第151話・あの鏡にはどんな秘密が?
彼女のジーパンのポケットから手鏡を取り出そうとした瞬間だった。
「エイッ!」
❝ヴァッコーン!❞
掛け声と共にリリアの右足がわたしを跳ね飛ばした。
数メートルは弾き飛ばされてテーブルを真っ二つに壊しながら倒れ込むわたし。
わたしの胸の辺りには彼女の右足のどす黒い靴跡がクッキリと残っている。
「ふざけんじゃないよ!」
「これを簡単に渡すわけないでしょ!」
「アンタこそ、鏡を出しなさいよ!」
そう言いながらわたしに向かってくる彼女。
「残念でした~!」
「ここにはありません!」
本当はセカンドバッグの内ポケットに収めてあったがそう言うしかなかった。
彼女にあの鏡を奪われたらマズい事になる。
「ムカツクッ!」
「ぺッ!」
苛立った表情でわたしの顔にツバを吐き掛ける彼女。
「アンタが面白半分で使ってきたあの鏡、絶対に奪い取ってやるからね。」
「アンタに踏み殺された祖父母の為に、わたしの父は生涯をかけて時空トリップと巨大化の謎を研究してた。」
「そして、ついにバビロニア伝説の姉妹鏡に行き着いたのよ。」
「この姉妹鏡を持つのに相応しいのは、このわたし!」
「アンタじゃないの。」
「そしてわたしは世界をひざまずかせる力を持ってるの。」
「分かったか!」
「わたしに逆らうんじゃねェよ!」
「アンタの鏡が手に入れば、もう怖いモノなんてないの!」
「早く持って来いよ!」
❝ドスッ!❞
「ウッ!」(わたし)
まくし立てながらわたしの脇腹を蹴りつけるリリア。
大の字に近い状態で仰向けに倒れているわたし。
左手の辺りに花瓶が転がっていることに気付いた。
「エイッ!」
❝ガッチャーン!❞
左手で花瓶をしっかりと握りしめたわたしは、レストラン中央の元卓の上に並んでいた数十個のグラスに向かって投げつけた。
まともにリリアに投げつけても、よけられるか叩き落とされるのが関の山だ。
だから、全然関係の無い方向に投げつけて彼女の注意をそらしたかった。
わたしの投げた花瓶は並べられたグラスを砕け飛ばしながら凄まじい音を反響させた。
思わず元卓の方を見入る彼女。
❝今だ!❞
❝バッコーン!❞
❝ガッシャーン!❞
❝ヴォコーン! ❞
わたしは彼女に蹴られた激痛を我慢して立ち上がると、テーブルやイスを手当たり次第にひっくり返しながら出口に向かって走り出していた。
わたし達が大暴れしたせいで、お店の中はメチャクチャである。
女性スタッフ達は怖がって奥に引っ込んでしまっていた。
そして、いつの間にか他の客も出て行ってしまっていた。
「うぜえっ!」
「コノヤロ~!」
❝バコーン!❞
❝バゴーン!❞
行く手を遮るテーブルやイスを蹴り飛ばしながら追いかけようとするリリア。
しかし、彼女が手間取っている間にわたしは路上に飛び出していた。
するとわたしと入れ違いに2人の警察官が店に向かって来るのが見えた。
きっと誰かが通報したのだろう。
警官が店の扉の前に到着した瞬間だった。
❝ガッチャーン!❞
強烈な破壊音と共にガラス製の扉をブーツで蹴破ったリリアが出てきた。
「おとなしくしなさい!」
2人の警官がリリアを取り押さえようとした。
「邪魔なんだよ!」
「コノヤロ~!」
「ドケよ!コラッ!」
❝ドスッ!❞
❝ヴァスッ!❞
❝グリグリッ!❞
素早い動きで2人の警察官に膝蹴りとブーツ蹴りを打ち込むと、倒れた彼らの顔面を渾身の力を込めて踏み付けた。
余程彼女の蹴りが効いたのか、中々立ち上がれない2人は力を振り絞って彼女の足にしがみ付いた。
「ウゼェんだよ!」
「コノッ!」
両手で2人の男の髪の毛を鷲掴みにするとそのまま引きずり上げた。
「覚悟しな!」
❝ヴォスッ!❞
❝ヴァスッ!❞
右手の男の胸に膝蹴りを一発。
更に左手の男にも膝蹴りを打ち込んだ。
遠目に見ても普通じゃない強烈な一撃にその場でへたり込む2人。
「わたしの邪魔しやがって!」
「コイツッ!」
❝グサッ!❞
❝グサッ!❞
❝グチュッ!❞
❝グチュッ!❞
怒りに任せたリリアのヒールが男達の胸元に突き刺さる。
1発目は鈍い音がして、黒いヒールがめり込むのが見えた。
そして2発目が突き刺さると、どす黒い血が噴き出してきた。
「ざまァみろ!」
「いい気味だわ!」
「フフッ!」
「わたしって、マジで強すぎ!」
怒りが治まったのか、足元に転がった2つの遺体を見つめながら満足そうにせせら笑う彼女。
「まあ、いいわ。」
「あの鏡はいずれもらうから。」
そう言うと彼女はスタスタと歩き出した。
看板の陰に隠れていたわたしには気づいていない様子だった。
彼女をやり過ごしたわたしは足早に帰宅した。
❝それにしても、どうして彼女はわたしの鏡まで奪おうとしたのかしら?❞
❝単にトリップして暴れるだけなら、既にわたしの鏡の呪文は知ってるのに・・。❞
❝何かもっと凄い魔力があるんだわ、わたしの姉鏡に・・。❞
そう考えながらわたしは自分の鏡をマジマジと見つめ続けていた。
「リリアのお父さんが研究?」
確かに彼女はそう言っていた。
ということは、わたしも調べれば何か解るかもしれない。
この姉妹鏡に隠された秘密を知りたい衝動を抑えられないわたしだった。