第234話・お邪魔しま~す!
「ねえ、律子さん、」(律代)
「どうします?わたし達。」
「街に入るのは止めといた方がいいかも。」(わたし)
「このまま入っていったら、」
「この街、メチャメチャになっちゃうよ。」
「でも、わたし!」(律代)
「街中を歩き回りたいんですぅ。」
「なんていうか、」
「そのォ、このわたし達のでっかい体で、」
「練り歩く快感?」
「優越感?」
「女神になった・・、みたいな。」
「暴れ回りたい訳じゃありませんよ。」
「わたしだって、女の子ですから。」
「そんな、暴力だなんて・・。」
「気持ちは分かるけど、」(わたし)
「わたし達、ホント、」
「でかすぎ!」
そんなやり取りをしながら時間を確認するわたし。
スマホのストップウォッチではすでに30分を過ぎていた。
“よし、あと30分だ。”
ナチスの部隊と遭遇する前にここから離れなければ、と思った。
わたしの最初の不思議体験の時もナチス軍に攻撃されてから暴れる事になったっけ。
とにかく彼女を諦めさせて人けの無い場所に誘導しようと思った矢先だった。
「ごめんなさい!」(律代)
「わたし、」
「もうガマンできませ~ん!」
“グシャッ!”
“グシャッ!”
“プシュッ!、プシュッ!”
“グシュッ!”
わたしの静止を振り切って歩き始めた律代。
道路上の車を踏み潰し、電線や架線を引き千切り、ゆっくりと歩きながら“進撃のJK”になったのである。
でもよく見ると彼女は自分と反対方向に進む車線側を歩いている。
道幅はだいたい20cmくらいで、彼女が踏み潰している車はどれも無人の路上駐車しているものだった。
彼女の巨大なゴム長靴が電線を引き千切るのは仕方なかった。
「本当に、ごめんなさ~い!」(律代)
「わたし、歩きたいだけなんで~す!」
「お邪魔しま~す!」
「だからわたしの足元から、」
「すぐに逃げて下さ~い!」
「お願いしま~す!」
ゴム手袋を嵌めた両手を口に当てながら、町中の人々に向かって叫ぶ彼女。
こうなったらわたしも彼女をフォローするしかない。
だからわたしも不本意ながら彼女の歩いた後に続いた。
慎重に歩いているとはいえ、わたし達巨大女の歩いた後の道路は靴跡でグジュグジュになっている。
わたし達が一歩また一歩と歩く度に“ズシン!ズシン!”と凄まじい轟音が響き渡っている。
もちろんわたしの足音も響いていた。
罪悪感を感じながらも最初のトリップ体験の時を思い出して少し懐かしい気がしてきた。
巨大な体ゆえに迷惑を掛け続けるわたし達。
しかもおしゃれな女性の服装ではなくて、職場から直接やって来たジーパンにゴム長靴姿のパートオンナの2人である。
「ここって、ヨーロッパですよね?」(律代)
「なんか、街並みがそんな感じ。」
「わたしの憧れの場所かも。」
「リアルっぽい夢とはいえ、」
「実際にこんな街の中を歩けるなんて、」
「ホント、ヤバすぎです。」
「夢が叶って良かったわね?」(わたし)
「でもこれって、ホントに夢だけど・・。」
「夢なら、わたし達・・。」(律代)
「ちょっとくらいイタズラしても、」
「よくないですかね?」
「ちょっとだけ暴れてみたり、」
「・・みたいな。」
「ウソウソ、ウソですってばぁ。」
「そんな事しませんよォ。」
街中を歩き回り始めてだんだん気持ちが高揚し始めるのは仕方がない。
わたし達がちょっと足を振り上げればビルを粉々に粉砕するのはたやすかった。
でも彼女はすでに先ほど郊外のドライブインでその快感を体験済みなのである。
「あらっ、このビルの中、」(律代)
「人がいっぱいいるわ。」
「おもしろ~い!」
急に立ち止まった彼女、12階建てのビルの上層階を覗き込もうとしゃがみ込んでいる。
この高さのビルもわたし達のサイズだとわずかに60cmほどだから膝よりも少し上位である。
この街の殆どの建物はわたし達のワークマスターの筒先の部分くらいだから、彼らは巨大な白い柱のようなゴム長靴がのっしのっしと歩いているのを目の当たりにしている。
この巨大な柱がいつ何時暴れ始めるか、気が気ではないのかもしれなかった。
「ちょっと、ごめんね!」(律代)
「ほらほらぁ。」
「お邪魔しま~す!」
イタズラ好きな彼女は最上階の窓ガラスに人差し指を無理矢理突っ込んでいる。
ビルの窓ガラスは簡単に弾け散り薄緑色の律代のゴム手袋の指先がフロア内に侵入し始めたのだ。
「ちょっと、何やってんのよ!」(わたし)
「あっ、わたしったら。」(律代)
「マズかったですか?」
「ちょっとイタズラしてみたくなっちゃって。」
そう言いながら、指を引っ込める事もなくそのままグリグリとビル内に指をねじ込み続けている。
すでに中指や薬指もビル内に侵入し窓ガラスだけではなく外壁もメリメリと崩落し始めていた。
そんな事はお構いなしに左手でビルの屋上を掴みながら右手をビル内にねじ込み続ける彼女。
舌をペロリと出しながらやがて右手全体がすっぽりとビルの中に吸い込まれ12階と11階はメチャメチャになっていた。
「捉まえたわ!」(律代)
「何かしら、これ?」
ねじ込んだ右手で何かを鷲掴みにしながら手を引き抜く彼女。
“ジュヴォッ!”
「あらっ、やだぁ!」(律代)
「これって人?」
彼女の右手の平の上にはグチャグチャになった瓦礫片と共に数十人の人々の遺体が載っていた。
面白半分にやってはいけない事をやっちゃった巨大女子高生の律代だった。
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