第152話・謎を解く人物現る
姉妹鏡の謎を解きたいわたし。
しかし、ネットで調べても全くヒットしなかった。
考えてみれば、どんな分野なのか見当すらつかなかった。
そんな悶々とした状態の中、休憩がてらテレビでもつけてみる。
テレビ番組は先般の “リリア襲来” の特番一色である。
ハリウッド映画を地で行くような巨大女による新宿襲撃は今世紀最大のスクープだったのかもしれない。
❝わたし達もあんな風に、メディアの格好の材料にされていたんだわ。❞
と今更ながら自分達のしてきたことの重大さをあらためて認識せざるおえないわたしだった。
そんな巨大リリア大暴れの番組では、大学教授からSF作家まであらゆるジャンルの人達が好き勝手に持論を展開している。
❝全部的外れなのに・・。❞
所詮はSF映画の世界で描かれている程度の発想でしか、みんなモノが言えないのだ。
番組の途中でリリアによる警察官殺害の一報が流れてきた。
現場からの中継で映っているのは先ほどわたし達がいた洋食屋だった。
粉々に破壊された玄関と、その前に広がる血の跡が生々しかった。
レポーターが金髪の外国人女性による犯行だと伝えている。
それが新宿を襲ったリリアと同一人物だとは誰も思っていないようだった
幸いわたしの事は報道されていない。
巨大リリア襲来のニュースに比べれば、こんな事件すぐに忘れ去られてしまうのだろう。
そして、再びテレビをつけっぱなしにしながら、わたしはネットでの検索を続行した。
考えてみれば、今まで一緒に闘ってきたジーパンレディーの友人達からは全く連絡のない状態だった。
麻美は故郷に戻ったって聞いたけど、その後音信不通になっていた。
里奈子はかなり前に、マンションを引き払ったまま所在不明になっていた。
あのドイツ人の少年と今も一緒に暮らしているのかもしれない。
りんり~ずのメンバーとは幸恵さんの一件があったから、こちらから連絡できるはずもなかった。
そして、リリンズのメンバーもどうしているのか連絡がなく、正美からも何も言ってこなくなった。
リリアがあれだけわたし達の事を悪党だなんていったから、みんな沈黙を守っているのだろう。
わたしの方からも電話どころか、メールさえ打てなかった。
ネット検索での収穫が無いまま、なんだか、ぼーっとしている内に夜になってしまった。
ウトウトしていたらすでに午前1時になっていた。
つけっぱなしだったテレビが深夜枠の放送になっていた。
見たこともないような若い男女のタレントが司会を務める深夜のミステリー番組。
この番組でもやはりリリア襲来の一件を取り上げていた。
破壊される新宿市街が何度も映し出されている。
そんな中、美しい女性ゲストが紹介された。
森之宮短大の桐越里美准教授だった。
すらりとした体形にモデルの田波涼子に似た風貌のアラフォー美人だ。
「わたしはバビロニア伝説を研究しているんです。」
「あれはアエリッシュの姉妹鏡による現象だと思います。」
里美女史の口から飛び出した言葉に、わたしは釘付け状態になった。
「古代バビロニアに伝わる伝説の姉妹鏡。」
「それがアリッシュの姉鏡とエリッシュの妹鏡なんです。」
「この2つの鏡を合わせると大変な事象が起こるとされているんです。」
「でも、まだ研究中なのではっきりした事は解っていません。」
と里美女史が続ける。
「その姉妹鏡は今どこにあるんですか?」
女性アシスタントが尋ねる。
「解りません。この話自体が神話に近い伝説ですので解明されていない事が多いんです。」
「でも突然現れた巨大な扉に巨大な人間。」
「あれは正に姉妹鏡を使った結果なんだと思います。」
と彼女は応えた。
「新宿で暴れたあの巨大な女性は誰なんですか?」(女性タレント)
「解りませんが、おそらく普通の人間なんだと思います。」
「あの鏡を使って時空を抜けてきたんでしょう。」(准教授)
❝正に彼女だ!❞
わたしは里美さんに会ってみたくなった。
そして話してみたくなった。
相手はタレントではないし、こんな深夜の番組でしか取り上げられないようなマイナーなネタに終始するような展開だ。
彼女に会う事はそれほど難しくはないだろう。
そして、森之宮短大に行って彼女に会ってみようと思った。
番組では姉妹鏡の核心には触れずじまいだった。
ひょっとしたらわたしの知りたい事まで研究されてない可能性もある。
しかし、リリアの父親は謎を解明したらしい。
とは言ってもそれはあちらの世界での話であって、こちらの世界と通じているとは限らなかった。
それでもこの先生はこの鏡の伝説を真剣に研究しているらしい。
わたしは翌日、早速森之宮短大に行ってみることにした。
とりあえずノンアポで彼女の研究室を確認してドアをノックした。
「はい!どなた様ですか?」
テレビのままの美しい彼女が部屋の中から出てきた。
「あのォ、わたしテレビで先生のお話に興味を持ちました。」
「ちょっといいですか?」(わたし)
「どうぞ、遠慮なく中で話しましょう。」
半ば強引な押しかけアポだったが、彼女は優しくそして快くわたしを受け入れてくれた。
「コーヒーでもいかがですか?」
とカップを取ろうとした彼女の前にわたしはアリッシュの手鏡を取り出して見せた。
「それって・・。」
言葉にならない彼女。
あまりの事に暫く放心状態の里美准教授だった。