみたいだった。」
「凛飛びとか、凛蹴りとか、」
「凛ツバ責めとか。」
「え~!なんですか?」(律代)
「その凛ツバ攻撃って?」
「口の中でツバをシェークさせて、」(わたし)
「捕虜にした手の平の上のドイツ兵どもに吹き掛けるのよ。」
「その後で、生温かい女子息をたっぷりと吐き掛けるの。」
「けっこう可哀想だったかも・・。」
「犠牲になった人達。」
「うわァ、面白そう!」(律代)
「先生、わたしと気が合うかも。」
「ってか、絶対にわたしと相性がいいんじゃないかしら。」
「ねえ、律子さん。」
「次のトリップ、先生と3人で行くっていうの、」
「どうですか?」
「なんかァ、凄く楽しそうかも。」
確かに先生の事だから、律代を大歓迎して一緒にトリップって事になるのかもしれない。
それも仕方ないか、と思いつつ何か引っ掛かるわたし。
また優柔不断な一面が出てきてわたし自身を思い留まらせようとするこの気持ち。
ここ最近先生と中国で体験してきた酷い惨状や、横浜での惨たらしい現場を思い出すわたし。
この子みたいに、面白半分にヘラヘラと笑いながら破壊と殺戮を繰り返していいものか?
自分勝手な優柔不断さにほとほと嫌気がさすわたし。
でも前に進まなければいけない状況に後戻りはできないと実感し始めていた。
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