第144話・これは正義の破壊よ!
「日本人のみなさん!」
「わたしはジーパンレディーリリアと申します!」
「こんな、大きな体でごめんなさい!」
「わたしは、みなさんを傷つけるつもりはありません!」
巨大なリリアが足元で右往左往する群衆達に向かって優しく語り始めた。
「わたしは異世界のゲルマニアという国から来ました。」
「わたしは、わたし達の町をメチャメチャに破壊した悪い奴らを追ってここに来たんです。」
「だから、わたしには悪党を踏み潰さなければいけないという、使命があります。」
「なので、みなさんの街を少し壊してしまうかもしれません。」
「本当にごめんなさい!」
「今の内にみなさん、避難して下さい!」
「でないと、わたしに踏み潰されますよ。」
急に低い声に変わったリリア。
悪意に満ち満ちていて、口元は恐ろしいくらいにニヤついている。
❝悪党ってわたし達、いや、わたしのこと?❞
と自問するわたし。
今まで正義の闘いと言いながら、面白半分に暴れ回ってきたわたしにとって、冷や水を掛けられたような彼女の言葉だった。
❝ズシーン!❞
❝ズシーン!❞
❝ズシーン!❞
進撃を開始し始めた彼女。
代々木公園の木々やベンチや噴水を踏み潰しながら原宿に向かって歩き出した。
「ほらほらァ、逃げないとぺっちゃんこになっちゃうぞ!」
「それっ!」
❝ジュッヴォーン!❞
売店の辺りに集まっていた人達目掛けて強烈な踏みを浴びせる彼女。
ゆっくり足を上げて踏み殺した人達の人数を数えている。
「30匹位かなあ。」
「まだまだ、全然足りないわ。」
「正義の闘いに多少の犠牲は仕方ありません!」
収容所で何気なくわたし達が口にしていた言い訳をそのまま皮肉っぽく繰り返す彼女。
「あ、駅があるわ。」
「電車で逃げられると困るわね。」
「えいっ!」
❝ズヴーン!❞
❝ジュリジュリッ!❞
原宿駅に目をつけた彼女は容赦なく駅舎を踏み潰した。
粉々に踏み砕かれた原宿駅にリリアの巨大なダークブラウンのロングブーツが鎮座している。
そんな中、新宿方面から山手線がやって来た。
「アラッ、電車が来たわ。」
「これに悪い奴らが乗ってたらどうしよう。」
「捕まえてやる!」
巨大なブーツのソールに向かって急ブレーキを掛ける電車の2両目と4両目の辺りを両手で鷲掴みにする彼女。
軽々と持ち上げられた電車は1両目が連結器のあたりで引き千切れて落下し、彼女の足元に叩きつけられた。
❝ガッシャーン!❞
「アラアラ、ごめんなさいネ!」
そう言いながら2両目から4両目をガッチリと両手で掴み上げた彼女。
「え~っと、いるかなあ悪い奴ら?」
「エ~イ、めんどくさい!」
❝グシュッ!❞
握りしめていた車両を力いっぱい握り潰す彼女。
革製ロング手袋をはめた彼女の両手が2両目と4両目を大勢の乗客ごとグシャリと押しつぶした。
すると3両目がそのまま真下に落下して彼女のブーツのヴァンプ部分を直撃した。
❝グッシャーン!❞
「アッハッハッ! いい感触~って感じ!」
「今ので100人位死んだかなあ?」
「いや、もっとかも~!」
「でも、まだまだ足りないわ!」
「わたしの破壊は続きます!」
「エイッ!」
❝ヴァゴーン!❞
握り潰した車両を足元に投げ捨てると、線路上に残っていた5両目以降の車両をまとめて蹴り上げる彼女。
高々と振り上げられた巨大なロングブーツによって、木っ端微塵になって舞い上がる山手線。
無数の遺体と共に車両の残骸が新宿方面に向かってばら撒かれた。
「酷い!酷すぎる!」
わたしは怒りで震えていた。
でもこれって、今までわたし達が繰り返しやってきた事だから文句は言えない。
分かっていても、目の前で殺されていく多くの人々を見ると、自己嫌悪に陥るわたしだった。
❝何とか止めさせなきゃ。❞
そう思うが、今彼女の前に出て行けば確実に踏み殺される。
とてもそんな勇気はなかった。
それどころか、わたしを踏み殺しても彼女が破壊を止めることは無いはずだと感じた。
「電車に乗って逃げようなんて卑怯な事、できないようにしてあげるわ!」
❝ジュヴッ!ジュヴッ!ズリズリッ!❞
そう言いながら線路を両足で何度もにじり付けながらグチャグチャにする彼女。
「あッ、あっちにも人がたくさんいるわ!」
「待て~!」
「逃げんじゃね~よ!」
そう言いながら今度は竹下通りに向かって歩き出す彼女。
❝ズッシーン!❞
❝ズッシーン!❞
❝ズッシーン!❞
「ウジャウジャいるわね、ほんとに~!」
❝ズブッ!ズブッ!❞
❝ズン!ズン!ズン!❞
❝ズリリ~!❞
竹下通りの商店諸共身動きの取れない群衆を踏みにじり続ける彼女。
ニヤつきながら、ブーツのつま先のあたりを見つめてグリグリとにじり回す。
「ホラッ!もっと死ねよ!」
「わたし的には、まだまだ殺し足りねェんだよ!」
「えい!えい!えい!」
❝ズッヴォーン!❞
❝ズッヴォーン!❞
❝ジュヴォーン!❞
路地裏を逃げ回る若者達を家々と共に踏み砕きながら歩き回る彼女。
その内に面倒になったのか、踏みつけるのを止めてブーツを左右に滑らせ始めた。
❝ズリ~ン!❞
❝ズリ~ン!❞
「ウッフッフ!」
「これって、マジで楽しい~!」
粉塵で白っぽく汚れたダークブラウンのアウトソールがあらゆるものをなぎ払いながら、竹下商店街を綺麗な更地へと変貌させていく。
ポッカリと出現した更地の周りには、踏みしだかれた家々の瓦礫と引き千切れた多くの遺体や肉片が山のように盛り上がっていた。
❝最悪だわ!❞
とため息をつくしかないわたしだった。