第233話・巨大JKの本性?
「律子さん、」(律代)
「ちょっと持っててもらえます?」
「これ。」
そう言って掴んでいる10トントラックをわたしに渡そうとする彼女。
わたしは仕方なく両手を合わせた状態で彼女の前に差し出すと、彼女はわたしの両手の平の上にトラックを優しく置いた。
中の運転手は怖がって外に出てこようとしなかった。
「どうするの?」(わたし)
「さすがに、素手で触るのって、」(律代)
「抵抗あるじゃないですか。」
「だからこれ、嵌めちゃいま~す。」
そう言いながら彼女はジーパンのお尻のポケットにねじ込んであったゴム手袋を取り出した。
薄いグリーンの使い込んだ汚れたゴム手袋。
外折りにしていた濃い緑色のシャツの袖口を戻して、ゴム手袋にしっかりとインさせた。
ゴム長靴にゴム手袋姿の巨大女子高生律代。
「じゃあ、それ返して下さい。」(律代)
「わたしの“おもちゃ”。」
わたしの手の平からトラックを掴み上げると左手の上に載せて、右手で摘まんでは前後に動かして弄ぶ彼女。
「うわぁ、面白~い。」(律代)
「なんか、童心に帰っちゃいますよね。」
「ほらっ、出てきなさいよ。」
「ほらほらぁ~!」
中で縮こまる運転手を無理矢理引きずり出そうとする彼女。
素手で触るというのは小人の事だったのだ。
いくらこれ程巨大な体でも生身の小人を触るのは勇気がいる。
「じゃあ、わたしも。」(わたし)
そう言ってわたしもポケットにねじ込んでいた白いゴム手袋を引っ張り出して嵌めた。
「あ~、律子さんのゴム手って白いんですね。」(律代)
「でもめっちゃ汚れてますよね?」
「いいのよ!」(わたし)
「どうせ職場で使うものなんだから。」
わたしのゴム手袋も彼女のに負けず劣らず薄汚れていた。
そんなゴム長オンナ2人が小さなトラックをおもちゃにしている様は異様だったのかもしれない。
「ほらぁ、出て来いよ!」(律代)
「わたしが遊んでやるっつってんだろ~が!」
「コイツ、潰されたいのかよ?」
いきなり口調の変わった彼女。
さすがにドン引きするわたし。
「あっ、ごめんなさい!」(律代)
「いつものオンラインゲームやってる時の口調になっちゃいました。」
「律代ちゃんて、ゲーム好きなんだ?」(わたし)
「めっちゃ好きなんです。」(律代)
「ついついこんな乱暴な口調になっちゃうのがちょっと・・。」
「早く出てきなさい!」
「コワがらないでェ。」
そう言いながらドアを指でむしり取ると無理矢理小指を車内にねじ込んで反対側のドアから運転手を押し出そうとした。
小人はたまらずドアを開けて外に飛び降りた。
「おっと、危ない!」(律代)
「落っこちたら死んじゃうよ。」
落ちそうになった小人を素早く右手の平で受け止めた彼女。
優しく左手の平のトラックの脇に降ろした。
「コワがらせちゃってごめんね。」(律代)
「それに、さっきはガソリンスタンドを踏み潰しちゃって、」
「ホント、ごめんなさい!」
優しい口調で小人にささやき掛ける彼女。
でも右手の人差し指はこの小男を突っつき回している。
「そう言えばこの人って、外人?」(律代)
「ですよね・・。」
「日本語、判んないのかも・・。」
「わたし英語なんてできないし、」
「律子さんは?」
「わたしだって無理よ。」(わたし)
「とにかく、アンタの名前は?」(律代)
「えっ、なに?」
「聞こえないってばぁ。」
小人は殺される風ではなさそうと思ったのか、律代を見上げながら何かを叫んでいるようだった。
かすかに聞き取れた単語は英語ではなく、ドイツ語のようだった。
やっぱりここはゲルマニア帝国領内なんだと判った。
「なに言ってんだかさっぱり判らないからぁ。」(律代)
「そろそろ解放してあげるわね。」
そう言うと彼女はまずトラックを摘まみ上げて足元にゆっくりと降ろした。
そして小男をちょこんと摘まんで地面に優しく降ろしてあげた。
「ほらっ、帰っていいわよ!」(律代)
運転手は恐る恐る車に乗り込むとエンジンを掛けて町の方に向かって走り去った。
「じゃあ、わたし達も行きますか?」(律代)
“ズシン!”
“ズシン!”
“ズシン!”
再び進撃を開始したわたし達。
一時はどうなるかと思ったけど、むやみに踏み潰したり小人をひねり殺したりしなくて本当に良かった。
ヤバい本性だと一瞬思ったけど、普段の職場で見る彼女と全く変わらない性格だった。
ゆっくりと歩いてはいたがすぐに町の入口に到着したわたし達。
「いよいよ着きましたね。」(律代)
「わたし達!」
「それにしても本当に精巧にできてますよね。」
「この町。」
「なんかぁ、ぶっ壊すのが、」
「悪いみたい。」
「え~、あなた暴れるつもりなの?」(わたし)
「冗談ですってば。」(律代)
「生身の小人を触ってるんですよ、」
「わたし。」
「模型の街じゃないんだから、」
「そんな事しませんよ。」
「そうよね。」(わたし)
「わたし達、優しい女性だし・・。」
「でもこれって、やっぱりヤバいかも。」(律代)
彼女が指さしたのは町中に張り巡らされた路面電車用の架線や電線だった。
それに道路には車がぎっしりと並んでいる。
ブロードウェイには大勢の人々がごった返していた。
街に入るという事は人や車や電線を踏み荒らすということだった。
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