第212話・“6”の謎とは?
“ズシーン!”
“ズシーン!”
“ズシーン!”
大股で歩くリリア。
かなり気を使って歩いているのは分かったけれど、彼女の歩いた後には踏み抜かれてズタズタになった道路と、道路上にあった車両や街路灯などがぺっちゃんこになって押し潰された悲惨な光景だけが残されていた。
破壊の女王リリア。
そんな巨大な彼女も体の内部から起こっている異変にはどうすることもできず抗えない状態だった。
そしてガラス張りの超高層オフィスビル群にやって来た彼女。
膝に手を置いて少し屈むようにしてビルの外壁を覗き込む。
「ふっ!」(リリア)
僅かに彼女のため息が聞こえて来た。
“ジュッヴォーン!!”
心臓が止まるかと思うくらいの大音響がテレビから響き渡った。
何事かと思って画面を見ると、キラキラと細かい煌きが画面中に舞っていてとても幻想的な光景だった。ただその美しいキラキラの背後にはどす黒い煙と炎が噴き上がっていた。
何を思ったのか、リリアがロング手袋を嵌めた手でビルの外壁を殴り付けたのだった。
キラキラと輝いていたのは突然巨大な革製のロング手袋によって叩き壊されて空中に飛散した細かなガラス片だったのだ。
彼女の正拳突きをもろに喰らったこのビルは大きな穴が開き黒煙が噴き出し、内部は炎で包まれていた。
「ご、ごめんなさい!!」(リリア)
「わたしったら、またやっちゃった・・。」
「悪気は無かったんです。」
目の前のビルをぶっ壊してすぐに謝る彼女。
やっている事はチグハグなのだが、彼女の気持ちも解らないではない。
女の子なら、だれでも衝動的に暴力を振るうのかもしれない。
あんな顔を見てしまったら・・。
オフィスビル群に向かっている間に彼女の髪の毛は更に色落ちして白くなり、顔も青白くなって濃い紫色のひび割れのような傷は顔を引き裂くように左右に走り始めていた。
下唇の周りには黄色い泡が垂れ落ちていて、さぞや酷い臭いなんだろうと想像できた。
唇の周りの黄色いよだれを手袋で軽く拭うと少し鼻の辺りに近づけてみる彼女。
余程臭いのか一瞬顔を背けたように見えた。
「わたし・・。」(リリア)
「わたしは、どうしたら・・。」
今度は彼女の声がかすれたハスキーボイスに変わり始めていた。
見れば見るほどに哀れな状態の彼女。
その時だった、わたしのスマホが鳴った。
「律子さん?」(里美)
「ああ、先生!」(わたし)
「先生も見てます?」
「もちろんよ。」(里美)
「やっと始まったのかしら。」
「彼女の内部崩壊が。」
「でもなぜなんでしょうか?」(わたし)
「例の“6”というキーワードですけど・・。」
「実はさっきアメリカに戻ったヘレンとずっと話していたのよ。」(里美)
「それで連絡が遅くなっちゃって・・。」
「その後の彼女の調査で“6”というのは時間軸ではなくて、」
「だから6日、とか6ヶ月じゃなくて、」
「何かの回数じゃないかって言うのよ。」
「単純にトリップの回数ですかね?」(わたし)
「そうなのよ!」(里美)
「リリアがトリップして来た回数を数えてみたら、」
「今回が7回目かもしれないの。」
「え~っと、1回目が、」(わたし)
「新宿を襲った時ですよね。」
「それから2回目が、わたしと彼女が喫茶店で喧嘩になった時、」
「それから、3回目が広島を襲った時、」
「4回目が横浜を襲った時、」
「5回目が県警本部を襲った時ですよね?」
「今回が6回目じゃないんですか?」
「それがもう1回来てるのよ。」(里美)
「彼女、巨大化して暴れた後に必ず映像データを回収しに来てたでしょ?」
「わたしの研究生の幸代ちゃんが襲われた事、覚えてる?」
「あっ、そうでした。」(わたし)
「確か、わたし達と一緒にトリップするはずだった幸代さんが、」
「マンションごとアジア系の巨大オンナに踏み潰されたんですよね。」
「あの時、リリアもデータ回収に来てたのよ。」(里美)
「そうか、なら今回が7回目のトリップだから・・。」(わたし)
「そう、ゲームオーバーって事よ。」(里美)
「じゃあ、リリアは超えてはいけない一線を越えたから、」(わたし)
「鏡の規定によって崩壊し始めたって事なんですね。」
「うわ~、なんか怖いです、わたし。」
「でもこれで良かったんじゃない。」(里美)
「あの子も今、身に染みて悪事の数々を反省しているんじゃないかしら。」
「正に、天罰が下ったのよ!」
「そう考えると、なんか虚しい気がしてきますね。」(わたし)
「わたし達、リリアの終焉を見守るしかないんですよね。」
「せいぜい、酷い死に方をすればいいんだわ。」(里美)
「あれだけ多くの人を犠牲にして暴れ回ったんだから。」
「あとは、あの子の所持している鏡をどうやって手に入れるかよね。」
“そうだ!今わたしは初めてその事に気付いた。”
「彼女の鏡が手に入れば・・。」(わたし)
「そう、あなたが絶大なパワーを手に入れて文字通り、」(里美)
「マスターとして無敵の破壊神誕生!って事。」
そんな瞬間が目の前に迫っている事に気付かされたわたし。
でもまだわたし自身がそんな絶大な存在になる実感も自身も無く、心の準備すらできていなかった。
まずは、リリアの最後を看取ってやるしかなさそうだった。
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