第192話・リリアをどうするのよ?
「ちょっと待って!」(わたし)
「肝心な事を忘れてない?」
「リリアはどうするのよ?」
「わたしが説得できればいいんですけど・・。」(由美)
「姉鏡が手に入らなければ彼女も諦めるかも・・。」
「ナニあまい事言ってるのよ!」(わたし)
「あのオンナがそんな事で諦める訳ないでしょ!」
「あのオンナがいる限り、わたし達の世界は常に襲われる危険性があるのよ。」
「それは、もちろん分かってます。」(由美)
「この計画では、リリアさんの説得に失敗した時は、」
「彼女を総統官邸のシェルターに連れて行って、」
「エルンスト諸共抹殺しようって事に、」
「なってるんですけど・・。」
「勘のいいリリアを本当に官邸に誘導できるのかしら。」(わたし)
「もし失敗したら、彼女怒り狂ってわたし達の世界をメチャメチャにするはずだわ。」
「そうならないために、いざという時はわたしが彼女をシェルターに誘い込むつもりです。」(由美)
「でも、そうなったらあなたも一緒に踏み殺す事になるのよ。」(わたし)
「仕方がありません。」(由美)
「もうわたしは大勢の人を殺してますから・・。」
「わたし自身も覚悟は出来ています!」
驚いた事にまだティーンの彼女がそこまで考えているとは・・。
わたしは正直、事の重大性を認識せざる負えなかった。
「分かったわ。」(わたし)
「でも下手にあの子を説得しようとして、」
「この計画がバレたりしないかしら。」
「それは大丈夫です。」(由美)
「わたし達、周到に計画を立てていますから。」
“頭の切れるこの子なら、大丈夫かな。”
わたしは既にこの子を完全に信用していたのかもしれない。
「律子さん!」(由美)
「わたし、そろそろ行かないと。」
「県警本部前に集合しないといけないんです。」
「そうだったわね。」(わたし)
「でも、そこでまたひと暴れするんでしょ?」
「今、律子さんに謝っても言い訳にしかなりません。」(由美)
「でもリリアさんとの信頼関係を継続するには、犠牲が出てしまうと思います。」
「わたしだって、本当は誰も殺したくなんかありません。」
「でもこの計画を達成するためには、エルンストの陣営に深く関わる内通者が必要なんです。」
「それがあなたって事なのね。」(わたし)
「リリアさんとの出会いは本当に何気ないものだったから。」(由美)
「だから彼女はわたしの事を信用してくれているんだと思います。」
「その信頼関係を続けるのに大勢の人の命が犠牲になるなんて・・。」(わたし)
「わたし的には納得はできないけど・・。」
「でもわたしだって、あなたの世界の罪もない人達を大勢踏み殺してきたから、」
「あなたの事を批判なんてできないわ。」
「わかった!」
「とにかく、すぐに行きなさい。」
「今日これから起こる事は、見ないようにしてあげる。」
「ありがとうございます!」(由美)
「じゃあわたし、行きます!」
そういうと彼女は足早に建物を出て海岸通りの方に走っていった。
彼女を見送ったわたしは、そのまま少し時間を置いてから外に出て歩き出した。
わたし的にはまだ頭の中がごちゃごちゃになっていて、咀嚼して理解しなければならなかった。
それには少し時間が掛かるし、先生達に相談したい気持ちでいっぱいだった。
でも帰りの足取りは妙に軽かった。
何だか、少し吹っ切れたような、そんな気分だった。
やっとのことで駅まで戻ってくると家路につくわたし。
とにかく、早くこの計画のデータを見たかったのだ。
先生達に相談する前に、まずはわたし自身がこの中身を見なければと強く感じていた。
家に戻ってシャワーを浴びて何気なくテレビを付けてみた。
さっき、見ないようにするって言ったけど、やっぱり気になるわたし。
テレビのスイッチを入れると、けたたましいサイレンの音が聞こえて来た。
画面には黙々と煙が立ち上る神奈川県警の本部ビルが映し出されていた。
“あの子達、やったんだわ。”
そう思ったわたしはゴクリと唾を飲み込んでテレビにくぎ付けになっていた。
画面の下にはテロップで警察関係者が100名以上死傷と書かれてあった。
画面の中にリリア達レディースの姿は映ってなかったが、かすかに機関銃の銃声のような音が鳴り響いていた。
報道関係者は遠巻きにして県警本部を捉えている。
「リリアの事だから、むやみにメディアの人間を殺したりはしないはずだわ。」
「彼らはむしろ安全なのに。」
なんだか、人ごとのように呟いているわたし。
その時だった。
“バババババババッ!”
凄まじい銃声がしたかと思うと、見慣れたジーパンにロングブーツ姿の由美が映し出された。
「わたし達を舐めんじゃないわよ!」(由美)
そう叫ぶと彼女はスタスタと走り出し本部前に停めてあったパトカーのボンネットに飛び乗り、そしてルーフの部分に駆け上がった。
「コノヤロ~!」(由美)
“ガッチャーン!”
薄黒く汚れた彼女の白いロングブーツがパトカーの赤色灯を踏み砕いた。
そして周囲にいた警官隊に向かってマシンガンを構えた。
「地獄に落ちろ!」(由美)
“バババババババババッ!”
機関銃を撃ちまくり警官が数名撃ち抜かれてバタバタと薙ぎ倒された。
先ほどまでの彼女のイメージとは裏腹の変貌ぶりに開いた口が塞がらないわたしだった。
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