第180話・気分すっきり~、イイ感じかも!
山下公園をブーツの靴底でボコボコにした由美。
老舗ホテルとマリンタワーが建っていた間のビル群の前でニヤついて立っている。
どのビルもせいぜい10階建てくらいだから彼女の膝くらいの高さである。
「それじゃあ、始めま~す!」(由美)
「エ~~イ!」
“ズッゴーン!”
「ソレ~ィ!」
“ヴォッガーン!”
「コノヤロ~!」
“ヴォッヴォーン!”
足元に林立するビル目掛けてタワーを振り下ろし叩き付ける彼女。
凄まじい轟音とともに灰色の煙が沸き上がり、次々に倒壊していくビル。
もはや原型をとどめていないマリンタワーは巨大な鉄の塊となってビルを直撃する。
彼女の振り下ろす一撃でほぼ全壊するビル群。
残った部分には容赦なく由美のどす黒く汚れた白いブーツが襲い掛かる。
「しぶといのよ~!」
「コイツめ~!」
“ガッシャ~ン!”
ギザギザ模様の靴底を見せ付けながら蹴り付ける彼女。
バット代わりにタワーを振り回しながらビルを叩き壊し、時折ブーツで蹴り崩す由美。
笑いながら港町で破壊の限りを尽くす。
“ジュヴォッ!”
「アラッ、何よこれ?」
調子に乗って暴れ回る由美の巨体が、何かを踏み抜いて少しバランスを崩しそうになった。
ビルの叩き壊そうとして踏ん張ろうとした右足がズボリと地面を踏み抜いて数十センチ程陥没させた。
「アラヤダァ~。」
「これって、地下鉄かよォ!」
「危うく転ぶところだったじゃない!」
「このなものォ~!」
「エ~イッ!」
“ジュヴォジュヴォジュヴォ~!”
横浜中華街駅を地表から踏み抜いた由美のブーツが、そのまま地下ホームをズタズタに引き裂きながらエスカレーターや地下の施設もろとも全てを蹴り上げた。
“ヴォヴォ~ン!”
「うわぁ、やったねわたし~!」
「快感だわぁ~!!」
「イェイイェ~イ!」
「思い知ったか、日本人どもめ~!」
あたり一面が地下施設の瓦礫や残骸や破片で覆われ、粉塵で黒ずんだ巨大な白いブーツだけが存在感を増しながらそびえ立ち、色落ちして薄汚れたジーパンに覆われた美脚のはるか彼方に薄ら笑いを浮かべた巨大な由美の顔が見下ろしていた。
「いつもいつもォ、」
「使い古された同じ言葉になりま~す。」
「ほんと、ごめんなさ~い!」
「でも、わたし的には気分爽快なので~す。」
「ゴメンネェ。」
「わたしィ」
「まだまだ、全然、」
「暴れ足りませ~ん!」
「こんなの、序の口だから。」
「もう、地下鉄に乗って、」
「こっそり、わたしからぁ、」
「逃げるなんて、」
「無理だから!」
「おとなしく、わたしにィ、」
「踏み殺されなさい!」
「な~んて、うっふっふ。」
粉塵が収まると由美が暴れたエリアは完全に瓦礫だらけになっていてビル群は跡形も無くなっていた。
すると上空に自衛隊のヘリコプターが4機飛来して来るのが見えた。
「ア~ラ、やっとお出まし?」
「わたしを倒しに来たの?」
「こんなおもちゃでェ?」
「チッ!」
「舐めてんのかよ!」
「このわたしの事をさぁ!」
いきなりふざけた口調からイライラし始めた彼女。
「見てなさい。」
すると彼女は両手で頭を覆うとしゃがみ込んでしまった。
「ごめんなさい!」
「もうわたし、暴れませんから。」
「許してください!」
消え入りそうなか細い声で懇願する彼女。
まるで子供のように怯えた表情だ。
そして今にも泣き出しそうな顔で上空をチラリと見た彼女。
「今すぐに、降伏しなさい!」(自衛官)
由美の言葉をそのまま信じ込んだ自衛隊のヘリコプター部隊は上空から拡声器で由美に向かって呼び掛けている。
「降伏しま~す!」
「だから撃たないで。」
「わたしは、女の子だから、」
「これ以上、悪い事はしませ~ん。」
「ちょっとイタズラしちゃいましたぁ。」
「もう暴れないって、誓いま~す。」
すると警戒しながら上空に待機していたヘリが高度を下げ始めた。
由美の頭の上に差し掛かった時だった。
いきなり立ち上がった彼女。
「舐めてんのかよォ!」
「オラッ!」
“グシュッ!”
左右の手で2機のヘリのテールブームの部分をガッチリと掴んだ。
ローターブレードが由美の手の甲の部分に当たって弾き飛ばされた。
革製のロング手袋を嵌めた彼女の手は無傷で少し汚れが付着しただけだった。
「捕まえたぁ!」
「ほんと、ウザいのよねェ。」
「コイツらってェ。」
「わたしの大事な手袋が汚れたじゃないよォ。」
「どうしてくれんのよォ。」
「ホラァ!」
“ヴイン、ヴイン、ヴイン!”
「それ~!」
“パッキュ~ン!”
“ヴォーン!”
「やったね!」
「イェ~イ!」
左右の手でガッチリと掴んでいたヘリを残りの2機目掛けて投げつけた彼女。
彼女の手を離れた瞬間に2機ともバラバラに空中分解してしまった。
彼女に握り潰された2機のヘリの残骸と破片が僚機に当たると2機とも煙を吹きながら墜落し始めた。
「そ~れっと!」
“パコーン!”
「えい!」
“パキーン!”
フラフラしながら地面に激突する寸前に由美のブーツのつま先がすかさず蹴り上げる。
ひとたまりもなく粉々に砕け散った2機のヘリコプター。
乗員もろとも空高く飛び散っていった。
「ザマァ、見ろっつーの!」
「わたしに逆らうとこうなりま~す!」
「よ~く、覚えておく事ね。」
「いいこと!」
「わかったかしらァ!」
勝ち誇ったようにせせら笑う由美だった。