第232話・町に向けて進撃開始よ!
わたし達の場所から約50m程のところに広がる町。
町の周囲には牧草地や森林地帯が広がっていた。
良く晴れた明るい陽射しの中で、美しいグリーンの大地にクリーム色を主体とした住宅やビル群。
そんな綺麗な世界でわたし達だけが悪い意味で際立っていた。
どす黒い油汚れが付着した白いゴム長靴に摺り切れそうなジーパン姿の巨大なオンナ2人である。
「よ~く見ると、結構大きな町みたいですね。」(律代)
「中心街にはビルなんかもあるみたいだし。」
「とにかく綺麗な世界だわ、ここって。」
「なんだか、わたし達がグチャグチャにしちゃって、」
「悪いみたい。」
「そうよね。」(わたし)
「この辺り一面もわたし達の靴跡でいっぱいだしね。」
「わたし達の大きさってどのくらいなのかなあ?」(律代)
「え~っと、」
「さっき踏み潰した車と人間の大きさが、」
「このくらいだから。」
「きっと100倍くらいじゃないかしら。」(わたし)
「だとすると、わたしってぇ、」(律代)
「身長175mってことですかね?」
「うわぁ~、ヤバッ!」
「めっちゃ、でっかいオンナ!」
「わたし、この身長にコンプレックスなんてありませんけど、」
「でもさすがに、175mはヤバいっしょ!」
「律子さんは?」
「わたしは164mってとこかしら。」(わたし)
「律子さんもヤバいですよね。」(律代)
「だとすると、わたし達の体重ってどのくらいなんだろ?」
「10万トン位かしら。」(わたし)
「200m位のタンカーってその位よねぇ?」
「よくわからないですけど、」(律代)
「10万トンどころじゃないかも、ですよね。」
「でなきゃ、こんなにズボズボ沈まないじゃないですか。」
「わたし達、こんな巨体であの町に入ったら、」(わたし)
「どうなっちゃうんだろう?」
白々しく彼女に問い掛けてみる。
よもやナチスの駐留部隊が攻撃してくるだなんて思ってないのだから。
「わたし達、町の人たちにわたし達の優しさをアピールしなくちゃ!」(律代)
「ですよね?」
“よかった!、この子ちゃんと分かっているんだ。”と思った。
いきなり暴れたりはしないよね。
でもさっきの彼女の行動パターンが少し気になる。
「もちろん、そうよ。」(わたし)
「もしこの世界の軍隊がいたら、」
「ほんと、ヤバいわよ。」
「戦車とか、」
「拳銃並みの威力があるのかもよ。」
「先輩!」(律代)
「大丈夫ですってば!」
「ここは夢の世界ですよ。」
「パラレルワールドっていうんですかね?」
「わたし達って、不死身の巨大ワクマスりんりんシスターズですよ」
「それもそうね。」(わたし)
この子ったら、今まで連れてきた女子達みたいに慌てたりしないんだ。
完全に夢の世界に入り込んだと思い込んでるから、何でもアリ?
・・みたいな、感じなのかしら。
だとすると、町に入った途端にパニックになった一般市民達や、やがてやってくるナチスの部隊と相対したらどうなっちゃうんだろう?
わたし的には興味津々ながら少しコワいような気がしてきた。
身長175mの彼女、長い長い美脚が唸りを上げて戦車隊を蹴り散らすんだろうか?
でも彼女の性格からして、それは無いだろうと思っていたわたし。
いけない事だとは思いつつ、彼女の行動や反応に少なからずワクワク感を覚え始めていた。
トリップして暴れ回っている頃の感覚が蘇ってきたみたいだった。
“いけない、いけない!”
また“S”だった頃のわたしに戻ってしまう。
でも不思議とこの間先生と一緒に破壊された上海の町を視察した時とは全く違う感覚なんだと感じていた。
恐怖心や憎悪や虚脱感のようなどうしようもないブルーな気分は全然なかった。
むしろ巨大な体の自分自身を誇らしく思うような、何でもできるという神にでもなったような高揚感に包まれていた。
そんな悪魔のような過去の自分に戻っていくのを必死になって抑えようとしていたのか、わたしは無意識に道路を踏み荒らす事もなく道路脇の大地を踏み締めながら歩いていた。
それに引き換え律代は、
“ジュヴッ!”
“ジュヴッ!”
“ジュヴッ!”
「なんか、クセになりそうな感触!」(律代)
「霜柱の上を歩いているっていうか・・。」
「この世界の人達には申し訳ないんですけど、」
「このぐちゃぐちゃ感がぁ、」
「マジで、快感かも!」
彼女の履いている巨大なゴム長靴が道路を電信柱や街灯ごと踏み砕き、へし折りながら突き進む。
すると前方から1台のトラックが走ってくるのが見えた。
わたし達から10m程のところだ。
今まで巨大オンナのわたし達に気づいていなかったのか、急ブレーキを掛けて停車するとすぐにUターンをし始めた。
それを見て駆け出す律代。
「待て~!」(律代)
「待ちなさいってば~!」
「こらっ!」
「待てよォ!」
そう叫びながら逃げ出そうとする大型トラックに駆け寄る彼女。
Uターンに手間取っている間に巨大オンナの右手が荷台を鷲掴みにした。
「待てって言ってんだろ!」(律代)
「ったく、聞こえないのかよ!」
「ほらぁ!」
そう舌打ちしながら掴み上げたトラックの運転席を覗き込む彼女。
中のドライバーは恐怖で凍り付いているようだった。
それを見て笑い出す彼女。
「うふふッ、こいつ固まってやんの。」(律代)
「ほら、こっち見なさいよ。」
「わたしの事、コワい?」
「あっはっは!」
「わたし、マジでヤバすぎ!」
これが彼女の本性なのか?
ホントにヤバい女子高生なのかもしれない。
次回の更新は8月11日(0:00)になります。