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巨大ヒロイン・ジーパンレディー律子  作者: スカーレット
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第188話・由美の正体

 わたし達は誰にも見られないように小走りに廃墟の中に入っていった。


「うわっ、凄い臭い!」(わたし)


半壊した建物の中に入ると、鼻を衝く強烈な腐敗臭がした。

きっと中で死んだ人達の遺体がまだそのままになっているのだった。

屋内はメチャメチャな状態で、棚や机やイスはひっくり返っていた。

そして床には書類やら色々なものが散乱していた。


「ウッ、遺体だわ・・。」(わたし)


入ってすぐに頭部がグチャグチャに潰れた遺体が目に入ってきた。

若い男性だった。

由美は終始下を向いたまま遺体を見ようともしなかった。

更に奥に進むと広いフロアに折り重なるように数十人の遺体が放置されていた。

天井からの落下物が当たって亡くなった人が何人もいた。


「この人達、全部あなたの仕業よね?」(わたし)


「ごめんなさい・・。」(由美)


か細い声で応えるのがやっとだった。

彼女への疑念がまだ残っているわたしは、彼女の反応を見たかったのだ。

わざわざこんな所に彼女を連れて来たのもそういう理由からだった。

そして、彼女をなじってやればどんなリアクションを見せるのかも気になっていた。


「わたし、本当に大変な事しちゃって・・。」(由美)


「今さら何よ!」(わたし)

「随分と、楽しそうに踏み潰してたみたいだったけど。」

「本当に、悪いと思ってんの?」


たたみ掛けるように酷い言葉を吐き掛けるわたし。


「ホラッ、よく見なさいよ!」(わたし)

「ここで死んだ人達を。」

「何の罪も無い人達なのに。」


わたしの言葉に立ち止まってしまい、そのまましゃがみ込こんでしまった彼女。

汚れた床に両手をついて土下座するような姿勢だった。


「本当に、すみませんでした。」(由美)

「わたしは、ただ・・。」


その後は言葉にならなかった。

彼女の目元を見ると両目を潤ませて真っ赤に充血していた。

これが演技だったら彼女はアカデミー賞ものである。

そんな風に強く感じたわたしだった。


「ごめんなさい!」(わたし)

「酷い事、言い過ぎたわ。」

「わたしだって、あなたと同じ事を散々やってきたのに・・。」

「ホント、ごめんね。」

「わたし、まだあなたの事が完全に信用できないの。」

「だから、こんな所に連れてきてしまって・・。」


わたしは彼女が言い返してこない事に少し驚いていた。


“もしかしてこの子、本当にレジスタンスなのかも。”


確かに一見能天気な馬鹿っぽいキャラクターを演じていた彼女だったが、実は頭の回転が速くて切れる子だとうすうす感じていたわたし。

わたしの言葉にこれ程素直に反応するとは正直思ってなかった。

もっと計算高い反応をするかと思っていたわたしだったから。

でも、惨たらしい遺体の前では素の彼女自身が垣間見えたんだと実感した。


「わたしも自分のした事と直に向き合わなければと思ってます。」(由美)

「わたしが殺したこの方達に対して、」

「一生を掛けて償わなければならないと思ってます。」


涙声だったが、ややしっかりとした口調で話す彼女。

街で暴れて汚れたシャツにジーンズ、それにどす黒くなった彼女の白いロングブーツにベージュのロング手袋。

薄汚れた身なりに泣き顔の彼女。

何だか、これ程悲哀を感じさせる子をこれ以上責めようとは思えなかった。


「分かったわ!」(わたし)

「一応あなたの事を信じてあげる。」

「でも、あらかじめ言っておくけど、」

「わたし、鏡は持ってきてないからね。」


「ありがとうございます!」(由美)

「わたしもそれでいいと思います。」


やっとホッとしたように少し笑顔を見せた彼女。

足元に転がっていたイスを2つ、向かい合わせにしたわたし。


「さっ、少し話しましょう。」(わたし)

「時間が無いんでしょ。」


「はい、有り難うございます。」(由美)


「今、リリアさんは警備の甘い民放の局に向かっているはずです。」

「そこで、VTRを強奪して集合場所の県警本部前に集まる事になっているんです。」


「えっ、どうして県警本部なの?」(わたし)

「逆にあなた達にとって危険なんじゃない?」


「わたし達、等身大ですけどこちらの世界の武器は効かないですし、」(由美)

「警察本部でひと騒ぎ起こせば律子さんにプレッシャーを掛けられるかもって、」

「大勢の他人を巻き込んで、」

「良心の呵責に耐えられない様にして、」

「律子さんの事をあぶり出そうっていう計画なんです。」


「相変わらず、短絡的な発想のオンナよね。」(わたし)


「わたし、またそこで人を大勢殺さなければならないかも・・。」(由美)


「実は、わたし元の世界でもリリアさんのグループに帯同して、」

「随分いろんなところを襲撃していたんです。」


「えっ、例えばどんなところなの?」(わたし)


「シュタイナー政権に歯向かう人達です。」(由美)


「でもあなたは、むしろそちら側の人間なんでしょ?」(わたし)


「そうなんです、だからわたしの素性を知っているのは、」(由美)

「レジスタンスメンバーの中でも中枢のごくわずかな人達だけなんです。」

「この事はトップシークレットになっていて、」

「わたし達のグループのトップクラスの人間しか知りません。」


「あなたはスパイとして送り込まれたって事なのね。」(わたし)


「その通りです。」(由美)

「だから、わたし、」

「反政府組織への襲撃で多くの人を射殺してしまって・・。」

「レジスタンスの多くのメンバーからは、」

「わたしは敵だと思われて、憎まれているんです。」


これは大変な事を聞いてしまったと思った。

まだ17歳にして、国家を揺るがすスパイ活動中とは・・。

心底驚かされたわたしだった。


次回の更新は9月3日(0:00)になります。

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