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巨大ヒロイン・ジーパンレディー律子  作者: スカーレット
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第183話・巨大オンナ達の残した靴跡

 リリア達が引き上げた後の横浜はひどい有り様だった。

テレビ中継は彼女達が消えた後も続けられていて、数えきれない程大勢の負傷者やケガ人が運ばれていく様が映し出されていた。

由美が暴れ回った山下公園の周辺には巨大なブーツの靴跡が無数に刻み付けられていて、陥没した24mにも及ぶ巨大なブーツ痕には、踏み砕かれた車両の残骸や潰された人の遺体がぺしゃんこになって地面になすり付けられていた。

辺り一面の目ぼしいビルや建物は破壊されて瓦礫の山と化していた。

横浜駅周辺もレディース達が散々踏み潰した家々や道路や更地と化したビルのあった場所に、色々な幾何学模様の靴跡が残されていた。

テレビのニュース速報では犠牲者は約3万人と伝えていた。

負傷した人は10万人以上だという。


“全部、わたしのせいなんだわ・・”


そんな風に思うしかないわたし。

それと同時に、変に後悔し始めるわたしだった。


“わたしが大暴れした街もこんな惨状だったのかもしれない・・。”

なんて思った。

トリップして向こうの世界に行った時は、こんな風に考えた事なんて一度も無かった。

わたしだって彼女達に負けず劣らずナチスの街で暴れ回って大勢の人々を踏み殺したのだ。

正義の為の闘いに犠牲は仕方がない、とばかりに調子に乗って民間の施設を踏み荒らした事もあったっけ・・。

実はわたしだってリリアや由美を責める事なんてできないのだ。

彼女達はそのことをよく分かっていてこんな風に暴れ回って大勢の人を殺戮したのだ。

そう思うと、テレビに映し出されているあまりにも惨たらしい惨状から目を背けたくなるわたし。


“いや、わたしだけではないわ。”

わたしと一緒にトリップして破壊を楽しんだ数多くの女性達。

リリア達が日本を襲撃するようになってから、わたしへの音沙汰はプツリと途絶えたままである。

あんなに仲が良かった里奈子と麻美も音信不通になって随分と経っていた。


“あの子達、どうしてるかなあ・・”

とつぶやきながら、この惨状を彼女達もきっと見ていて、とても恐ろしい気持ちになっているのかもしれないと感じ始めていたわたし。

思えばわたし達、随分と酷いことをしてきた。

面白半分に人間を踏み殺すのは日常茶飯事だったし、ツバを吐き掛けたり、しょんべんを引っ掛けたりと非人道的な事も平気でやってきた。

いや、むしろ楽しんでいたわたし達。


今、画面を通して目の当たりにする有り様は、まさにわたし達のしてきた事と全く同じなのだ。

ベージュ色の綺麗な壁のビルに無残に残されたどす黒いブーツによるつま先蹴りの跡。

へし折られて潰された街灯には靴底のギザギザ模様までもがクッキリと刻まれている。

あれだけ巨大なオンナに踏みしだかれたのだから当然である。

道路はブーツ痕でボコボコに陥没しているから救急車も現場に行き着く事ができず、人海戦術で大量の負傷者が運ばれている。

救急隊員や自衛隊員に交じって民間のボランティアの人達がたくさん集まって来ていた。


“破壊や殺戮を楽しむってこういう事なんだ・・。”


と罪悪感に苛まれて、いてもたってもいられないわたし。

たぶん隣室でこの番組を注視している先生も内心では穏やかではないはずだと思った。

テレビでは由美が暴れた中華街からの中継が繋がっている。


「この惨状を見てください!」(レポーター)

「それに、この凄まじい悪臭です。」

「殺された人々の死臭に交じって、とても強烈な臭いが現場一帯を覆っています。」


「それは何の臭いだと思いますか?」(解説者)


「よく判りませんが、生臭いような、酸っぱいような・・。」(レポーター)

「ヒトの口臭のような臭いです。」


そういえば、あの時由美が自分の履いているブーツの靴底にへばり付いた大量の潰れた遺体を洗い流そうと何度もツバを吐き掛けていたっけ。

恐らくたっぷりと吐き掛けられたツバごと踏み付けた地面が乾いて、悪臭を放っているんだと思ったわたし。


“きっとわたし達が吐き掛けた痰ツバも同じように悪臭を放っていたんだわ・・。”

そう思うと、恥ずかしくて赤面してしまうわたし。


“よくあんな事が平気でできたものね・・。”

“わたし達・・。”


横浜市に深く残された巨大オンナ達の付けた靴跡は当分消えることは無いだろう。

復興には数年掛かるのかもしれない。

わたし達はそんな復興した街を再び襲っても何にも感じなかったけれど・・。

結局、こんな酷いことした由美を殺したい程憎んでいるわたし。

でもそれは自分自身に対する怒りなのかもしれないと思うと、だんだん生きているのが嫌になり始めていた。


「ダメだわ!」


こう思わせる事がリリア達の策略なんだと一瞬頭をよぎったわたし。

確かに、今わたしが感じた事は間違っていないし、彼女達がした事をわたしが責めるのはお門違いかもしれない。

でも今更わたしが自己嫌悪に陥って、再び現れるかもしれない彼女達の前に名乗り出る事なんてあり得ない、と強く感じたわたし。


“早くあの鏡の真実を導き出して、この破壊と殺戮を終わらせなければ。”

“それこそが、今わたしに与えられた使命なんだ!”

とリリア達との闘いに覚悟を決めたわたしだった。


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