第185話・現実と向き合うわたし
“6”という手がかりを掴んだかもしれないわたし達。
でも、肝心な事が解らないから焦燥感いっぱいのわたしだった。
それは、里美も同じだったと思う。
そんなモヤモヤした気持ちのわたしだったが、横浜に行ってみようと思い立った。
あの現場に・・。
あそこに何か手がかりがあれば、なんていう全く根拠の無い理由を思いついたけど、実際には彼女達が暴れ回った街を自分の目で確かめたい気持ちが沸き上がってきたのだった。
“わたしが今までにしてきた事を、ちゃんとこの目で見なきゃ。”
わたしがトリップしてやってきた事を、被害を受けた側の立場で見て体感するべきなんだとうすうす感じていたわたし。
重い足取りで横浜に向かった。
電車は横浜駅の手前の新子安駅で折り返し運転をしていた。
東神奈川の駅周辺もアジア系の巨大オンナによって破壊されていたからだ。
“随分、派手に暴れ回ったんだリリア達。”
電車を降りてゆっくりと歩きだすわたし。
神奈川新町駅の辺りに来ると焦げクサい臭いが鼻を突き、やがて東神奈川駅前にやって来ると、まだ煙が立ち込めていて、立ち入り禁止のテープがあっちこっちに張り巡らされていた。
道路は辛うじて歩ける状態だったが、車の通行は不可能だった。
それもそのはずで、幹線道路の中央を走っている首都高速の高架道路は巨大オンナのブーツによってそのまま踏み抜かれた状態で横浜駅方面に伸びていた。
国道15号線は踏み潰された高架道路の瓦礫が散乱し、片側3車線の道路の中央寄りの2車線が両方向共巨大なブーツの靴跡で陥没していて通行できる状態ではなかった。
わたしは辛うじて踏み潰されるのを免れた歩道を散乱する瓦礫の破片に気を付けながら歩くしかなかった。
“巨大化してちょっと歩いただけで、こんな風にメチャメチャになっちゃうんだ・・。”
わたしにも覚えがある。
ナチスの街にいきなり現れて道路を踏み抜きながら歩き回った事を。
あれだけの大きさ、身長160m以上にもなると悪気が無くても大迷惑な存在だったわたし。
そんなわたしが悪意を持って暴れ回ったのだから、地上にいた人達は、わたしに立ち向かってきた兵士達も含めてさぞや絶望的な心境だった事だろう。
踏み潰された首都高を走っていたらしい自家用車やバスがペッちゃんこに潰れた状態で陥没した地面の中にめり込んでいた。
よく見ると潰れた車体からどす黒い血が滴り落ちていた。
思わず手で口を押えるわたし。
「そんな・・、犠牲者がまだ中にいるんだわ。」
「可哀そうに・・。」
「ごめんなさい、わたしのせいで・・。」
焦げクサい臭いに混じって死臭が漂い始めていた。
人手が足りず放置されたままの数々の遺体が腐り始めていたのだ。
“みんな、死んじゃったんだ・・。”
ここには生存者は一人も居ない。
息のある者は皆、病院に搬送された後だった。
しばらく歩いていると、強烈な腐敗臭がしてきた。
臭いの元凶は道路に広がっている泡状の液体だった。
幅6m、長さが12~3mに渡って伸びている液体のシミ。
「これって、ツバ?」
自分もやってきた事だからすぐに理解できた。
何の気なしに吐き掛けたツバをブーツのつま先あたりで地面にナスり付けた跡だった。
巨大オンナが吐いた唾の跡。
巨大化してツバを吐くと、こんな臭いになるんだと実感したわたし。
先日テレビのレポーターが言っていたように、何だか酸っぱいような生臭いような気分が悪くなる腐敗した臭いだった。
試しにわたしの履いているブーツのつま先でその液体に少しだけ触れてみた。
するとネットリと糸を引いて更に強い刺激臭がしてきた。
「気持ち悪いっ!」
「何よ、これっ!」
わたしのブーツに臭いが転移したみたいで、やらなければよかったと後悔するわたし。
すぐさま液体で汚れたブーツのつま先部分を地面に擦り付けるわたし。
唾と泥とで真っ白になったわたしの黒いロングブーツ。
“元々履き古して汚れていたから、まっいいか!”
そんな風に割り切りながら歩き続けるわたし。
みなとみらい地区までやって来ると、さすがに破壊の度合いが別次元だった。
近年林立し始めていたタワーマンションや新しいホテルは根こそぎ蹴り倒されて完全に瓦礫と化し、辺り一面が更地になっていた。
向こう側にあるはずだったパシフィコやヨットの帆をイメージしたホテルは跡形もなく消えていた。
元々埋立地だったこのエリア。
ところどころ、巨大オンナ達の体重を支えられなかったのか、陥没した靴跡に水が染み出していた。
尚も歩き続けたわたしはやっとのことで山下公園にやってきた。
“随分歩いて来たわ。”
“少し疲れたかも・・。”
“それにしても、みなとみらい地区からここまで、建物は洗いざらい壊されまくって何も残ってなかったわ。”
「ホント、酷いやつ等だわ!」(わたし)
「アラ、あなたに言われたくないかも。」
突然、わたしの背中越しに聞き覚えのある声がした。
ハッとして振り返ると、そこにはニヤついた表情の由美が立っていた。
「どお? 自分が今までやってきた事を再確認してたんでしょ。」(由美)
「とってもいい心掛けだと思うわ。」
「あなたねえ!!」(わたし)
生意気なこの馬鹿オンナに飛び掛かりたい衝動に駆られるわたしだった。
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