第170話・冷静になりなさい!
「みんな、ごめんなさい!」(わたし)
「せっかく、大暴れしに来たのに・・。」
「でも、リリア達の殺戮を見て、わたしは戸惑い始めているんです。」
「今まで、わたし達がしてきた事が、本当に正しかったのかって・・。」
浮かない顔のわたしを見て、すっかりブルーな空気に包まれたアラフォーオンナ達。
「わたし達の目的をもう一度冷静に考えましょう。」(サット)
「わたし達は無差別に町を襲撃するために来たんじゃないよ。」
「でも、この町って、わたし達の敵、ナチスの町でしょ?」(なーこ)
「わたしは、彼らの降伏なんて認めたくありません!」(かーこ)
「せめて、この一帯だけでも破壊させて下さい!」(なーこ)
「わたしも、そう思う!」(かーこ)
「2人とも、やめなさい!」(くーこ)
「そうよ、わたし達のマスターは律子さんなんだから。」(りっつん)
「2対2か・・。」(サット)
「じゃあ、わたしは決めた!」
「今日は、これで終わりにしましょ。」
「先生、ありがとうございます!」(わたし)
いきり立つ2人を何とかなだめたわたしと里美。
残り時間は10分程になっていた。
「ところで、この町には警備の部隊はいないんですか?」(わたし)
「この町は学術都市なので、軍事的には殆ど重要ではないんです。」(通訳官)
「正面のビルも、考古学などの蔵書が収蔵されている帝国図書館が入っているんですよ。」
「わたし達、ナチスの旗が掲げてあるから、てっきり司令部だと思ってました。」(くーこ)
「一応、帝国の施設なので旗と最低限の警備小屋はありますが、警備隊員も全部で40名ほどしかいません。」(通訳官)
「そう?それってフェイクかもよ。」(なーこ)
「本当に図書館なのか・・。」
「わたしが、確かめてやるわ!」
“ズッシーン!”
“ズッシーン!”
そう言うと、奈穂子は大股でわたしの横をすり抜けて帝国ビルの正面に躍り出た。
「ちょっとォ!何すんのよ!」(サット)
「こうしてやるのよ!」(なーこ)
「エイッ!」
“ズヴォッ!”
奈穂子の右脚が帝国ビルに掲げてあるハーケンクロイツの旗もろとも外壁に突き刺さった。
「コノ~!」
“ズヴァッ!”
“パラパラパラパラ!”
テカテカに光ったブロンズエタンのレインブーツがビルの外壁を切り裂き、そのまま瓦礫を撒き散らしながら振り上げられた。
そして大きく蹴り上げられた美脚をそのまま残ったビルの天井部分に直撃させてトドメの一撃を食らわせようとした瞬間だった。
「やめて~!」(わたし)
そう叫びながら、わたしは菜穂子の右足に組み付いていた。
「きゃ~!」(なーこ)
「ナニすんのよ~!」
そう言いながら体勢を崩して倒れ込む菜穂子。
“ズッヴァーン!”
幸い菜穂子の巨体はビルと反対側の庭園に倒れ込んだ。
ところが・・。
「あ、あぁ~~!」
“ヴォッシャ~ン!”
わたしの方があろうことか、バランスを崩して建物の方に倒れ込んでしまった。
“ヴォヴォーン!”
「ご、ご、ごめんなさ~い!」
派手に倒れ込んで、帝国ビルの右半分をメチャメチャに壊してしまったわたし。
「ホントにごめんなさい!」
「ワザとじゃないんです。」
そんなわたしを見て薄ら笑いを浮かべる菜穂子と香代子。
「ナニ、笑ってんのよ!」(くーこ)
久美子が少し怒った口調で注意する。
「みんな、わたしを見なさい!」(サット)
今度こそ、低い声で怒りを露わにする里美だった。
「ごめんなさい。」(なーこ)
「つい、調子に乗っちゃいました・・。」
さすがにマズいと思ったのか、消え入りそうな声で謝る菜穂子。
香代子もうつむいてしまった。
「あっ!大丈夫かしら。」(わたし)
わたしはとっさに菜穂子に向かっていったから、右手の平に乗せていた3人を掴んだままだった。
恐る恐る右手を開くわたし。
踏ん張った分、手にも少し力が入ってしまっていた。
もしかしたら、3人を握り潰してしまったかもしれない。
「ごめんなさい!」
そう言いながら右手の平を見ると、軍人の持っていた白旗はへしゃげて折れ曲がっていたが、3人ともまだ生きていた。
ただし、軍人の男は骨折したらしく立てない状態になっていた。
「本当に、ごめんなさい!」
気を失っていた3人はようやく意識を取り戻した。
「早く、手当をしてあげて下さい。」
わたしは3人をゆっくりと地面に下ろし助けを求めた。
警備隊の兵士が担架を持ってやって来るのが見えた。
わたしは体中の粉塵を払いながらやっとのことで起き上がった。
「これは奇跡かもしれません。」(通訳官)
「えっ、どうして?」(わたし)
「わたし、たった今メチャメチャにしちゃったんですよ。」
「右側の建物は殆どが今、空室になっていて使われていないんです。」(通訳官)
「残った左側の部分に公文書や考古学の資料や歴史書が収蔵されているんです。」
「古代の伝説や神話、伝承なんかも幅広く集められているので、助かりました。」
「もしかして、その中に古代バビロニアの伝説もあるんですか?」(サット)
「もちろん、あります。」(通訳官)
「40年前に現れた女巨神の研究が行われているんですよ。」
「まさか、あなた達では?」
意外な言葉に驚きを隠せない里美とわたしだった。
次話の発表は4月30日(日)0:00です。