第147話・まるで落ち葉の上を歩くみたい!
「ウッ、ウ~!」
「オエ~!」
黄色くネバついた痰混じりの唾に上半身を覆われた正美は苦しそうに嘔吐を繰り返す。
「大丈夫?」
「とりあえず、ここを離れましょう!」
そう言ってわたしは彼女を抱き起して、バイクを停めた方に歩き出した。
百貨店の中層階はリリアの放ったブーツによる一撃でポッカリ穴があき、辺り一面は瓦礫に覆われていた。
わたし達は瓦礫を避けながらリリアに気付かれることなく何とかルミネ前まで戻ってきた。
そして店内のトイレに駆け込んで、痰唾まみれになった顔や手を急いで洗い落とした。
「嫌だもう、まだ臭うじゃない!」
やっと吐き気が治まった正美が口を開いた。
確かに顔や手に付いた気持ち悪い液体は何とか洗い流せたが、シャツやジーパンに付着した唾は染み込んで異臭を放っていた。
「我慢するしかないわ。」
「踏み殺されなかっただけマシかもよ。」
とわたし。
「そうよねえ、いつあの女に気付かれるかと思うと本当に怖かったわ。」
と正美。
とりあえず店外に出たわたし達はバイクに乗って新宿公園の方に向かった。
「これから馬乗り体験をしま~す!」
「よいしょッと!」
半壊状態の駅前百貨店に跨る彼女。
8階建ての長いビルはリリアのジーパンにガッチリとホールドされてミシミシと音を立て始めていた。
「なんでェ?」
「わたし、まだ体重掛けてないんですけどォ!」
そう言いながら、跨ったままの姿勢で前かがみになってビル全体に抱き着くような姿勢になった。
彼女の胸が、そしてレザーのロング手袋をはめた手がビルの外壁を崩しながら喰い込んでいく。
❝ズヴズヴズヴズヴッ!❞
❝ヴォッシャーン!❞
彼女の体重を支えきれなくなった哀れな百貨店ビルはついに倒壊した。
ビルの倒壊と共にうつ伏せの状態で大の字になった彼女。
瓦礫と粉塵でシャツもジーンズも真っ白になっている。
「ゴホゴホッ!」
「ぺッぺッ!」
粉塵の煙に咳き込んでは唾を吐きながら立ち上がったリリア。
「楽しい~!」
「もう止められないわァ!」
「誰か、わたしの事を止めてみろっつ~の。」
「律子!聞いてる?」
「アンタ達が今までやってきた事だよ!」
「こんなの、まだまだ序の口だからね。」
そう言い放つと膝を高くあげて高層ビル群に向かって歩き出した。
❝ズシーン!❞
❝ズシーン!❞
❝ズシーン!❞
駅前に軒を連ねるショッピングモールや商業ビルなど林立する手頃なビルを踏み砕きながら進み続ける彼女。
「いい感じ!」
「いい感触!」
「まるで落ち葉の上を歩いてるみたい。」
❝シュヴォーン!❞
❝シュヴォーン!❞
❝シュヴォーン!❞
小振りなビルを天井から一気に踏み潰してはそのまま足を左右にスイングさせて周りの建物を蹴り崩す彼女。
新宿西口駅前から都庁を中心とした高層ビル群の前まであっと言う間にやってきた。
彼女の足元はメチャメチャになって焦土と化している。
「皆さ~ん!」
「これからわたしの回し蹴りをお見せいたしま~す!」
「カメラとビデオの準備はいいですか?」
「それではいきますねェ!」
「エイッ!」
❝ズゴーン!❞
「ソレッ!」
❝ヴァゴーン!❞
まずは手前の三角ビルに強烈な蹴りを浴びせた彼女。
ダークブラウンのロングブーツの筒の部分がビルの中層階をもろに直撃した。
更にその隣の高層ホテルには蹴り倒すような姿勢で靴底を打ち込んだ。
蹴りを浴びた三角ビルは蹴られた部分が粉々になって崩れ落ち倒壊寸前の状態になった。
また、靴底蹴りを喰らったホテルには彼女の右足が突き刺さった状態になっている。
「シブといわねェ、このビルったら!」
❝ジュヴォッ!❞い
一旦めり込んだブーツ脚を引き抜くと、改めて狙いを定めて回し蹴りを打ち込んだ。
「ホラッ!」
❝ボゴーン!❞
リリアの巨大なロングブーツの餌食になった可哀想な高層ホテル。
逃げ遅れた人々諸共、彼女の足元の道路にバラバラになって砕け落ちた。
「とにかくゥ。」
「ぜ~んぶ、壊さないと気が済まないから。」
「わ・た・し!」
ニヤつきながら次の獲物に狙いをつける彼女。
黒いガラス張りのビルにいきなり抱きついてみせる。
「こういう壊し方したのって,誰だっけ?」
❝ジュヴォジュヴォジュヴォジュヴォッ!❞
「ラブアタック!」
❝ヴォヴァーン!❞
「イェ~イ!」
ビルに抱きつくなり渾身の力で締め上げる彼女。
彼女のブーツ脚が、ジーパンが、チェック柄のシャツが、そして革製のロング手袋がビルをグシャグシャに押し潰していく。
ついにはビル全体が跡形もなく彼女の肉体に包まれながら崩壊し消滅した。
「これって、麻美の18番だっけ?」
「わたしもやってみたかったの。」
「え~っと、次はァ。」
「これこれ。」
❝ヴァッシャーン!❞
❝ジュヴォッ!❞
そう言いながら先ほど半壊にした三角ビルの上層階を手袋をはめた手ではたき落とすと、残った中層階以下の部分に跨った。
「これぞわたし流ジーパンアタックで~す!」
「エイヤァ!」
❝メリメリメリッ!❞
❝ズヴォーン!❞
「これはたしか里奈ちゃんのワザだったわよねェ?」
「わたし何でも知ってるんだから。」
「え~っと、次はァ。」
「そうそう、ビル切り裂きアタックだっけ?」
「エッヘッヘッ!」
そう言いながら悪びれることもなくわたしの破壊技を実行しようとするリリア。
わたし達の“おもしろ破壊”がこんな形で返ってくるとは思ってもみなかった。