第205話・これでもか~!
「律子!」(リリア)
「あなたが協力してくれないのなら、」
「わたしはこうするしかないんだから!」
“ジュリッ、ジュリッ、ジュリッ!”
“ズズズズズ~!!”
目抜き大通りをノッシノッシと歩きながら道路上に溢れる群衆に狙いを付けては踏み付ける彼女。
踏み付けるとのと同時に靴底を滑らせて楽しむ。
道路上には靴底のギザギザ模様が擦れたようなどす黒い血の靴跡が刻みつけられている。
踏み殺された人々は細かい肉片となってリリアの履いているブーツのソールの部分にへばり付いている状態だった。
「ホント、ごめんね!」(リリア)
「わたしの友達の律子が、」
「わたしを助けてくれないと、」
「こんな事をしなくちゃいけないんです。」
「本当にごめんなさい!」
そう言いながらもブーツで地面を踏み鳴らしまくり、逃げ惑う人々を摺り殺し続ける彼女。
リリアが歩いている道路は大きなスタジアムの脇を通っていた、
避難する人々はこのスタジアムにも逃げ込んでいるようだった。
「あらっ、スタジアムがあるわ。」(リリア)
「ちょうど良かった。」
「わたし、まとめて始末しなきゃいけない人達が大勢いるんです。」
「それって、あなた達?」
「正解で~す!」
「こうなったらわたしィ、」
「100万人を目標に、」
「踏み殺す事を誓いま~す!!」
「いえ~い!」
右手でピースサインを出しながら舌を出しておどける彼女。
もはや彼女にとっては、こうしてできるだけ多くの人を巻き込んでわたしの承諾を得るほかに術は無かった。
でもこんな酷い事を続ければ続ける程、わたしは嫌悪感に苛まれてリリアに協力する気など完全に失せていた。
それにしてもリリアはいったいどこで暴れているんだろう?
道路上の交通標識や看板から、どうやら中国ではないかと思われた。
「上海の皆さ~ん!」(リリア)
「わたしは巨大なオンナの戦士、」
「リリアと申しま~す!」
「実はわたしってェ、正義の味方なのよ!」
「でも今日は事情があって少し暴れさせて頂きま~す!」
「ホント、許して下さい。」
「わたしのこと!」
“ズッシ~ン!”
“ズッシ~ン!”
“ズッシ~ン!”
道路脇にそびえる巨大なスタジアムを見下ろす彼女。
上空のヘリコプターがスタジアム内を映し出す。
観客席やフィールドには避難してきた人達でぎっしりだった。
“止めてリリア!”
“その人達を殺さないで!”
わたしは心の中で叫び続けていた。
そんな事はお構いなしに、不敵な笑みを浮かべて仁王立ちしているリリア。
腰に当てていた両手を膝に乗せて、少ししゃがみ込むような姿勢になったかと思うと、スタジアム内に顔を近づける彼女。
「みなさ~ん!」(リリア)
「本当にごめんなさ~い!」
「今からあなた達を始末しなくちゃならないんです。」
「でもその前にわたしから素敵なプレゼントがありま~す!」
「わたしからみなさんに・・。」
“カッカッ、カァ~~、”
“ベッ!、ペッ!、ペッ!”
“カァ~~、っぺ!”
「わたしのプレミアムな痰ツバになりま~す!」
「たっぷりと味わって下さいねぇ!」
裏返ったような黄色い声でささやきかける彼女。
身長が400m以上ある超巨大なジーパンオンナのリリア。
そんな彼女の口から黄色く濁った糸を引く痰ツバが群衆に向かって吐き掛けられる。
しかも下品に喉を鳴らしながらツバを吐きまくる彼女。
今、吐き掛けたツバの塊はおよそ10m四方位の大きさである。
粘り気のあるジーパンオンナの痰が混じったツバは数十人の人々を包み込み、
全員を溺死させるのには十分だった。
「あらっ、わたしのツバで溺れちゃった?」(リリア)
「アッハッハ、ゴメンね~!」
「もっとわたしのプレミアムなツバ、」
「欲しい人はいますか?」
「ホラッ、もっと引っ掛けてあげるね。」
“カッ、カ~ァ~!”
“ペッ!ペッ!ペッ!”
中継の画像が人々をアップで映し出す。
リリアの痰ツバが引っ掛かった人達は殆ど身動きもせずに息絶えていた。
巨大なツバの縁に下半身を取られて必死になって逃げだそうとしている1人の女性がアップになった。
小さな赤ん坊を抱いていて、白く濁った泡状のツバがまとわりついてもがけばもがくほど底なし沼のようにツバ池地獄に引き込まれていく。
赤ちゃんは激しく泣いていて、女性は必死の形相でツバから脱出しようとしている。
その時、若い男性と初老の男性が女性の手からまず赤ちゃんを取り上げてすぐに女性の両腕を持ってツバ池から引きずり出す事に成功した。
その瞬間だった。
「これでもか~!」(リリア)
“グジュ~!”
“ジュリッ!ジュリッ!”
リリアの声が響き渡ったかと思うと、
一瞬画面がこげ茶色に覆われた。
何が起こったのか分からなかったが、
リリアの声が聞こえて来た。
「あらあら、残念でした!」(リリア)
「わたしから、あっ、ゴメン!」
「わたしのツバから逃げようだなんて、」
「良くありませんことよ!」
「オッホホホ!」
“あの馬鹿オンナ、赤ちゃん諸共みんなをブーツで踏み潰しやがった!”
わたしは絶望的な心境でこの殺戮を見守る事しかできなかった。
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