第146話・唾とゴムの臭いにむせ返るわたし達
「なんかァ、歩く度に地面がめり込んで楽しいっつ~か。」
「綺麗な公園!」
「こういうの、グチャグチャにするのって快感かも~!」
新宿御苑に足を踏み入れた巨大なリリア。
芝生広場にどす黒い靴跡を刻み付けながら木々や池やレストハウスをつま先でなぎ払っていく。
❝ジュヴォ!ジュヴォ!ジュヴ!❞
「ホ~ラ、早く逃げないと踏んじゃうぞ!」
❝ズンズンズン!❞
公園内を逃げ惑う人達に狙いをつけてはブーツのラウンドトゥで地面にめり込ませて喜ぶ彼女。
膝を少し上げては庭園を踏み荒らしながらブーツを回転させてにじり付ける。
そして、そんな彼女から逃れようとレストハウスに逃げ込んだ家族がいた。
「そんな所に隠れても無駄よ!」
「えい!」
❝ジュヴ!❞
幼い子供連れの家族やカップル、店のスタッフをも道連れに巨大なヒールが一瞬で店を呑み込んだ。
リリアがゆっくり足を上げると、蹄鉄型の巨大なクレーターが出現し湯気が立ち昇っていた。
「ア~ラ、ごめんなさい!」
「わたしったら、間違えて踏んづけちゃったみたい!」
ワザとらしく周りに微笑みかけるリリア。
そして、御苑を踏み荒らした後は新宿駅西口の駅前広場に向かって歩き始めた。
❝ズッシーン!❞
❝ズッシーン!❞
❝ズッシーン!❞
「新宿の皆さ~ん、こんにちは!」
「わたしは正義の味方リリアで~す!」
「今からとっても楽しい事をしようと思います。」
「ではでは~!」
❝ズヴォー!❞
駅前広場にやって来た彼女は、広場中心の地下に繋がるループ路を右足で踏み抜いてねじ込ませそのまま蹴り上げた。
「え~い!」
❝ドゥッカーン!❞
「キャッはっはっ!」
「いい感触~!」
更に駅前に建つ百貨店の地下街にブーツのつま先を無理矢理めり込ませていく。
❝ジュヴジュヴジュヴ~!❞
❝ジュリジュリ~!❞
そんな彼女の破壊活動を遠目に見ながらルミネそばにやって来たわたし達。
辺りは粉塵で覆われていて、もの凄くホコリっぽい状態だった。
わたし達はバイクを置いてこっそりとビル伝いに彼女の足元に近づいてみることにした。
「ヤバいんじゃないのかなあ。」
と正美が少し尻込みし始めた。
しかし、わたし的には今までわたし達がしてきた事を地上の側から体験してみたい気持ちでいっぱいだった。
❝巨大になって暴れている足元はこんなヒドい状態だったんだ。❞と実感した。
「今から、皆さんに素晴らしいプレゼントを差し上げま~す!」
「それはァ、わたしのプレミアムな痰ツバになりま~す!」
「カッカッ、カァ~、ぺッ!!」
「べッ!べッ!ペッ!」
❝ズリズリッ!❞
百貨店のエントランス付近に痰唾を吐きまくる彼女。
きっとわたし達の唾責めを真似しているのだろう。
吐き散らかされた彼女の痰唾はつま先で地面になすり付けられて、ヌルヌルベトベトな状態になっているのが分かる。
店頭のショーウインドウには巨大な白濁色の泡状の唾の塊が無数に付着している。
なすり広げられた痰唾はまるでオイルのようにネバついている。
「ど~お、わたしのタンツバ!」
「いい匂いでしょ!」
「フゥ~!!」
ニヤつきながらしゃがみ込んで痰唾スポットに向かって息を吐き掛ける彼女。
少し酸味混じりの生臭いリリアの口臭が辺り一帯を覆い尽くした。
そしてガラスに付着した唾塊や地面にへばり付いた痰唾を一瞬で乾燥させ始めた。
すると一帯は“ツ~ン”とした強烈な唾の臭いに覆われた。
「もっとなすり広げてあげるわね。」
「そ~れ、それそれ~!」
❝ズルズルズルッ!❞
ブーツの靴底裏のゴムの部分を唾池の上で何度も滑らせる彼女。
乾いた唾の臭いに混じって靴底のゴムの臭いもプンプン臭ってきた。
普段わたし達が少し臭うと感じるレベルの臭いでも小人レベルになると強烈だった。
「ウワ、何このニオイ!」
「ゴホゴホッ!」
正美が思わず咳き込んでいる
あまりにも強烈な異臭に正美もわたしもむせ返っていた。
ナチの小人相手に唾責めを思いっきり楽しんでいたわたし。
実際に責められる小人達にとっては生き地獄そのままだったのだろう。
リリアの痰唾池が20m程先にある状態でもこれほど臭うのだから皮手袋の上に乗せられて唾で弄ばれる兵士達の苦痛は尋常ではなかったはずだ。
「わたしのツバ、楽しんでもらえたかしら?」
「それでは、秒読みを開始しま~す!」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「それっ!」
❝ズヴォーン!❞
カウントダウンと共に百貨店にブーツ蹴りを打ち込む彼女。
わたし達は瓦礫の下敷きにならないように走り出した。
すると正美が唾の塊に足を取られて転倒する。
「アッ!」
わたしもほぼ同時にネバついた地面に滑って転びそうになったが右手をついて転倒はさけられた。
だが、手をついた所にあった泡の塊を掴んでしまう。
「あァ~、気持ち悪い~!」
素手でリリアの口から吐き出された唾を掴んでしまったわたし。
「ウワッ、サイアク~!」
ヌルっとした生温かい感触と強烈な唾特有の臭いが右腕にへばり付いてしまった。
正美の方を見ると、転んだ拍子に痰唾池に上半身を突っ込んでしまっていた。
「大丈夫?」
と言って彼女を抱き起しに行くわたし。
リリアの吐いた女子唾まみれになったわたし達は、さながら生きる屍のようだ。
強烈な悪臭に包まれた正美は嘔吐寸前だった。