第158話・無残に破壊された街
❝ジュヴォ~!❞
❝ジュリジュリジュリ~!❞
❝ジュヴォ、ジュヴォ!❞
巨大な扉に向かって歩き出すジーパンレディース達。
足元の踏み残されたビルや住宅などを丹念に踏みにじりながら扉へと向かう。
彼女達のひと踏みが大地をえぐり取り、そこに建っていたあらゆるものを粉々にして地中深くめり込ませた。
「あ~、楽しかった!」
「まだまだ暴れ足りないけど、」
「可哀想だから、今日はこのくらいにしてあげるわね。」
「ではでは~!」
悪びれた様子もなくニヤケ顔でメディアに向かって手を振るリリア。
その他のレディース達もみなニヤついた表情で焦土と化した街を見下ろしながら歩いている。
まだまだ暴れ足りないらしく足元に向かって思いっきり痰唾を吐き散らす女もいた。
巨大な扉に次々と入って行く女達。
最後にリリアが扉の中に入るとピースサインをしながら扉を閉めた。
いつものように“スッ”と消える扉。
何とも幻想的な光景だったが後に残されたのは破壊し尽された広島市街だった。
「これから市内を回ろうと思います。」
テレビの女子アナが撮影クルーと一緒に大型の4輪駆動車に乗って動き出していた。
地上の映像では建物は殆ど跡形もなく消失し、細かい無数の瓦礫が散らばっていた。
そしてあっちこっちが数メートルにわたって陥没し土肌がむき出しになっている。
地上からではよく分からないが、上空を旋回中のヘリからの映像を見れば、それが長さ100m近い巨大な靴跡であることがわかった。
「ただいま市街中心部をゆっくりと進んでいます。」
「前方に茶色い巨大な泡状の物体が地面を覆っています。」
「高さが2m位はあるでしょうか。」(女子アナ)
撮影クルー一行が発見したのはアジア系女子が吐き掛けた巨大な痰ツバの塊だった。
「何やら嫌な臭いがしております。」
「わたし達の周りの地面がかなり緩んでいます。」(女子アナ)
巨大女達が吐き出した唾が地面に浸みこんで泥沼のような状態になり始めていた。
白いレインブーツを履いてズブズブと進んでいく女子アナだったがもはや先には進めない状態だった。
「巨大女が吐き出した唾の塊と思われる物体に行く手を阻まれてこれ以上は進めません。」
「一旦中継車に引き上げようと思います。」
彼女はそう言いながらゴム手袋をはめた手で足元の泡状の液体をすくってカメラの前に差し出した。
「ウワッ、すごい悪臭です!」
思わず顔を背ける彼女。
彼女のはめているゴム手袋がじわじわと溶け始めていた。
「キャ~!何よこれ!」
慌ててゴム手袋を剥ぎ取って地面に投げ捨てる彼女。
ディレクターの命令でこの気持ち悪い液体を触るように言われたのだろうが、巨大女の体液を舐めてはいいけない。
単に臭いが強烈なだけではないのだ。
痰唾まみれのこの地区などまだマシな方だったのかもしれない。
大量の小便をまき散らされた牛田地区は想像を絶する状態だった。
踏み荒らされてメチャメチャになった市街地が黄色い小便で覆われて広範囲にわたって泥沼化していた。
重機が入って行こうとしたがすぐにズブズブと音を立てて地面の中に沈み込んでいった。
生き残った人達を救出しようと各地で懸命の作業が続けられていたが、巨大女達のツバやションベンが大きなネックになっていた。
❝わたし達も同じ事をしてきたんだわ。❞
テレビ中継を見ながら後ろめたい気分にさせられるわたし。
「わたし達もあいつらの世界に行くのよ!」
「そしてたっぷりと思い知らせてやるんだから!」
里美が立ち上がって叫んだ。
「わたし達も行くって、どこへですか?」
思わず幸代が尋ねる。
「いいこと、この律子さんは魔神鏡の女神なの。」
「わたし達は彼女と一緒にあっちの世界に行くことができるのよ。」(里美)
「ホントですか?」
「先生の研究が現実のものになるってことですよね?」
「うわァ~、すっごい!!」
里美の手を握りしめて喜ぶ幸代だった。
「わたし達もあんな風に巨大になって暴れ回る事ができるんですか?」
「わたしもついて行っていいんですか?」(幸代)
「もちろんよ!」
「いままで研究してきたことの集大成なんだから。」
「いままでに何度もトリップしては街を破壊してきたんですって、彼女。」(里美)
わたしの方を指さす里美。
「へェ~、すごいんですね。」
「わたしも思いっきり暴れてみたいです。」(幸代)
「トリップするにはジーパンにロングブーツインが基本らしいわよ。」
「あなた持ってるのブーツなんて。」(里美)
「持ってますよ、ブーツくらい。」
「それにジーパンはこれでいいんですよね?」(幸代)
そう言えば幸代の履いているブルージーンズはかなり年季がはいっていて色落ちも激しかった。
ほっそりとした体形によく似合っている。
「わたし、茶色いロングブーツ持ってます。」
「手にはゴム手袋をはめるんですか?」(幸代)
「そうそう、ゴム手袋にジーパンにロングブーツが基本なのよ。」
「わたしも家に帰って、律子さんと同じコーデにしなきゃ。」(里美)
すっかりやる気満々の彼女達。
あれだけ徹底的に破壊の限りを尽くされたのだ。
わたし達にも暴れる理由ができたんだと悟り始めていたわたしだった。