第178話・これからが本番だから!
「ごめんねェ、わたし、」(由美)
「こんな事、ホントはしたくないんですぅ。」
「でもでも~、リリアさんがやれって言うからァ。」
「仕方なくやりま~す!」
「覚悟はいいかなァ?」
「ソ~レっと!」
“ジュヴォッ!”
大桟橋を客船ごとメチャメチャに破壊し尽くした由美。
今度は目の前に建っている10階建ての産業貿易センタービルにブーツのつま先を突き刺した。
「お邪魔しま~す!」
“ジュヴォジュヴォジュヴォジュヴォッ!”
突き刺したブーツのつま先を無理矢理グリグリとねじ込んでいく彼女。
薄汚れた白いロングブーツのソールの部分から筒の部分までがみるみる内にビルの外壁をこそげ落としながら食い込んでいく。
ベージュのロング手袋を嵌めた左右の手はしっかりとビルの屋上を掴んでいる。
体勢を前かがみ気味にしながら、彼女の右足はまだまだビル内に食い込み続けている。
すると、彼女のジーパンの膝のあたりがビル内に入り始めた時だった。
“ジュヴァッ!”
どす黒く汚れたブーツのつま先部分が反対側の外壁を突き破ってにょっきりと顔を出した。
「アラッ、わたしのブーツがァ、」
「こんにちは!・・みたいな。」
「アッハッハッ!」
「マジでウケる~!」
彼女は左足を軸足にしてちょうど上半身がビル全体に覆い被さっているような姿勢だった。
もちろん左足のブーツの靴底は三角屋根のレストラン街入り口を完全に踏み砕き、10cm以上陥没させながら踏ん張っている。
「なんか、わたし、」(由美)
「このビルと一体化してるって感じがするのよねェ。」
「ビルの中のみなさ~ん!」
「もうパスポートは受け取りましたかァ?」
「あらあらっ、なんかヤバい事になりそう・・。」
巨大な由美の体がビル全体に凄まじい負荷をかけ続けたせいで、建物全体にひび割れが起り始めた。
すでに限界を超えていたのだろう、もの凄い黒煙と共に由美の体ごとビルが倒壊した。
「アラッやだ~!」
“ヴォッシャーン!!”
“パラパラパラパラッ!”
“ズッシーン!”
辺り一面に粉塵と細かい瓦礫の塊が降り注いでいる。
しかし由美は倒れ込む事なく、ちょうど何かを大またぎしたような姿勢で右足を反対側の道路上に着地させた。
そしてビルが崩れ始めるのと同時に両手で建物の左右の部分押し倒していた。
完全に崩れ去った産業貿易センタービルのあった場所に両足で踏ん張っている由美。
「ご、ご、ごめんネェ~!」
「ほんと、ごめんなさ~い!」
「わたし、またやらかしちゃったみたいね。」
悪戯っぽく舌を出しながらカメラ目線の彼女。
「あら~?」
「この国ってよっぽど平和なんだァ。」
「わたし達の世界ならすぐに怪獣退治の軍隊が来るのにィ。」
「パトカーが5~6台だけっ?」
「こんなに巨大なわたしに歯向かう気?」
「あらっ、わたしは怪獣じゃ、ありませ~ん!」
「これでも優しい女の子で~す。」
「女の子をイジメるような悪い人達はァ、」
「このわたしが、許しません!」
「えいっ!」
“クシャッ!”
「エイッ!」
“クシャリ!”
「エ~イ!」
“グシャッ!”
足元に待機していたパトカーを次々に踏み潰す由美。
「なんか、踏み応えがありませ~ん!」
「マジで、わたしに逆らってるつもりなの?」
「ありえないんですけど~。」
「ほらァ、コイツらもォ、」
「みんな、まとめてェ、」
「こうしてやるわァ!」
“ジュリッ、ジュリッ、ジュリッ!”
たった今踏み潰したパトカーの後方に集まっていた群衆と警官の群れを無慈悲にも彼女のブーツのソールが襲い掛かった。
「ひと踏み50人ってとこかしらァ?」
「わたし、靴底を通して踏み殺す感触を味わってま~す。」
「踏み殺すってこんな感じなんだァ。」
「なんか、思ってたよりあっさり~、」
「・・みたいな。」
「えっへっへ~。」
「笑っちゃマズかったわねェ。」
「でもこれからもっとたくさんこうしなくちゃいけないんですよォ。」
「わたし達。」
ニヤニイヤしながら横浜港を見下ろす彼女。
「それじゃあ、“進撃のわたし”、」
「再開で~す!」
“ズシーン!”
“ズシーン!”
“ズシーン!”
粉塵で汚れたジーパンやシャツを手で軽く掃いながら山下公園に向かって歩き出す由美。
道路上を容赦なく車やバスを踏み潰しながら行進している。
電線は引き千切られ、街灯はへし折られて彼女が一歩一歩進む度に海岸通りはメチャメチャに破壊されていく。
そんな光景に口元を緩めて笑いながら歩き続ける彼女。
「そうだ、これも壊さなくっちゃ!」
「え~い!」
“ズッコ~ン!”
“グッシャ~ン!”
“ヴォヴォヴォ~ン!”
歩きながら県民ホールの建物に蹴りを打ち込む由美。
わずか一撃でホールは半壊した。
「あらっ、一発でこんなに壊れちゃってェ。」
「ゴメンナサ~イ!」
もはや巨大オンナを見物しようなどと言う呑気な野次馬は一人もいない。
女の子っぽい優し気でふざけた口調とは裏腹に、徹底的に街を破壊し始めた彼女。
もう誰も由美を止めることはできなかった。
「お次はどの建物をぶっ壊してさし上げようかしらァ?」
「このニューグランドってホテル、壊すのには惜しいかも・・」
「でも戴いちゃいま~す!」
「そりゃ~!」
“ズッヴォーン”
老舗の高級ホテルの天井に由美の巨大なロングブーツのヒールがヒットした。
強烈なカカト落としを喰らわしたのだ。
彼女の薄汚れた白いロングブーツがホテルの建物を切り裂くように粉々に粉砕した。
「ほらっ!」
「そ~れっと!」
“ズゴッ!”
“ガッシャーン!”
中心が粉砕され、残った左右の部分をブーツの靴底で蹴り倒した彼女。
「わたし、」
「悪いなんて思ってませんからァ。」
「でもでも~、」
「ほんと、ごめんなさな~い!」
いつもの口調で“ごめんなさい!”を繰り返す由美。
これもわたしへの当てつけなんだと思ったわたしだった。