第145話・隠れてないで、出てきなさい!
若者の街原宿、竹下通りは阿鼻叫喚の世界に変わっていた。
「わたしはジーパンレディーよ!」
「ジーパンにロングブーツインスタイルの正義の味方なの!」
「てかさァ、わたしが正義のヒロインってことはァ・・」
「アンタ達は悪党ってことかよ?」
❝ズッシーン!❞
❝ズンズンズン!❞
「アッハッハッ!」
「マジで楽しい~!」
自分を正当化しながら足元の人達を容赦なく踏みにじり回すリリア。
「わたし達の街を破壊した奴、早く出てきなさい!」
「え~い!」
「これでもか!これでもか!」
❝ズヴッ!ズヴッ!❞
❝ジュリ~!ジュリ~!❞
明らかにわたし達の事を探し回っている口ぶりの彼女。
❝ていうか、なんであの子、わたし達の事をそんなに憎んでいるんだろう?❞
とふと疑問がわいてきた。
収容所では一緒にナチの奴らをやっつけた仲なのに。
いくら相手がナチの連中とは言え、少し残虐な印象だった彼女。
わたし達を攻撃する理由が思い当たらないからだんだん混乱してきた。
「出てこないと、もっと暴れるよ!」
「ホラァ、律子に正美にあと何だっけ?」
❝ズッヴーン!❞
❝ズヴォ!ズヴォ!ズヴォ!❞
原宿の街を踏み砕きながら歩き回る彼女。
「アラ? 何よこれ!」
「これって、神様?」
足元の神社を見つけてマジマジと見つめる彼女。
「てか、神様はわたしだよ!」
❝ジュヴォッ!❞
❝ズリッ!ズリッ!ズリッ!❞
神社の社殿を踏みつけると、そのままグリグリとブーツを回転させながら踏みしだく。
木造の社殿はひとたまりもなく踏み砕かれて粉々になって彼女のブーツの靴底に呑み込まれていった。
❝ピンポーン!❞
わたしの部屋に誰か来た。
それは正美だった。
ドアを開けて彼女を中に入れるわたし。
「どういう事なの?」
「さっき、わたし達の名前を口走っていたわよねェ。」
血相を変えてまくし立てる彼女。
「わたしも理解不能なの。」
「どうして、リリアがわたし達の事を憎んでいるのか・・。」
と怪訝そうな表情のわたし。
「わたし達の事を名指しって事は、あの港町と関係あるのかも。」
「きっとそうよ。彼女はわたし達に復讐しようとしてるんだわ。」
と正美。
確かに、わたしとリリンズのメンバーが一緒に暴れたのはあの軍港破壊の時だけだからと思った。
「でも、アレって年代的には今から30年前ってことでしょ?」
「あの子、まだ生まれる前じゃん!」
「なんでェ?」
とますます疑問だらけの正美。
「わたし達が今出ていかないと、彼女を止められないわ。」
と続ける。
「何言ってんのよ!今出ていったら踏み殺されるだけだよ。」
「こっちの世界ではわたし達はフツーの人なんだから。」
と変な正義感むき出しの彼女を諭すわたし。
❝ズズズズリ~!❞
踏み砕いた社殿諸共、弧を描くようにブーツを滑らせる彼女。
「神様をいたぶるのってこんなに楽しいんだ!」
「やったね!」
「いぇ~い!」
神社の庭園を踏み荒らしながらピースサインを決める彼女。
「あっちに、高いビルがたくさん並んでるわねェ。」
「今度はあそこをぶっ壊しに行こうかなァ。」
新宿の高層ビルを見ながら唇に人差し指を当てる彼女。
原宿駅前はリリアのブーツの巨大な靴跡で埋め尽くされていた。
すでに1000人以上の人達が犠牲になっただろう。
❝ズッシーン!❞
❝ズッシーン!❞
❝ズッシーン!❞
「ホラホラァ、早く逃げないと踏み潰すわよ!」
そう言いながら、家々を、道路をそして公園を踏み潰しながら新宿エリアに向かって進撃を開始したリリア。
「何これ?邪魔くさい!」
「死ねよ!」
❝ヴァコーン!❞
❝ヴォヴォーン!❞
行く手を遮っていた首都高速を蹴り上げる彼女。
走っていた車と共にバラバラになった高架道路が空中高く舞い上がる。
「イェ~イ!イェイイェイ!」
「宇宙の果てまで飛んでけ~!」
❝ヴァシュ~ン!❞
❝ヴォーン!❞
面白がって首都高を破壊した端から次々と蹴り上げる彼女。
ブーツのつま先が道路を砕き飛ばしながら振りあがる。
「小人の街で暴れるのって、こんなに楽しいんだ!」
「わたしィ、病みつきになりそうデ~ス。」
「日本の皆さ~ん!」
「本当にゴメンナサ~イ!」
「でもでもォ、わたし的には全然暴れ足りないんですゥ~!」
手を叩きながら冗談交じりの口調で破壊の限りを尽くす彼女。
首都高をあらかた蹴り散らかした彼女、更に街々を踏み潰しながらお構いなしに高層ビル群を目指して進み続ける。
とりあえず、わたしと正美は現場近くまで行ってみることにした。
今日の正美は非番らしく、紺色のジージャンを着て、いつものスキニージーンズにブラウンのジョッキーブーツを履いていた。
わたしもジーパンにいつものダークブラウンのブーツを履いて彼女のバイクの後ろに跨った。
246号線から明治通りを疾走するわたし達。
原宿が近づいてくると異臭が立ち込めていた。
何かが焼け焦げた臭いと強烈な腐敗臭がしてきた。
彼女が巨大なブーツを振り上げる度に、靴底に付着した通行人の遺体や肉片が周辺地域に無数にまき散らされていたから、人間の内臓の臭いなのかもしれないと思った。
もう誰も破壊神リリアを止めることはできなかった。
こんな事になった原因は全てわたしにある。
そんな絶望的な罪悪感でいっぱいのわたしだった。