第204話・突然の襲来!
「いいわ、これはあなた自身が決めることよ。」(里美)
「ゆっくり考える事ね。」
「わたしはあなたが決めた事のなら、それを尊重するわ。」
「先生、ありがとうございます。」(わたし)
「わたし、一旦家に戻りますね。」
「そう、それじゃあまた。」(里美)
「あっ、このデータも持っていってね。」
先生が割とあっさりとしていて少し驚いてしまった。
そして、データを渡してくれるとそのまま研究室に戻っていった。
わたしはそそくさと家路を急いだ。
“さあ、どうしよう。”
考える時間はまだ少しありそうだ。
リナの指定した日にちまでまだ3週間程あったからだ。
それにしても、こちらの世界とあちらの世界をわたしやリリアなら行き来できるけど、
通信手段なんて存在しないから、どうやってわたしの意思を伝えたらいいんだろう?
それとも、そもそもこのデータを由美に託した時点でわたしが実行すると確信していたんだろうか。
もし指定の日時にわたしが現れなかったらどうするつもりなんだろう?
色々と考え込んでしまうわたしだった。
家に着いたわたしはブーツを脱いで、ジーパンを脱いで、そしてシャワーを浴びて、
コーヒーを入れてスウェットに着替えて少し落ち着いていた。
パソコンを起動して例のデータを見直そうと思った瞬間だった。
わたしのスマホが鳴った。
先生からだった。
「律子さん、今家?」(里美)
「ちょっとテレビをつけてみて!」
「は、はい。」(わたし)
わたしは急いでテレビをつけた。
するとそこには巨大なリリアが映っていた。
場所は日本ではなさそうだった。
海外?
どこ?
画面を食い入る様に見つめるわたし。
それにしても今回の彼女の大きさは異常だった。
彼女の周囲の建物の高さから推測するに彼女の身長はおよそ400m以上だった。
50階建てのタワーマンションが彼女のちょうどお腹の辺りだったからだ。
見るからに大都市の中心街にいきなり現れた彼女。
どうやら今回はリリア1人のようだった。
「律子!」(リリア)
「お願いだから、わたしのいう事を聞いてよ!」
「そうしてくれなきゃ、」
「わたし、こうしなきゃいけないの。」
「えい!」
“ブッシャ~ン!”
いきなり目の前の高層マンションを蹴り付けた彼女。
彼女のダークブラウンのロングブーツがビルのど真ん中に突き刺さり、
そのままつま先が突き抜けた。
「え~い!」
“ドド~ン!”
“ガッシャ~ン!”
“パラパラパラパラッ!”
ビルに突き刺さった彼女の右脚はそのまま振り下ろされ、ビルは真っ二つに引き裂かれた。
凄まじい土煙が立ち上り巨大なリリアの姿が一瞬見えなくなった。
「これでも分からないかなァ?」(リリア)
「それっ!」
“ジュヴォッ!”
彼女の姿がようやく現れると、今度は足元に立っていたショッピングモールにブーツのトゥーを突き立てている。
ホコリまみれのブーツのつま先がモールの天井を突き抜けて、くるぶしの辺りまで沈み込むように突き刺さっていた。
「わたし、こんな事、」(リリア)
「やりたくないんだってばァ!」
「分かるわよねぇ?」
“ジュッヴォ~ン!!”
突き刺した右脚に全体重を掛けて踏み込む彼女。
モールはひとたまりもなく一気に踏み砕かれた。
「もう何人の人が犠牲になったかしら?」(リリア)
「わたし、まだ二蹴りしただけだよ。」
「お願いだから、わたしと一緒に、」
「世界を救いましょ!」
「そ~れっっと!」
“ヴァッシャ~ン!”
踏み残したモールの天井部分に両足で飛び乗る彼女。
一瞬で粉々に踏み潰され、爆風で画面が真っ白になった。
「わたし1人でこんな事させないでよねぇ!」(リリア)
「今、わたし、数百人殺しちゃったかも。」
「でも、あなたとならこの人達、」
「救えるんだよ!」
恐らく画面を見ている人達は何を言っているのかよく理解できないだろう。
でもわたしへのメッセージとしては十分過ぎる位のパフォーマンスである。
今までの破壊と殺戮もそうだったように、過去に戻って修正すれば、
今、踏み殺している犠牲者達も後で無かった事にできる、という彼女なりの理屈なのだ。
粉塵による煙が収まると足元を睨み付ける彼女。
そこには逃げようとする凄い数の群衆で大通りが埋め尽くされていた。
ニヤニヤと舌なめずりしながら悪戯っぽく微笑み掛ける彼女。
「この人達だって、死にたくないよねぇ?」(リリア)
「多分!」
“ジュリッ!”
“ズリッ、ズリッ、ズリリ~!”
仁王立ちしていた巨大なジーパンオンナのブーツが道路上を埋め尽くしていた群衆を容赦なく飲み込んだ。
50m以上ある巨大な靴底が一気に数百人を巻き込んで道路上を滑りまくる。
摺り潰された群衆が無数の肉片となって飛び散っているのがハッキリと映し出されている。
わたしは思わず口に手を当ててしまう。
「か、可哀想!」(わたし)
「リリア、許さないわ!」
「こんな事して、」
「タダで済むと思ってるのかしら?」
わたしは再び繰り返される殺戮ショーを見せつけられて、ますます気分が悪くなってきた。
自分自身が同じ事を、相手が例えナチスの兵士や軍人達だって出来ないと思った。
そんな事情を知らないリリア。
ただただわたしの事を信じ切って、容赦の無い破壊と殺戮を今、始めたのだった。
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