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巨大ヒロイン・ジーパンレディー律子  作者: スカーレット
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第221話・殺戮への怨念

 わたし達が見たリリアのブーツの靴底の長さはおよそ60mにも及んでいた。

幅は21m程で見上げるような巨大なオブジェのようだった。

想像以上に巨大な靴底は美しい曲線で縁取られ、底面の真ん中には楕円形のたまごのような形の滑り止めが彫り込まれていた。

その部分の周囲には横ストライプの線が無数に走っていた。

そして土踏まずの部分には24.5という表示があって泥汚れで半分しか見えない。

地面に着地している太いヒールは15m丈で底面は波打ち模様の線で覆われていた。

非常に埃っぽい底面全体が赤茶色のような無数のゴミが付着していて、どす黒い泥汚れと油っぽい付着物にまみれていた。


「先生、あの赤茶色のドットのような物体何ですかね?」(わたし)

「何だか、無数に靴底全体にへばり付いているみたい・・。」


「あれって、人間の体じゃないかしら。」(里美)

「ちょっと双眼鏡貸してくれる?」


リンファがすかさず先生に高性能の双眼鏡を手渡した。

目の前に鎮座している巨大な底面をまじまじと観察する里美。


「酷過ぎるわねこれって、あまりにも惨いわ。」(里美)


そう言うとわたしに双眼鏡を手渡してくれた。

レンズのピントはしっかりと合っていて、赤茶色のモノが何かすぐに判明した。


「あれって、人の生首ですよね・・。」(わたし)

「それに、潰れた胴体や肉片とか・・。」


それ以上は言葉にならなかった。

凄まじい腐臭の原因となっているのは彼女に踏み潰された犠牲者達の無数の遺体片だった。

完全な人間の形をした遺体は殆ど無くて、頭や胴体や手足が千切れたようにバラバラになって、ストライプの溝に埋まる様にへばり付いていた。

潰れた遺体の肉片にくっ付いている着衣は赤黒く染まっていて、体液や内臓が泥と混じって底面全体をコーティングしているようだった。

わたしが覗き込んでいるこの双眼鏡は余程高性能なものらしく、潰れた遺体の頭部の顔の表情までもがはっきりと見て取れた。

苦悶に歪んだ顔、目を見開いて半分グチャっと潰れた顔、絶望で打ちのめされた顔・・・。

犠牲者達の無念の表情は面白がって踏み荒らしていた巨大オンナへの憎しみで溢れていた。


“こんなもの見せられたら、もうトリップなんてできないわ。”


このブーツの底面には無数の人々の怨念が擦り付けられていて、巨大オンナを崩壊させた一因になっていたんだと実感させられた。


“わたしも今まで、随分たくさんの命を奪ってきたから・・。”


自分自身に向けられた犠牲者達の念というものを考えた事が無かったわたしは、あらためて思い知らされる事になった。

わたしの事を察してか、先生も言葉を発することも無く、この巨大な殺戮のオブジェを見つめている。


「あの亡くなった人達のご遺体は回収されるんですか?」(わたし)


何となく担当のリンファに尋ねてみるわたし。


「今は、まだどうするか全く決まっていないんですよ。」(リンファ)

「あれでは身元の確認は困難ですし、このブーツそのものをどうするのかも決まっていないんです。」


「そうよねえ、こちらの世界の器機では解体することなんてできないし、いっそのことグラウンドゼロにしちゃうなんて手もあるかもね。」(里美)


“グラウンドゼロ”

アメリカで起こった同時多発テロで崩壊した超高層ビルの跡地がそう呼ばれている。

上海で起こったこの巨大オンナによる大量殺戮テロの記念碑にするっていう事なのだ。

それにしてもこの酷い状態のままという訳にはいかないだろう。


「犠牲者ってどのくらいなんでしょう?」(わたし)


「恐らく数万人規模だと思われます。」(リンファ)

「あのNYでのテロの犠牲者の10倍以上ではないかと・・。」


寂しそうな声で答えてくれた彼女。

これ程多くの自国民が犠牲になるなんて事、戦争以外では無いからきっと無念なのだろう。

自分自身がこの大量殺戮に深く関わっている事が、わたしの心に重くのしかかっていた。


「そろそろ戻りましょ!」(里美)


「車を用意してきます!」(リンファ)

そう言うと彼女は小走りに車の方へと行ってしまった。


「ホテルに戻って今後の事を考えましょう。」(里美)


「はい。」(わたし)


わたしは消え入りそうな声で応えるのがやっとだった。

どうせまた先生はわたしにトリップさせようとしているんだと容易に想像がついた。

こんな光景を目の当たりにした心理状態ではとてもトリップする気にはなれまい。

どうやって回避しようかという事を本気で考え始めていたわたし。

でも、非常に勘のいい先生の事だからわたしの心の内なんてとっくに見抜いているのだろう。


「先生、律子さん、どうぞ。」(リンファ)


彼女の車で現場を後にしたわたし達。

車内は重苦しい雰囲気に包まれ皆無言のままだった。

30分程で中国政府が用意してくれた高級ホテルに到着し、一旦部屋に入って少し休むことになった。


「リンファちゃん、本当に今日はありがとね!」(里美)

「ホント、お疲れ様でした。」


「先生達の方こそお疲れ様でした。」(リンファ)

「今日見た光景は早く忘れた方がいいかもしれませんね。」


そう言うとわたし達に一礼して車に乗り込む彼女。


「それじゃあ、わたし達は部屋で1時間程休憩しましょ。」(里美)

「あなたも疲れたでしょ?」

「休憩の後で、食事にしましょう。」


「はい。」(わたし)


またか細い声で応えるのがやっとだったわたし。


多忙のため次回の更新は5月25日(0:00)になります。


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