第200話・わたしじゃなくてあなたなの!
「所詮は、あなたも巨大化した力を試してみたかったのね。」(わたし)
「それって、わたしと同じかも・・。」
「わたしだって、あなたの世界に最初に行ったとき、」
「巨大な体で暴れたい衝動に駆られたわ。」
「だって、白昼夢みたいだったし、」
「生身の小人達も現実的じゃなかったし。」
「どうせ夢なんだから、え~い!暴れちゃえ!って。」
「正直、踏み潰したり、蹴り飛ばしたりするのが、」
「ホント、面白かったって言うか・・。」
「あなたの家族を踏み殺した時も・・、」
「何も考えてなかった、わたし。」
「ホントにゴメンね。」
不思議と彼女がホンネで話をし始めたら、わたしも正直な気持ちでスラスラと言葉がほとばしる。
正義感を気取ってみても、やっぱり巨大化して暴れる事自体が麻薬のような中毒性があったのは事実だった。
きっとリリアもそんな誘惑に勝てなかったのだろう。
巨大になった自分の足元に町が広がっていれば、踏み潰して暴れ回りたいと誰もが思うはず。
「わたしも、新宿で暴れ回った時は、」(リリア)
「大勢の人達を傷つけているなんて全然気にしなかった。」
「とにかく、暴れたい衝動に駆られて、」
「何にも考えないでただ楽しんでいたのよ。」
「似てるわね、わたし達。」
「わたし達だけじゃないと思うわ。」(わたし)
「わたしが誘い込んだたくさんの友達、全員そうだわ。」
「あなたの手下のレディース達もそうなんでしょ?」
「彼女達は単なる兵隊よ。」(リリア)
「ただ暴れたいだけで、何も考えてないんだから。」
「だから扱いやすいっていうか・・。」
「でも、由美だけは違うわ。」
「あの娘は、頭が切れるし、」
「わたしに従順だし、」
「でも、何か引っかかってる・・。」
「腑に落ちないのよ。」
わたしが由美と裏で内通している事など知る由もないリリア。
でもここで彼女の由美に対する本音も聞きだせるのなら好都合だ。
「えっ?何が?」(わたし)
「あなたの忠実なしもべじゃないの?」
「そうなんだけど、」(リリア)
「どうも怪しいのよね。」
「怪しい所が一つも無い所が怪しいのよ。」
「非の打ち所がないって言うか・・。」
「完璧な女子って言うか。」
「だからわたし、由美には本当の事は話してないのよ。」
「えっ、いずれ切り捨てるつおりなの?」(わたし)
「その時が来たらね。」(リリア)
「でも、まだ確証が何も無いから。」
完璧すぎる由美、その事を怪しむリリア。
2人の間で暗躍するわたし。
でもそれって、わたしがやっぱりマスターだから?
そんな風に感じ始めていた。
「由美の事はこの際どうでもいいのよ。」(リリア)
「わたしにはあなたが必要なの。」
「わたしじゃなくて、律子、」
「あなたなのよ!」
「えっ、わたし?」(わたし)
「なんでわたし?」
少しとぼけながら彼女の出方を注視するわたし。
「解ってるでしょ!」(リリア)
「あなたがマスターだからよ」
「わたしはマスターじゃないの。」
「姉鏡を使って巨大化を最初に発動させたあなたが、」
「マスターなの。」
「そのあなただけが最終的なパワーを使う権利者なのよ。」
「でも、わたし、そんな絶大な力なんて欲しくないかも・・。」(わたし)
「もう暴れたくないし・・。」
「誰も殺したくないし。」
「律子、あなたはもう運命から逃れられないのよ。」(リリア)
「それ、解ってる?」
「もしわたしがそのパワーを握ったとしても、」(わたし)
「わたしはあなたの言いなりにはならないわ。」
「それは解ってるわよね。」
かなり意地の悪い言い方かもしれない。
もう彼女がわたしを頼っている事は明らかなのに・・。
それに、彼女には6がらみの災いが迫っているし。
「解ってるわよ。」(リリア)
「だからこうして2人っきりになって頼んでるんじゃない。」
「それに、あなたにはわたしが必要だと思うの。」
「わたしの知識と経験が・・。」
確かに彼女が巨大化の研究を長年お父さんと一緒にしてきたのは本当だ。
それに、里美先生と同等レベルの研究の進み具合みたいだし。
でもわたしには先生達がついているし。
今さら、リリアと組む気にはとてもなれなかった。
それに由美との事もあったし。
「いいわ、わたしがそのパワーとやらを発動させてあげる。」(わたし)
「だから早くあなたの鏡を渡しなさいよ。」
「そしてあなたは消えてくえる?」
「わたし一人でも大丈夫だから。」
「それとも、その6の災いを何とかしてほしいのかしら?」
「このわたしに?」
「そうじゃないけど・・。」(リリア)
そう言いながらも、ジーパンのポケットから手鏡を取り出す彼女。
既に主導権を完全に握ったんだと確信した。
あとはこの妹鏡を手に入れて・・。
それから、どうするんだっけ?
パワーを手に入れて?
わたしが?
二つの世界を手に入れる?
わたしったら、ナニ考えてんだろう。
それでも右手を差し出して早くよこせとばかりに強引なわたしだった。
「早く渡しなさいよ!」(わたし)
「悪いようにはしないわ。」
「あなたの問題もわたしが何とかしてあげる。」
「それならいいでしょ?」
「ほらっ、早くしなさいよ!」
リリア自身の6の問題をチラつかせながら、全てを手に入れようと、
いつの間にか必死になっているわたしだった。
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