第198話・誰が渡すもんですか!
「律子、少し落ち着いてよ!」(リリア)
「あなたとわたしで理想の世界を作らない?」
「もう人をむやみに殺したりしない世界よ。」
「今さら、ナニ言ってんのよ?」(わたし)
「わたしもあなたも大勢殺してきたじゃない!」
「だから、もうこんな事止めない?」(リリア)
「さっきもあんな惨いやり方で4人も殺したくせに!」(わたし)
「あれは、あなたがすぐに出てこないから、」(リリア)
「仕方なかったのよ。」
「わたしのせいだって、言いたいわけ?」(わたし)
「随分と、お楽しみだったみたいだけど。」
「わたしが殺してきたのは、全部悪党よ!」
「悪かったかしら?」
そう言いかけて、リリアの家族の事を思い出してしまったわたし。
「あっ、ごめんなさい!」
「あなたの家族も踏み殺しちゃったんだっけ?」
「ホント、ごめんなさい!」
「いいから、落ち着きましょうよ。」(リリア)
「わたし達。」
必死になってわたしをなだめようとするリリア。
彼女の祖父母を踏み殺したのは事実だし、彼女のお父さんが亡くなったのもわたしのせい。
その事はよくわかっていた。
だからこれ以上言い合うのは不毛な争いなのだ。
それにしても、理想の世界だなんて・・。
彼女が何を考えているのか知りたくなってきた。
どうせ絵空事を並べてわたしの手鏡を手に入れたいだけだと思っていたから。
「ところで、理想の世界って何なの?」(わたし)
「是非、知りたいわ。」
「説明しなさいよ。」
「あなたの手鏡とわたしの手鏡を結合させれば絶大な力が手に入るのよ。」(リリア)
「わたしがその力を使って、こちらの世界とわたし達の世界を、」
「平和な世界にするって言ったら、どう思う?」
「あらっ、そんな事、本当にできるのかしら?」(わたし)
「それに、その絶大な力って何なの?」
「どうやって結合させるのよ。」
「あなた、そのやり方知ってるの?」
「それは今は、言えないわ。」(リリア)
「わたしに手鏡を託してくれたら、」
「いずれ話すわよ。」
どうやら彼女も結合の仕方どころか、絶大な力の詳細までは把握していないんじゃなかと思った。
でも、もし知っていたら・・。
それに、ここまでわたしの手鏡を手に入れる事に固執しているんだから・・。
ここからは彼女との腹の探り合いなのかもしれない。
「そんな答えでわたしが納得するとでも、」(わたし)
「思ってるのかしら。」
「この手鏡はわたしの大事な宝物なの、」
「あなたなんかに渡す訳ないでしょ。」
「むしろ、あなたの手鏡を渡しなさいよ!」
「わたしが、その絶大な力とやらを使わせてもらうわ!」
「あなたなんかに使いこなせる訳ないでしょ!」(リリア)
「わたしの父が長年研究してきたんだから。」
「この力は、わたしにこそ相応しいのよ。」
「わかる?」
「あなたみたいな、ぽっと出のオンナが、」
「出しゃばらないで欲しいんだけど。」
“やっぱり封印されたパワーの使い方は知っているようだわ。”
もちろんわたしは以前先生に詳しく聞いていたから知ってるけど・・。
“でも結合の仕方までは知らないんじゃないかしら。”
「ぽっと出・・?」(わたし)
「このわたしが?」
「あなたの世界では伝説的な存在の、」
「このわたしが?」
「あなたの世界では歴史上の破壊の女神なのよねえ?」
「わたしって。」
「そ、それはそうだけど・・。」(リリア)
「だから、わたしと一緒に・・。」
都合が悪くなると急にトーンの下がる彼女。
何か、歯切れが悪いし、わたしに隠している事があるみたいだ。
それに、わたしを排除するつもりも無い?
それどころか、わたしの事を必要としている?
まさか、あっちの世界の西側諸国で暴れさせたいとか?
考えれば考えるほど、彼女の思惑が見えてこない。
「このわたしの大事な大事な、手鏡。」(わたし)
「いったい、どうやってあなたの手鏡と合わせるのかしら?」
わたしはじらす様に手に持っている手鏡を見回して見せた。
「そうそう、それにリリア!」(わたし)
「あなたは格下の鏡を使ってこんな事してるのよねえ?」
「それって、問題あるんじゃないの?」
「もちろん姉鏡を持っているマスターのわたしは、」
「ちゃとした使い方しかしてませんけど・・。」
「ど、どうしてあなたが知ってるのよ?」(リリア)
「わたしだって、正義の為に使ってるんだからァ。」
「問題なんて、ある訳ないでしょ!」
「あらっ?」(わたし)
「なんか、慌てちゃって。」
「怪しいわねぇ?」
「あなたにとって、都合の悪い事、」
「あるのかしら?」
「是非聞かせて欲しいわ。」
「そうしたら、あなたと仲直りしてもって、」
「だんだん思えてきたかも・・。」
「ホントに?」(リリア)
一瞬だけだったが、ほころんだ彼女の顔。
まるで希望に溢れたような、そんな表情をわたしは見逃さなかった。
「律子!」(リリア)
「2人っきりで話さない?」
「他のメンバーは消えるように言うから。」
わたしは確信した。
彼女はわたし自身の事を必要としているのだ。
つまり、わたしがいなければあのパワーは発動しないのかもしれない。
ただ単に、鏡を結合させただけでは・・。
いや、結合そのものにわたしが関わらなければならないのかもしれない。
だんだん彼女の腹の中が見え始めた気がしてきた。
次回の更新は11月12日(日)になります。