第197話・贋作を手に入れたわたし
わたしはリリア達が人質達を解放した事など知る由もなく、
先生との待ち合わせのビジネスホテルに向かっていた。
“どんなに瓜二つの贋作でもすぐにバレてしまうんじゃないかしら?”
わたしには一抹の不安があった。
逆にバレたら怒り狂ったリリア達が再び大暴れして多くの犠牲者が出るのかもしれないと不安になっ
てきたわたし。
“なにか先生に考えがあるのかしら?”
ビジホの前に到着したわたしだったが、特に怪しい人影は全くなかった。
それを遠巻きに確認してから足早にホテルに入るわたし。
わたしの部屋に戻ると少ししてノックの音が聞こえた。
「は~い!」(わたし)
「どうぞ。」
先生が微笑みながら中に入って来た。
右手に例の手鏡が入った小さな箱を持っている。
「律子さん!」(里美)
「本当にお待たせしました。」
「辛かったでしょ?」
「あんなに派手に4人も殺されたんだから・・。」
「でも男の子にはとても優しかったわね彼女。」
「それにさっき人質は全員解放されたし。」
「本当に良かったわ。」
「人質、解放されたんですね。」(わたし)
「よかった!」
「わたし、心配だったんです。」
「一応彼女、約束は守ってくれたわ。」(里美)
「それに、最初から民間人を殺すつもりは無かったのかも・・。」
「あのおじいさんが倒れた時のリリアの慌てぶりったら、」
「なかったわよね。」
「でもあのおじいさんも救急車で搬送されていって、」
「今、病院で手当てを受けてるって。」
「それじゃあ、亡くなってないんですね。」(わたし)
「よかったわ。」
ホッとしたところで手鏡を箱から取り出す先生。
“本当にわたしの手鏡と瓜二つだわ!”
あまりにもそっくりなので驚いたわたし。
セカンドバッグから本物の手鏡を取り出して並べてみるわたし。
「本当に良くできてるわ。」(里美)
「すばらしい出来栄えね!」
「ところで先生、」(わたし)
「これ、本当にそっくりなんですけど、」
「すぐにバレないかわたし心配で・・。」
「それがヘレンと情報交換をしている内に、」(里美)
「興味深い一節を見つけたの。」
「どう解釈してもこうなるんだけどね。」
「“二つの鏡を適切に結合させると”」
「“絶大な力が発動するだろう”」
「って、古文書に書かれてあったのよ。」
「でもね、“結合に失敗すると災いが降りかかるであろう!”」
「とも書かれていて、」
「わたしも妹鏡を手に取って見たわけではないから、」
「何とも言えないけど。」
「リリアはその結合方法をまだ知らないんじゃないかしら。」
「あの古文書にも具体的な方法は書かれて無かったから・・。」
「リリア達の研究が進んでいたら、」
「災いが起こる事は承知しているかもしれないし。」
「おいそれとむやみにこの贋作と妹鏡をくっつけたりはしないと思うの。」
「これは賭けだけど、もし偽物だとバレても絶大な力は発動しないから。」
「また彼女達が舞い戻ってくる前に対処法を考えないと。」
「時間稼ぎは十分できると思うの。」
「そうだったんですね。」(わたし)
「じゃあ、後でわたし、かなりじらしながらこれを手渡さなきゃ、」
「・・ですね。」
「そうなのよ、あなたの演技力に掛かっているのよ。」(里美)
「とにかく、急いで県警本部に行かないと。」
「外に車を待たせてあるの。」
「じゃあ、行きましょう!」
わたし達は先生の手配したタクシーに乗って県警本部を目指した。
この騒ぎの中なのか、道路は渋滞も無くすいすいと高速を走り抜けて30分程で現場の近くに到着した。
「じゃあ、先生、」(わたし)
「わたし、行ってきます。」
贋作の手鏡をセカンドバッグに入れて、本物の手鏡は念のため先生に預けることにした。
先生は彼らに見つからないようにタクシーの中で待つことにした。
わたしはゆっくりと県警本部前に向かって歩いていく。
不思議と殺されるんじゃなかというような不安な気持ちは全く無かった。
むしろリリアに勝気なわたしをぶつけてやろうとすら思っていた。
「やっと来たわね!」(リリア)
「意気地なしなんて言わないわ。」
「あなたもそれなりに苦しんだんでしょうから。」
「でもやっとわたしの事を少しは理解してくれたって事よね?」
「約束通り持って来たわよ。」(わたし)
「でも、簡単には渡せないわ。」
「解ってるはずよ。」
「いいこと!もうあなたの好き勝手になんて、」
「させないからね!」
「あらっ、わたし達の世界で暴れ回った人とは思えない発言ね。」(リリア)
「あなた、自分の世界では正義の味方のつもり?」
「何よ!わたしはあなたの世界でも正義の味方よ!」(わたし)
「少し暴れたのは悪いと思ってるけど・・。」
「ナチを根絶やしにする為に、」
「わたしはするべき事をしただけだわ。」
「少し暴れた?」(リリア)
「アンタのせいでどれだけの人が犠牲になったと思ってるのよ!」
「絶対に許さない!」
「さあ、早く渡しなさいよ!」
「ほらっ、ホラァ!!」
「誰がアンタなんかに、わたしの大事な手鏡を渡すもんですか。」(わたし)
「アンタに渡すくらいならここで叩き割ってやるわ!」
「ホラッ、こんなもの!」
そう叫ぶとわたしはセカンドバッグから取り出した贋作の手鏡を振りかざした。
「やめなさいってば!!」(リリア)
金切声を上げる彼女。
まんまとわたしの挑発に大慌てのリリア。
わたしの作戦は順調に進行中なのである。
次回の更新は11月5日(日)の0:00になります。