第240話・小人イジメの世界とは
「あのォ、」(律代)
「律子さんも、そのォ、」
「けっこう暴れた?」
「やっちゃったんですか?」
「あの世界の人達を相手に、」
「わたしよりも?」
ようやく顔を上げた彼女は恐る恐るわたしに尋ね始めた。
「あなたよりもね。」(わたし)
「もっともっとたくさん・・。」
「数千、いや数万人かも。」
彼女はわたしの言葉に思わず絶句した。
「それに、殆ど等身大のトリップをした時なんて、」(わたし)
「機関銃で何十人もいっぺんに射ち殺したり、」
「履いているブーツで蹴り殺したり、」
「殴り殺したり、」
「わたしも随分やった・・。」
「そう、あなたよりも何百倍もの人達を葬ってきたわ。」
「ただのアラサー女のわたしがよ。」
「今さらだけど、」
「今はそれをとっても後悔している・・・。」
わたしも言葉を詰まらせる。
「わたし達の世界にやってきた、」(わたし)
「あの巨大オンナのリリア。」
「実はあの子の家族を踏み殺したのもわたし。」
「だから全部わたしのせいなんだ・・。」
思わず口に両手を当ててカッと目を見開いている彼女。
返す言葉が無いらしい。
「そうよ、あなたは今、」(わたし)
「大変なオンナと話しているのよ。」
「そしてこの手鏡。」
「わたしのとあなたの、」
「この2つが揃うとわたしは無敵の破壊神になるみたい。」
「でも、分かんないのよね。」
「この先どうなるのか、」
しばらくの間、黙り込むわたし達。
「律代ちゃん、」(わたし)
「あなたはどうしたい?」
「わたしに関わりたいと思う?」
「破壊の女神になりたい?」
もうここまで来たら彼女の意思に関わらず、なのである。
でも一応彼女がどうしたいのか確認してみたかった。
「わたし、」(律代)
「正義の為なら、」
「この力を使ってもいいと思ってます。」
「本当に悪い人達を倒すためなら。」
「でも・・・・。」
「人を殺すのは、」(わたし)
「イヤよねェ?」
「でもわたし、」
「あの頃は楽しんでいたわ。」
「こうやって・・。」
そう言いながら唇の間から舌を出して見せる。
「えっ?」(律代)
「小人を舐めたんですか?」
「違うわよ!」(わたし)
「ツバまみれにしてやったのよ。」
「こうやってね。」
白く濁った唾液と一緒に舌を左右に滑らせるわたし。
「うわァ、なんかイヤらしい!」(律代)
「そんな事してたんですか?」
思わず笑いだしそうな表情で口を押さえる彼女。
「想像してみてよ。」(わたし)
「わたしの唾液でもがき苦しんでいる男どもの事を。」
「息もできない状態で巨大なアラサー女のツバで溺れてくんだよォ。」
「うふふ、ちょっと可哀想かも。」(律代)
「なんか、女王様みたいですよね。」
「それって、」
「そうなのよ。」(わたし)
「これって、完全にSMプレーの世界だと思ったわ。」
「でも楽しかったァ。」
「あの頃のわたし、」
「職場の事で随分ストレス抱えていたし、」
「なんか無性に腹を立てていたし。」
「そんなうっぷんを晴らすのには、」
「うってつけだったのよ。」
「トリップする事がね。」
「なんだか、わたしも、」(律代)
「体験してみたいかも。」
「そのツバ責め、でしたっけ?」
「JKのわたしにやられたら、」
「相手の人は幸せかなあ?」
「うふふっ。」
口の中をもごもごさせながら楽しそうな彼女。
やっと気持ちがほぐれてきたんだと感じた。
思えば随分酷く残酷な拷問なのだが。
女の子にしてみれば、支配欲が満たされてたまらなくなるようだ。
小人とはいえ相手は列記とした男性兵士なのだから。
小麦色をした健康的な肌をした彼女。
スラリとした長身に細身の体。
それでいて優しそうな表情で可愛らしい顔立ちだから。
先ほどの暴力的な描写とのギャップは激しい。
こんな話をあえてしたのは、とにかく憂鬱な表情の彼女の気持ちを切り替えるためだ。
思ったよりも素直に反応してくれた。
「でも等身大でトリップって?」(律代)
「どういう事なんですか。」
「本当に近い過去にトリップすると体の大きさが、」(わたし)
「あまり変わらないのよ。」
「身長164cmのわたしが、」
「180cmくらいとか。」
「それでいて鋼鉄のような体と強力な肉体は担保されているから、」
「あちらの世界の武器は一切わたしには通用しないし、」
「暴れ放題なのよ。」
「じゃあ、銃を持った男の兵隊を投げ飛ばしたり、」(律代)
「蹴り倒したり、」
「簡単にできるって事ですか?」
「えっ、マジですか?」
「ウぅ~、やってみた~い!」
「わたし一度でいいから、」
「男を薙ぎ倒してみたいっていう願望が、」
「ありま~す!」
この子、思ったよりSな性格なんだ。
普段優しい反面、けっこうストレス抱えているんだ。
この子を怒らせると結構ヤバそうな事になるんだと感じた。
でもそのくらいの度胸がないとダメ。
か弱い女の子には務まらない役目だから。
“役目?”
わたしは彼女と談笑している内にすっかり妄想していたのだ。
この子をサブマスターにしてわたしと一緒に世界から悪を根絶やしにしようと・・。
妄想も甚だしいけど、きっと彼女とだったら変えられるかもしれない。
そう感じると、ますます小人イジメの話で盛り上がるわたし達だった。
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