第2話・巨大なわたし
手鏡から発せられた不思議な緑色の閃光によって現れた異次元空間への扉、そしてその扉を開けたわたしは向こうの世界に踏み込んだ。
その世界は何の変哲もないただのだだっ広い空き地だった。
良く晴れた気持ちのよい世界、わたしが住んでいる現実の世界となんら変わらないと思ったのだが、あたりには何も無い。
ただただ広い草原のような大地が果てしなく広がっている。
❝ここってどこなんだろう?❞
と周りを見渡すが考えてみれば不思議な空間かもしれない。
足元には草のようなものがそこここに生えているが雑草ではない。
しゃがみこんでよく見てみると小さな木だ。
変わった植物だと思ったがそんな小さな木があちらこちらに群生している。
そして、更によく観察してみると10mほど先に白っぽい線が引いてある。
何だろう?と思って歩き出すわたし。
すぐに異変に気づいた。
歩くたびに地面がズブっと2cm程沈み込む。
乾いた地面なのに不思議な感覚だ。
ぬかるみでもなくむしろ霜柱を踏み潰して歩いているような感じだ。つまり歩くと地面にくっきりとわたしの足跡が残っていく。
そんな異変に気づきながら先ほど見つけた線の所までやって来た。
幅が30cm位の薄いべージュ色のライン、よく見るとそれは小さな道だった。
しかも中心にセンターラインのような白い線が引いてある。
わたしはその道を跨ぐ様にしてしゃがみ込んだ。
そして、道の先に何があるのか目を細めて見つめた。
20m程先に何か小さな物体があるのが見えた。
興味をそそられたわたしはこの細い小さな道の上を歩き出した。
一見硬そうに見えたこの道だったが、やはりわたしが歩くとズブっと陥没する。
わたしが歩いた後にはわたしのブーツの靴跡がくっきりと刻まれている。
しかも靴底の模様まで綺麗に残っている。
真ん中が楕円系でその内側にギザギザ模様、外側はストライプの線が入っている。
そしてヒールの部分は波打った感じのデザインだ。
ブーツの靴底なんてマジマジと見たことが無かったのでちょっと不思議な感覚。
わたしは安定感のあるブーツが好きだ。
ヒールは5cm位で太目のシッカリとしたものを履く。
今日履いているのはこの間銀座のお店で見つけたもの。
黒いブーツとダークブラウンのブーツを持っているので雨用のレインブーツを探していた。
色はやっぱり白がいい、濃い色のジーンズには白いロングブーツがよく似合う。
ゴム長靴なんて感じのしないこのブーツ、明るい白で光沢のあるエナメル、内側にファスナーが付いていて履くのが楽。
そしてヒールは太目の5cm丈、総丈は44cm以上あるからちょうどわたしの膝のすぐ下まで覆い隠すロングブーツタイプだ。
レインブーツと言うよりは白いエナメルのロングブーツと言った方が正確だ。
そんな買ったばかりのブーツなのにさっきは雨でぬかるんだ道を歩いてきたので泥が付いて汚れてしまっている。
それにこの軟弱な足元、わたしのブーツにとっては最悪だ。
それでも気を取り直して歩いていくとその小さな物体があった。
車だ、手のひらに乗るような小さなミニカーが2台道の脇に停まっている。
そしてその脇に休憩所のような小さな建物あった。
しゃがみこんでよ~く観察してみるとこのミニカー実に精巧に出来ている。
何だか小人の世界にでも来た様な気分だ。えっ?もしかして・・・。
小さな建物の中を覗きこんでみると小さな人が数人いるのが見えた。
アリンコみたいに小さなサイズの人間。
しかもちゃんと動いているし、こんな巨大なわたしを見てすっかり脅えている様子だった。
小さなサイズの木、道、車に建物、そして小人、このミニチュアの大きさから察するにわたしはこの世界の人々の100倍の大きさだという事がわかった。
そうか、だから歩くたびに地面が陥没して足跡が残ったんだ。
という事はわたしって、10万トン位あるって事なのかなあ。
そう思うとだんだん気持ちが高ぶってきた。
更にワクワク感が体中にみなぎり始めていた。
夢のようなこの世界、もう元の世界に戻れないという恐怖感なんてすっかり消え失せていた。
というよりは、これは現実ではなく夢なんだと思い始めていた。
この道をたどっていけば町があるのかもしれない。
そう思って前方をよく見てみると50m位先に町が広がっているのがわかった。
身長164mもある巨人のわたしだから視線を落とせばいろいろなものが見えてくる。
早速あの町に行ってみよう。
そして、わたしの存在を知らしめてやろうと思った。
そうすると悪意が無かったとはいえ、わたしは小人達の道路をブーツでぐちゃぐちゃにしてしまった事になる。
わたしが歩いてきたこの道すっかり靴跡だらけにしてしまったからもう使えないわね。
なので、今度は道路を歩くのは止めて道路脇を歩く事にした。
出来るだけ小人達のものを踏み潰さないようにしなければ。
しばらく歩くと町外れに到着した。思ったより大きな町だ。
20m四方に様々な建物が立ち並んでいる。
この道は町の中心へと続いていて両サイドには10階建て位のビルが林立している。
中心街の周りには細々とした住宅が並んでいた。
ここまで来てわたしはどうしようか少し迷っていた。
このまま町の中心へ行ってみたい気持ちでいっぱいなのだが、街中に入っていけばいろいろなものを踏み潰してしまいそうだ。
きっと道路には車やら人がたくさんいるだろうし、でもこのまま引き返しても行く所もないし。
慎重に歩いていけば多少の被害はでてもわたしが友好的だって事がわかってもらえる筈だ。
それに小人達がこんなに巨大なわたしに逆らうとも思えない。
意を決して中心街に向うい道路に足を掛けた。
そしてわたしは歩き始めた・・・。