第214話・汚染されたわたしは・・。
体中から異臭を放ち、強烈な腐敗臭を吐き掛けるリリア。
彼女の薄汚れた手袋の上に捕らわれた人々は既に全員が失神して意識を失っているようだった。
「アラッ?みんなどうしたの?」(リリア)
「わたしの息ってそんなに臭いのかしら?」
「でもこれって、仕方が無いんです。」
「わたし、もうそんなに長くないかも・・。」
彼女自身も自覚しているんだと分かった。
“もうあの子も腹をくくったのね。”
そうこうしている内にリリアの顔が青白く変色している事に気付いた。
顔中に紫色のひび割れが起こっていて、見るからに恐ろしい顔に変貌していた。
「ウッ、ウッ、ゲホッ!」(リリア)
「ゲヴォッ、ペッ!」
「アラッ、ごめんなさい!」
突然咳き込み始めたかと思うといきなり口からだいだい色に近い泡状のツバの塊を吐き出した彼女。
手の平の人々をもろに巨大なツバの塊が包み込んでしまった。
散々臭い息を吐き掛けられた上に、ジーパンオンナの汚染されたツバに飲み込まれた十数人の人達はとっくに息絶えていた。
そんな光景を見つめながら、人々を載せていた手をだらりと下げてしまう彼女。
彼女のレザーのロング手袋の指先からトロ~リと濃厚なツバ泡が滴り落ちている。
その巨大な泡状のツバと共に犠牲になった人々の遺体がヌメッた状態で地上に落下していくのが見えた。
“可哀想な人達!”
“家族で食事をしに来ていただけなのに・・。”
もはやリリアを責める気にもなれなかった。
“ズシーン!”
“ズシーン!”
すっかり力が抜けたような体つきでつんのめって食料品店やフードコートのアーケード街を踏み潰す彼女。
ふらふらした足取りで市場中を踏み鳴らしながら歩き回る。
彼女の巨大なブーツで踏まれた所はボッコリと陥没していて、後にはギザギザ模様の靴跡の中に踏みしだかれた残骸やら人の肉片らしきものまでが刻印されていた。
「ああ~、わたし、もうダメかも・・。」(リリア)
両手で髪の毛を掴むとバッサリとロングヘアーが剝がれるように抜けてしまった。
両手で抜け落ちたシルバーの髪の毛を鷲掴みにしている彼女。
「もうイヤ!」(リリア)
「こんなもの!」
そう叫ぶと引き抜いてしまった髪の毛を足元に投げ付ける彼女。
ゲロと痰唾にまみれた市場中に巨大オンナの髪の毛が大量にばら撒かれたのだ。
もうこの市場は完全に汚染されて二度と使えないだろうと思った。
すると今度はカメラが彼女のジーパンをアップで捉えた。
“えっ、何?”
「ウソでしょ!」(わたし)
思わず声に出して呟いてしまうわたし。
彼女のジーパンの股間の辺りが濃く濡れているのだった。
「あれって、おしっこ?」(わたし)
「漏れ出て来ちゃったんだわ。」
よく人は死ぬと排泄物がそのまま出てしまって垂れ流し状態になると言われているけど・・。
“彼女はまだ生きているのにそんな状態になっているのかしら?”
すっかり使い込んで色落ちした彼女の細身のジーンズがベチャベチャに黒ずんでションベンまみれになっていた。
現場のレポーターが盛んに叫んでいる。
「強烈なアンモニア臭がしてきました。」(レポーター)
「腐敗した臭いに混じって小便のような臭気が漂い始めています。」
「こちらは正に阿鼻叫喚の状態になってきました。」
「わたし達もあまり長居できなくなりそうです。」
「あまりの臭いに目がかすみそうです。」
心なしか先程から画面が揺れているのはそういう事だったのか。
経験豊富な現場カメラマンでさえも、リリアの放つ臭い地獄に失神寸前なのだろう。
レポーター達がいる現場はリリアが吐き掛けた吐しゃ物や痰ツバが飛散している所だった。
彼らは膝まであるレインブーツを履いていたが、巨大オンナの胃液やツバによってブーツのゴムから薄っすらと湯気が出始めていた。
「アッ!やだ~!」(レポーター)
レポーターの女性がリリアの髪の毛に足を取られて思わず転んでしまった。
彼女は手にロングタイプのゴム手袋をしていたが、両手や顔にまで汚染水が掛かってしまった。
髪の毛と言っても身長が400m以上もある超巨大オンナの髪の毛だから、その太さは2cm位あって極太のケーブルのように辺り一面に折り重なっていた。
「オイッ!どうした?」(スタッフ)
「大丈夫か?」
転んだ女性レポーターのそばにいたスタッフの叫び声が聞こえてきた。
先程転んで上半身が汚染水にまみれてしまった彼女。
一瞬カメラが捉えた彼女の顔面は茶色く変色し歪んだ状態になっていた。
同僚のカメラマンはすぐにアングルを変えたがまるで溶解人間のようになってしまった彼女は話す事すらできなくなっていて、程なくパタリと倒れる音が聞こえてきた。
すぐに別のチームのカメラに切り替わりあのレポーターがどうなったのかは分からなかったが、すでにこの世の人ではなかっただろう。
リリアが吐き出したゲロや痰ツバは時間の経過と共に毒素が強くなって生身の人間が触れると肌を溶かしてしまう程強力な酸になっているようだった。
現場のクルーにはそのことがすぐに伝わったらしく上空のヘリからの映像に切り替わった。
「何よ!」(リリア)
「わたしから逃げる気なの?」
「そうはさせないわよ!」
「エイッ!」(リリア)
「ソレッ!」
“クシャッ!”
“グシャッ!”
血迷ったのか、巨大オンナは撤退を始めた報道用の中継車を次々と踏み潰し始めた。
もう誰も彼女の崩壊を止める事などできるはずも無かった。
申し訳ありません。
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