第173話・神話と現実のはざまで・・
古文書のデータを見ながら里美とヘレンが英語で意見交換しているようだった。
1時間ほどしてやっと一段落したのだろう里美がわたし達の方にやってきた。
「ごめんなさい、お待たせしちゃって・・。」(里美)
「いろいろと面白いことが分かったわ。」
「1階のカフェに行きましょう。」
そういうとヘレンを呼んでわたし達を連れてエレベーターに向かう里美だった。
1階のカフェで注文を終えると里美が話し始めた。
「あの本は古代マケドニアの伝道書なの。」(里美)
「わたし達は姉妹鏡の伝説に関して古代バビロニア帝国から伝わるものって事は知っていたけど・・。」
「実は、紀元前1300年頃のバビロン第3王朝の頃にこの伝道書が書かれて、それが伝道師によって代々引き継がれてきたみたいなの。」
「わたし達がさっき見た伝道書は何代目なのか不明だけど、何百年か前の伝道師によって書かれたものらしいわ。」
「バビロニアから何かの理由で紀元前700年頃に古代マケドニア王国に渡った可能性があるみたいなの。」
「なんか、ぴんと来ないんですけど、相当昔ってことですよね。」(わたし)
歴史には全く疎いわたしは自分の無知を恥ずかしく感じていた。
「今からざっと3300年前の事だから相当昔ってことは間違いないわよ。」(里美)
「さて、ここからが本題なんだけど・・。」(里美)
緊張のあまりわたしは唾を飲み込んだ。
「あの伝道書にはいろいろな事が書かれているんだけど、わたし達の知りたい部分が正にあのデータの中にあったわ。」
「あの本の中に“天空からの使者”という項目があって、そこにいろいろと興味深い事が書かれているのよ。」
「わたしはこの項目に関しては神話というよりは伝承だと思っているの。」
「要するにはるか古代の地球にやってきた宇宙人の話ってことなのよ。」
「え~!宇宙人なんですか?」(わたし)
わたしもエリカもびっくりしてしまった。
でも里美もヘレンも極めて冷静そのものなのだ。
「無理もないわ、いきなり宇宙人なんて言われてもね。」(ヘレン)
「でも、わたし達は宇宙人の存在も視野に入れているのよ。」
「そうなの、それであの項目の部分だけで30ページ位に渡って書かれているんだけど、その大半はどうも天空からの使者、つまり宇宙人によって地球に伝えられた科学技術の事が書かれているのよ。」(里美)
「でも、古代の地球人にはその技術を具体化する文明も科学技術力も無かったから、単なる伝道書の一節に留まってしまったって事なのよ。」
「宝の持ち腐れって事ですね。」(わたし)
「まあ、そういう事ね。」(里美)
「ところで、あの姉妹鏡の事が2ページに渡って具体的に書かれていたわ。」
「でもあの頃地球にやってきた宇宙人の間でも神話のようなもの、だったみたいなの。」
「え~、そうなんですか。」(わたし)
「わたしはてっきり、宇宙人の科学力で人間を巨大化させたって思ってました。」
「どうもそうではなさそうなのよ。」(里美)
「だから姉妹鏡の事はわずか2ページしか書かれてなくて、しかもこれは宗教的な神話、と書かれていたわ。」
「どうやら、わたしが推測するに宇宙人の間でも何か宗教のような儀式があって想像を超えた力が作用する何かを封じ込めたのがあの姉妹鏡みたいなの。」
「元々彼らは何か別の媒体を使って儀式を行っていたらしいけど・・。」
「この地球に布教するために、地球のモノの形、例えば手鏡とかにして残していったと書かれてあったわ。」
「じゃあ、あの鏡は地球のものではないんですね。」(わたし)
「そういう事になるわね。」(里美)
わたしは思わずバッグの中のあの手鏡を握りしめていた。
「あの手鏡を分析してみるとどうなるんですかね。」(わたし)
「それは、是非ともやってみたいと思っているわ。」(ヘレン)
「これなんですけど・・。」(わたし)
わたしはおもむろに手鏡を取り出してヘレンに見せた。
「ちょっと!これ、本物なの?」(ヘレン)
とても驚いた表情でわたしの手の中の手鏡を凝視する彼女だった。
「いやだ、里美ったら、早く言ってよ!」
手鏡を渡すとまじまじと見入るヘレン。
「まさか、あなたがここに来てるとは思ってなかったから・・。」(里美)
「ごめんなさい。」
「いいのよ、でも本物に出会えるなんてわたし、本当に嬉しいわ。」(ヘレン)
「ところで、この手鏡は姉妹鏡2つ揃って初めて儀式に使えるみたいなの。」(里美)
「残念ながら、その儀式の内容については詳しく書かれてなくて鏡の重要性と注意点が細かく書かれていたわ。」
「因みに、手鏡に彫り込まれた呪文を使って魔界の扉を呼び出した人はこれまでにいなかったみたいなの。」
「えっ、じゃあわたしが初めてなんですか?」(わたし)
「そう、そしてリリアが2人目って事になるわね。」(里美)
わたし達の会話を聞いて通訳していたエリカもヘレンも驚いたような表情になっていた。
「えっ、どういう事、里美?」(ヘレン)
「律子さん、この手鏡で魔界の扉を呼び出した事があるの?」
もう隠してはおけない状況になってしまったわたし達。
里美も少し戸惑いを感じているようだった。
わたしは先生の暴れっぷりを話そうとは思わなかった。
次話の発表は5月21日(日)0:00です。