第172話・図書館で見つけた伝道書とは?
翌朝、わたし達はホテルのレストランで朝食を食べていた。
「こんなホテルに泊まれるなんて、感激です。」(わたし)
「あら、海外は初めてなのね。」(里美)
「そうなんです、だから今もわたし、わくわくしてます。」(わたし)
「ところで、その図書館はここから近いんですか?」
「近いですよ、車で10分位の場所にあります。」(エリカ)
「ここの国立図書館には古文書資料室があるんですよ。」
「国内外からいろんな資料が持ち込まれたり、閲覧する研究者が来たり、」
「何か、手掛かりが見つかるといいですね。」
「そのために、わざわざ来たのよ、ここまで。」(里美)
わたし達は朝食を済ませるといよいよエリカの運転する車に乗って図書館に向かった。
程なく、何となく見覚えのある景色の中に到着したわたし達。
建物の正面にやって来て、わたしは思わず息をのんだ。
“この間、わたしが壊しちゃった建物だわ・・。”
心の中でそうつぶやくわたし。
巨大化したわたしが誤って倒れ込んで壊してしまった右半分の建物はちゃんと建っている。
「律子さん、覚えてるんじゃない?」(里美)
「先生、やめて下さいってば・・。」(わたし)
「あら、ごめんなさい!」(里美)
「悪気は無いのよ。」
「でも、わたしもちょっとびっくりしちゃったわ。」
「えっ、何の話ですか?」(エリカ)
わたし達の会話に付いてこられずぽかんとする彼女。
無理もない、彼女にはわたし達が別の世界で巨大な体で暴れた事など言えるはずも無かった。
「何でもないのよ、気にしないで。」(里美)
そう言うとスタスタと歩き出す里美だった。
正面玄関を入って受付で手続きを始める里美とエリカ。
英語すら解らないわたしが、ドイツ語なんて理解できるはずもなくただただ天井を見上げるばかりだった。
それにしても、向こうの世界では正義の味方を気取って暴れ回っていたわたし達。
本物のドイツという国に来てみると、街並みは美しくヨーロッパで最も経済力のある繁栄した国だってすぐに実感できた。
何だか、今まで自分達がしてきた事が本当に後ろめたく感じられてきて少し自己嫌悪気味のわたし。
「律子さん、はいこれ、入館証。」(里美)
「手続きが済んだから入るわよ。」
「はい、先生。」(わたし)
「ところで、この建物の右半分はどんな施設なんですか。」
「わたし達が彼から聞いた通り、国立図書館は左側で3階に古文書資料室があるそうよ。」(里美)
「建物の右半分は教育関係の行政府が入っているみたいだわ。」
彼女の説明を聞きながら正面のエレベーターで上層階に上がっていくわたし達。
エレベーターのドアが開くと、そこに初老の女性がいた。
「あら、ヘレンじゃない?」(里美)
里美が英語でこの女性に話しかけた。
「あら、里美?」(ヘレン)
「久しぶりじゃないの!」
わたしは英語も解らないのでエリカが通訳してくれた。
どうやら、里美と同じ研究をしているアメリカ人の大学教授だと教えられた。
「ヘレン、彼女はわたしの友人で藤森律子さん。」(里美)
「エリカの事は知ってるわよね。」
「もちろんよ、あなたの極めて優秀なアシスタントでしょ。」(ヘレン)
「初めまして律子さん、わたしはヘレン・ミルズ、」
「ハーバード大学で歴史学を教えているの。」
「こんにちは、わたしは藤森律子です。」(わたし)
「わたしは単なる里美先生の付き添いなんです。」
場違いな気がして声のトーンが下がってしまうわたし。
でもヘレンはとても気さくで優しい感じの女性だった。
実はヘレンもこの間のリリア達の日本襲撃を目の当たりにして、ここに手掛かりを探しに来て偶然わたし達と出会ってしまったようだった。
彼女は数日前から来ていて、いろいろと新しい情報をゲットしたらしく、これから少し休憩がてら1階のカフェに降りていくところだった。
「え、どんな事が分かったの?」(里美)
「ホントに?」
「わたし達も見たいわ、それ。」
ヘレンによれば古文書を片っ端から閲覧し始めて今日で3日目、興味深い記述のある古い本を見つけたというのだ。
早速わたし達をその本のあるコーナーに案内してくれるという。
わくわくして居ても立っても居られない様子の里美。
そしてわたしもリリアの事がずっと気になっていたから興味津々だった。
資料室の奥の部屋に通されたわたし達。
壁一面に古い本がズラリと並んでいる。
この奥の部屋だけで数万冊はあるのかもしれない。
どれも古くて触ると崩れそうな位古い本もあった。
「ここの本は実際に触ることはできないのよ。」(ヘレン)
「その代わり、全ての本がデジタル保存されていて、あそこのコンピューターで閲覧ができるの。」
随分と便利な時代になったものだ。映画などではよくこんな図書館で何時間もかけて本を探すシーンを見たことがあるのに・・。
これらの本や資料は年代別やジャンル別などいろんな検索方法で探すことができるらしい。
原本はもちろん古代の言葉、ラテン語やアッカド語など多種多様な言語で書かれている。
それが英語で検索ができるからそれだけでも探す時間が大幅に短縮できるのだ。
そんな環境でもヘレンは3日間かけて検索していたらしい。
「わたしが興味を持ったのはこの本のこの部分なの。」(ヘレン)
彼女がPCで開いた画面にはキリル文字が並んでいた。
もちろんわたしには読めないが、里見が食い入るように読んでいる。
「先生、これどんな言語で書かれているんですか?」(わたし)
「ギリシア語だわ。」(里美)
「古代マケドニア王国の伝道書よ。」
「ちょっとわたし達に時間を頂戴!」
ヘレンと何やらボソボソと話しながらゆっくりとページを読み進めていく里美。
いろいろと興味深い事が書かれているようだった。
わたしとエリカはすることも無く、そばにあったソファに腰を下ろして彼女達の分析が終わるのを待つしかなかった。
次話の発表は5月14日(日)0:00です。