第201話・マスターは“わたし“よ!
「いいから、ほら、ほらァ~!」(わたし)
「ナニしてんのよォ!」
「わたしと組むんじゃなかったの?」
「わたしがマスターなのよ。」
「あなたじゃなくって、」
「わ・た・し!」
興奮し始めたら止まらないわたし。
何だか、とてつもない力が手に入ると思うと自制心がどこかに吹っ飛んでしまう。
そんなわたしの醸し出す空気を彼女は感じ取っているのか、鏡を握りしめたまま、
中々渡そうとしない。
そして黙ったままである。
「ほら、何とか言いなさいよ!」(わたし)
「わたしが何もかも修正することもできるし、」
「メチャクチャにする事も出来るのよねぇ?」
「さあ、どうしよっかなァ~。」
少しイライラし始めたわたしは更に煽り立てる。
「いいこと!早く渡さないと、」(わたし)
「あなた、もうすぐ死ぬかもよ。」
「あなたが死んだら、どっちにしろその鏡はわたしのモノになるんだから。」
「あなたの世界に行って目にもの見せてやろうかしら!」
わたしったら、なに考えてるんだろう?
冷静さを完全に失っているのかもしれないと思った。
そして、今度は言葉より先に手が出ていた。
「いいから渡しなさいってばァ!」(わたし)
わたしはリリアの手から鏡を奪い取ろうとした。
その時だった、凄い力で押し返されたわたし。
後部ドアにしたたか全身を打ち付けてしまった。
「痛たァ~!」(わたし)
「ちょっと、ナニすんのよォ!」
怒りで我を忘れるわたし。
そうだった、こっちでは彼女は常人じゃないパワーの持ち主だったのだ。
「ご、ごめんなさい!」(リリア)
「でもわたし、まだあなたの事が信じられないかも・・。」
「ハァ~?」(わたし)
「今さらナニ言ってんのよ!」
「こんな事して、タダで済むと思ってんの?」
完全に常軌を逸しているのはわたしの方だった。
もっと彼女と落ち着いて話さなければって、解ってるけど・・。
彼女の頑なさがわたしをイラつかせているのだ。
「ごめんなさい!」(リリア)
「わたし、出直した方がいいかも・・。」
そう言いながらドアを開ける彼女。
「ちょっとォ、!」(わたし)
「待ちなさいよォ!」
「今ここで、決着つけた方がいいんじゃない?」
「ホント、ごめんなさい!」(リリア)
「やっぱり、わたし無理!」
「無理だから・・。」
そう言いながら車から降りて走りだす彼女だった。
「あ~あ、行っちゃった。」(わたし)
「わたし、何であんな言い方しちゃったんだろう?」
「でも、彼女意外と純粋なのかもしれないわね。」
そんな風に独り言を言いながらわたしも車から降りて歩き出した。
リリアは本部ビルの方に走っていったからきっと由美達と合流するんだろう。
わたしはとりあえず先生と色々話をしたかったし、
落ち着きたかったから、一旦引き上げることにした。
遠目にリリア達の方を見ているとかすかにグリーンの閃光が走った。
彼女達も引き上げていったんだと分かった。
“さあ、ひとまず由美から託されたデータを確認しなくちゃ。”
そう思いながら、先生が待つ待機中のタクシーに向かってとぼとぼと歩き続けるわたし。
タクシーが見えてくると、先生が降りてわたしの方に駆け寄って来た。
「あなた、大丈夫だった?」(里美)
「怪我はないかしら。」
「酷い目に遭わなかった?」
「先生、わたしは大丈夫です。」(わたし)
「でも、いろいろと分かってきましたよ。」
「リリアも6の災いの事は知ってました。」
「でも具体的な事は解ってないみたいで、」
「もの凄く焦りまくってましたよ。」
「それに、わたしと手を組みたいって。」
「あなたと手を組むって?」(里美)
「それ、どういう事?」
わたしは先生に彼女とのやり取りの一部始終を話して聞かせた。
「え~!驚きだわ!」(里美)
「彼女って、やっぱり子供だったんだ。」
「考え方が幼いっていうか、」
「そうですね、でもあの純粋さにはわたしも驚きました。」(わたし)
「本気で、過去を修正するって考えてましたから。」
「本当にそんな事、出来るんですかね?」
「そりゃあ、出来るわよ。」(里美)
「あなたがその気になればだけど。」
「わたしが、ですか?」(わたし)
「だって彼女が言ってた通り、」(里美)
「あなたはマスターなんだから。」
「さっぱりわたしの読みは当たっていたみいだわ。」
「わたしもそうじゃないかと思ってたけど、」
「まだ確信が持てなかったのよ。」
「マスターじゃなければっていう所が・・。」
「その事はリリアも言ってました。」(わたし)
「だから、わたしが必要なんだって。」
「結局、彼女強がってみても、」
「わたしには敵わないって事なんですよね。」
「そういう事だわ。」(里美)
「なら、早く彼女の鏡を手に入れなくちゃ!」
「それから、これなんですけど・・。」(わたし)
わたしは由美から渡されたメモリーを先生に見せた。
そして、由美から聞かされた計画を先生に全て話して聞かせた。
「えええェ~!」(里美)
「それって、ホントなの?」
「わたし達の知らない所でそんな事が進行中だったなんて・・。」
先生はそのまま絶句して考え込んでしまった。
そして、落ち着いた口調でボソッとつぶやいた。
「そのデータ、早く確認しなくちゃ。」(里美)
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