第149話・今、わたしの復讐が始まったの!
強烈なグリーンの閃光と共に出現した巨大な扉。
「散々暴れちゃって、ごめんなさ~い!」
「でも仕方無かったんです。」
「わたしは悪党を追ってここに来たから。」
「今日は見つけられなかったけど、今度はわたしの友達をたくさん連れて戻ってきますね!」
「復興した頃にィ、また、ひと暴れしにこよっかなァ!」
「ではでは~!」
手を振りながら扉の中に消えるリリア。
静かに扉が閉まると“スッ”と消えた。
わたし達が消える時もあんな風なんだろうな、と見つめるわたし。
それにしても、巨大女が大暴れした後の惨状は凄まじかった。
あっちこっちで炎や煙が上がり、地面には血だらけになって助けを求める人々で溢れていた。
メチャメチャに破壊された新宿の中心部一帯には死臭が漂い、リリアが吐きまくった大量の痰唾が乾いて強烈な異臭となって辺りを覆っていた。
わたし達はむせ返りそうになりながら、鼻と口をハンカチで抑えて現場から立ち去ろうとしていた。
「この人達、全部わたし達のせいでこうなったのかしら・・。」
思わずため息をつく正美だった。
わたしは正美のバイクで自宅に戻ってきた。
すっかり落ち込んだ様子の正美は、わたしを降ろすと殆ど無言で立ち去った。
自宅のベッドで横になって物思いにふけるわたし。
❝どうして?❞
突然現れて新宿を襲撃した彼女の行動がいまだにナゾのままである。
ウトウトとしている内に深い眠りについたわたしだった。
翌朝のニュースは昨日のリリア襲撃の事件で持ち切りだった。
テレビの画面には破壊を繰り返す彼女の姿が何度も映し出されていた。
得意げに都庁ビルに跨ってピースサインをだす彼女。
その後都庁ビルと共に崩壊して倒れ込むリリアの巨体が大写しになっている。
わたし達ジーパンレディーがナチの街々を破壊した後もこんな風に報道されていたのだろう。
暴れたわたし達にとっては単なるレク感覚だったが、やられた側にとってはこんなに忌まわしい記憶となって刻まれていたんだと思い知らされた。
そんな中、わたしは会社を体調不良で休むことにした。
ぼ~っとしながら公園に向かって歩き出すわたし。
家にいても悶々とするだけだから散歩に出てみた。
公園のベンチでしばらく座っていたが、また歩き出す。
程なく洋食屋さんの前で立ち止まった。
❝何か食べていくか。❞
と思いお店に入って席に着いた。
「こんにちは!」
メニューを見ていたら後ろの席から声を掛けられた。
振り向いたわたしは凍り付いた。
「わたしの事、忘れちゃった?」
声の主はあのリリアだった。
あまりの事に一瞬声も出ないわたし。
「そんなに怖がらないでよね。」
「今日のわたしはあなたと❝ほぼ❞同じサイズなんだから。」
「でも、ちょっとだけ大きいかな、わたしの方が。」
収容所の時と変わらない落ち着いた優しい口調の彼女。
やっとの思いで口を開くわたし。
「どうして?」
「どうしてわたしが悪党なの?」
疑問をストレートにぶつけてみる。
「まだわかってないんだ。」
「それもそうよねェ。」
「あんなに大きなサイズで暴れたらわかんないよねェ。」
呆れた表情で話し始める彼女。
「てかさァ、アンタは、わたしの祖父や祖母を踏み殺したんだよ。」
「アンタ達が調子に乗ってぶっ壊したブラウハーフェンの街って覚えてる?」
「ごめんなさい、それって正美達とトリップした時の・・。」とわたし。
「それそれ、30年前わたしの祖父や祖母、それに当時子供だったわたしの父があの街に住んでたの。」
「ところが、突然現れた巨大なアンタ達が理由もなく町や軍港をメッチャメチャに破壊したでしょ。」
「わたしの祖父と祖母が住んでいた家も、アンタのデッカイブーツで踏み潰されたんだって。」
「わたしの父は幸いアンタ達から逃げ延びて生き残ったの。」
「当時の様子はニュース映像で何度も見たし、父から詳しく聞いたわ。」
「ぶっ壊すのを楽しんでいたんでしょ?」
返す言葉の無いわたし。
ただただ彼女の話を聞くしかなかった。
「本当にごめんなさい。」
消え入りそうな声で謝るわたし。
「聞き飽きたってばァ、その ❝ごめんなさい❞ は。」
「わたしの一族はリトアニアからドイツに移住して平和に暮らしていたわ。」
「アンタ達はナチの奴らって言うけど、彼らとは上手く共存していたの。」
「だから、わたしはナチじゃないけどアンタ達を絶対に許さない!」
「実はわたしの父も逃げ延びて生き残ったけど・・。」
「祖父母を助けようとして負った傷が元で、5年前に死んじゃったわ。」
「全部アンタ達のせいよ!」
語気を強める彼女。
思いっきり感情むき出しで話し続ける。
「ゴメン!」
「つい感情的になっちゃったわ。」
「でもわたしの復讐は始まったばかりなの。」
「勘違いしないでね。」
「あなたを殺したりはしないから。」
「その代り、この国で思いっきり暴れて、大勢殺してアンタ達を苦しめてやる。」
「正美は正義感が強いから結構こたえてたんじゃない?」
「今回は、ほんの挨拶代わりだから。」
「次はわたしのジーパンレディー達を大勢連れてくる
から、覚悟してね。」
「言っとくけど、わたし、時代もサイズも自由にコントロールできるの。」
「これもぜ~んぶ、アンタのお陰だわ。」
彼女の意味深な言葉に聞き入るわたしだった。